『「気候変動・脱炭素」14のウソ』を読む②

2022年09月16日 06:40
松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

ayhan turan/iStock

今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された。著者は渡辺正博士。全体は「気候変動」編と「脱炭素」編に分かれ、それぞれ7つの「ウソ」について解説されている。前稿の「気候変動」編に続き、今回は「脱炭素」編の【ウソ】と【事実】を紹介する。

(前回:『「気候変動・脱炭素」14のウソ』を読む①

【ウソ8】温暖化対策は、環境をよくするために提案された
【事実】1980年代の末、仕事の減りかけた国連の関係者と環境研究者が、次の仕事に仕立て上げた。

この章は14頁と結構長く内容も豊富で、長年環境研究に携わり、現場の実情をウオッチしてきた本書の著者ならではの迫力が感じられる。

1991年にソ連邦が崩壊し、米ソの冷戦構造が消滅したために、国連の大きな仕事(東西調停)がなくなった。1970〜80年代に先進国で猛威を振るった「公害」も、80年代末頃には一段落し、環境研究者も仕事が減りつつあった。

ちょうどその頃の1988年に、米国の公聴会でNASAの研究者ハンセンが「人間の出すCO2が地球を温めているのは99%確実」とする爆弾発言を行った。これが「地球温暖化問題」の始まり。つまり、仕事の減り始めた国連と環境研究者の両方に、巨大な仕事が舞い込んだのと同じだった。IPCCや緑の気候基金の設立などが次々と進む。

その当時のことを、本書の著者の知人(環境研究者、故人)は、こう述懐したと言う。

渡辺君・・・あれはほんとうにうれしかったよ。業務が先細りだったころ、ものすごい仕事ができたからねぇ。

これを読んで、筆者は大いに納得した。今でも、環境・気象研究者、あるいは政府関係者の多くが「人為的地球温暖化説」を、科学的には証明などされておらず本当は信用できないと内心では知っていても、表向きはこの説を正しいものとして振る舞う他はない事情が、これでハッキリと見えてくる思いがした(マスコミの宣伝洪水に騙されて、ウッカリ信じてしまっている人も多数いるだろうけれど・・)。

【ウソ9】温暖化対策には、CO2の排出削減が最善の選択だった
【事実】一部の研究者と産業界には棚ボタでも、庶民には最悪の選択だった。

温暖化は、もし実際に進行するとしても何十年以上のオーダーでジワジワ進むものであるから、人類の対処方法としては「適応」と「予防」の2種類がある。しかしIPCCなどは常に「予防」を重視し「対策」の実行を求めてきた。

この「予防」と「対策」こそ、政府機関や産業界、また研究者にも仕事のネタを与える格好の素材となった有様を、本書の著者は正確に描いている。もしも「適応」を選んでいたら、あり得なかったはずの仕事が、たくさん生まれたから。

温暖化対策関連予算は今でも年間数千億円。脱炭素には今後10年間で数兆円も使うとの報道がある。これらの原資は、当然すべて税金である。庶民には何の関係もないところで、巨額の税金が費消されているこの現実を直視しなければならない。税金を納めている我々一般庶民としても、他人事=どうでも良いこと、では決してない。声を上げなければならない。

【ウソ10】京都議定書やパリ協定は、大きな成果をあげてきた
【事実】見るべき成果は何もない。京都議定書もパリ協定も、大気のCO2濃度にまったく影響しなかった。

この章では、いわゆるCOPの内実が明かされる。ただし、このCOPは「気候変動枠組条約」の「締約国会議」のことで、実際には様々な条約(生物多様性、湿原保全、砂漠化対処、オゾン層破壊、たばこ規制など多数)ごとに「COP」が開かれているのである。つまりCOPは多数存在する。

この年中行事となった気候変動COPの内実について、本書の著者は「内容ゼロの茶番劇」と断言する。その理由を、カタチ(開催形式)と中身の両面から述べていて興味深い。特に、その中身が、温暖化対策に関わるお金について、途上国の「早くよこせ」と先進国の「ちょっと待て」の口論が主体だとの記述には、思わず吹き出してしまう。実際、その通りだから。

何万人も観光地に集まっては何日も口論を続けるお金と労力の無駄遣いを、毎年飽きもせず続けているわけだ。そしてマスコミや環境NGOなどが、何やら意義ありげな議論を続けているかのような報告を世界中に撒き散らす。実際には何の実りもない不毛な論議だったにも拘わらず。

【ウソ11】脱炭素は可能。成功すれば、温暖化の防止に役立つ
【事実】真の脱炭素は当面あり得ない。ただし脱炭素化への道が見つかれば、化石資源の寿命が延びて喜ばしい(温暖化防止効果はゼロに近い)。

