「気候変動の真実」から何を学ぶか⑤
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「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許しいただきたい。
(前回:「気候変動の真実」から何を学ぶか④)
「PART Ⅰサイエンス」を終えて、後半の「PART Ⅱレスポンス」に入る。前者はその名の通り、温暖化あるいは気候変動に関する科学的事実を紹介するのに対し、後者はそれらへの対応、すなわち解決策の探求である。
ただし初回に記したように、このPARTには3章しかない。これはある意味当然で、PART Iで見た科学的諸事実から判断する限り、温暖化あるいは気候変動の大部分は自然変動によるもので、人間活動の影響はごく限られていそうだとの推測に基づく限り、取り得る対策もごく限定的なものにしかなり得ないからである。
第12章「カーボンフリーという幻想」
まず最初に、温室効果ガス(主にCO2)の排出削減に関して、パリ協定をめぐる問題点が指摘される。
1)産業革命前を基準に、気温上昇を1.5℃または2℃以内に抑えるとの目標を設定しているが、温室効果ガス排出量を目標ラインまで削減できたとしても、実際の気温上昇がその通りに抑えられるか、不確実である。
2)1.5℃または2℃の気温上昇は実質的に有害だと前提されているが、多くの分析によれば、北半球温帯地域では2℃未満の温暖化はわずかにプラスの経済効果を及ぼす可能性が高い(=気温上昇が常に実質的に有害とは言えない)と。
一方、IPCCによれば、気温上昇を2℃に抑えるのが目標なら、世界のCO2排出量は2075年までにゼロに、目標が1.5℃なら、その期限は2050年である。つまり、今後30〜50年以内に化石燃料の使用を完全に断念しなければならない。しかし、世界のCO2排出量を30〜50年以内にゼロにする(「ネットゼロ」)と言うのは、どれくらい現実的なのか?(筆者に言わせれば、その排出削減量と気温変化の関係の根拠さえも確かではないのだが・・。)
本書では種々のデータが与えられているが、それらの結論としては、人口の増加や開発の推進により、主に発展途上国を中心に、エネルギー需要は2050年までに減少どころか50%ほど高まると予想される。もちろん、先進国がエネルギー消費を減らしたとしても、効果は相殺されて正味の排出量は増加してしまう。
また、これら「ネットゼロ」への取り組みには、執行メカニズムも強制力もない。すべての国が約束した削減量を合わせても、世界の排出量は2030年に10%足らずしか減少しない。ましてや2050年までに排出ゼロと言うのは困難極まりないと言う。
本章の結論として「パリ協定の2030年の目標達成を疑う理由は十分ある、世界が2075年までに排出量を実質ゼロにできる可能性は極めて低い(ましてや2050年は不可能に近い)、したがって主な対応策は「適応」になるだろう」となる。極めて当然の結論と言えるだろう。
第13章「米国は幻想を実現できるか?」
本章では、米国に話を絞り、テクノロジーや経済、政策、行動をすべて動員するとして、温室効果ガスの排出量ゼロを達成するには何が必要か検討している。同じ手法を用いて、日本についても検討できるだろう(環境白書等では一部実施しているが)。
まずは、排出分野の分析から。温室効果ガスの主な排出分野は、輸送、発電、工業生産であり、次いで農業、商業、住宅関連と続く。米国では、これらの排出源は、構成・排出量ともに、ここ30年近くほとんど変化していない。一方でその間に人口は31%増加し、実質GDPが倍増したことを考えると、エネルギー効率は向上していることになる(→日本は・・?)。
コロナによる景気減速は、CO2排出削減には大きく効かなかった。例えば2020年前半のCO2排出量は2019年前半に比べて8.8%しか減らなかったし、制限が緩むと多くの国で排出量はすぐに元に戻った。そして、エネルギーの供給構造にも大きな変化はなく、変化は極めてゆっくりと進行した。それは、エネルギーの安定供給確保や大型設備への巨大投資など、現実的な課題を乗り越えるために、ほぼ必然の成り行きだったと本書の著者は述べている。実際、そうだろう。
本章の後半では、温室効果ガス政策に必要な要因をいくつか挙げている。
一貫性:何十年という長いスパンで一貫した政策を実行し続けることができるかどうか。
意義:何が言いたいのか良く分からない一節。「石油の方が石炭より炭素原子1個当りのエネルギーが大きいから、輸送関連(石油消費が多い)よりも発電・暖房(石炭消費が多い)部門のCO2排出量削減を促す方が簡単だ」と述べているけれども、実質的な「意義」として感じられない。実は筆者は、この節に書かれていることに賛成しない。発電・暖房部門の石炭消費を抑制し、輸送部門の石油消費を抑制しないとすれば、結果的に石油の資源枯渇が早まるだけだ。石油の方が優れた燃料であることは事実だが、資源量は石炭が格段に多い。筆者の考えでは、どちらも貴重な化石燃料なのだから、両方とも大切に