本書の著者は、専門が応用化学なのでCO2関連の化学技術に関する学識は広く深い。その著者が断言するのは「豊かな暮らしは炭素(化石資源)の恵み」と言うことである。

これは歴史的に見ても現実的に正しい。産業革命以来、特に1960年代以降、人類は巨大な工業生産力を獲得して現在の高度技術社会を作り上げたが、それらはすべて、最初は石炭、後には石油・天然ガスと言う化石資源を大量消費することで成し遂げられた。

一方、脱炭素とは人間活動から出るCO2をゼロにしようとする話。CO2の根元は化石資源だから、脱炭素とは脱化石資源のことである。化石資源を使わない世界とは、産業革命以前の世界である。日本で言えば、江戸時代以前の暮らし。

現代は、当時とは人口だけでなく物流や経済活動の規模が桁違い。これを化石資源なしで維持することが、2050年までに実現するなど、現実的であるはずがない。21世紀中だって無理だろう。我々としては当面、化石資源を大事に節約しながら使うしかないのである。また幸いにして、化石資源はまだ当分枯渇しそうにない。

この章では「気分だけのCO2削減活動」にも警鐘を鳴らす。COPと同様、自らCO2を大量に排出しながら「排出削減」を訴える団体などに対して。また同様に、CO2の回収・貯留(CCS)に対しても、これが実質的に役に立たないことを指摘する。

極めて真っ当な指摘である。エネルギーもコストも散々使った末に、CO2を地下深くに埋めてしまえば「排出しなかったことにして良い」とする、何とも不可解な試みを「脱炭素の切り札」と持て囃すマスコミ論者諸氏の感覚が、筆者などには到底分からない。

【ウソ12】太陽光発電や風力発電は、国のCO2の排出を減らす
【事実】減る状況がありえたとしても、格差の拡大、電力の不安定化、環境破壊など、害があまりにも大きい。

この章で述べられている内容は、前章内で「高コストでも脱炭素を」という妄想、で述べられていたことの続きである。その中心は、太陽光や風力発電で「元をとる」ための歳月(=ペイバックタイム)の計算である。その結果は、太陽光の場合、条件が良ければ7年程度、悪ければ10〜15年かかると出る。つまり、条件にもよるが、7年以上経たないとCO2排出量を実質減らせない計算になる。

再エネ発電の経済的不利を補うために設けられた「再エネ促進賦課金」の問題点についても、指摘されている。なお、筆者らはこの「FIT制度」の不合理性を、制度の実施前から学会等で発表し論文にも書いて反対したが、すべて無視された。その後、この制度の不合理さや欠陥が筆者らの論文の指摘通りに現実化し、この制度は事実上大きく後退することになった。こうなることは、実施前から分かりきったことだったのに!

【ウソ13】電気自動車やバイオ燃料は、国のCO2排出を減らす
【事実】減らす要素は何もない。バイオ燃料やバイオ系素材は、確実にCO2排出を増やす。

本章ではまず、電気自動車(EV)の問題点が種々指摘される。いずれも、その通りと言わざるを得ない。筆者は、超長期的には化石燃料の枯渇と共に流体燃料が使いにくくなるので、自動車の電化はいずれ不可避と考えるが、今すぐ燃費の良いガソリン車を廃止してまでEVを普及させる必要は感じない。自動車の電化は、大気汚染の改善や騒音防止、安全性向上などに資する面も大きいが、バッテリー問題や「ものづくり精神」の軽視など、無視できない問題も多いからである。

この章では他に「カーボンニュートラル幻想」や「恥ずかしいバイオ燃料」などの項があり、それぞれ面白い。その内容は、かつて筆者もアゴラに何回か書いたものとほぼ一致する(「カーボンニュートラルという呪文」「CO2からバイオで燃料作るというのが筋ワルな訳」他)。

「2050年カーボンニュートラル」などと声高に唱えておられる方々、少しは現実を良くご覧になるべきでは・・?

【ウソ14】脱炭素を説く方々は、気候変動を食い止めたい
【事実】時流に乗って経済を活性化し、儲けたい。経済活性化と脱炭素は両立しないと悟るのが、社会の健全化に向けた一歩だろう。

この章の内容は、上記3行でほぼ尽きている。かつての高度成長が可能だったのは、安い化石燃料を大量に消費できたからであって、高い燃料を用いて経済成長できないことは自明のはず。産業界ならその程度は認識できるはずなのに、時流に乗り遅れてはならずの一心か、補助金に群がりたいのか、気候変動・脱炭素を口実にした利益追求がやまない。これを何とかしたい、が本書の真の狙いであろう。

本書の末尾には、参考文献と有用な情報源も記載されていて、さらなる勉強や情報蒐集に便利なようになっている。

まとめとして、本書は気候変動や脱炭素に対して正しい認識と考えを広く伝えるものであり、多くの読者に読まれるべき書籍であると思う。

 

【関連記事】
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松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

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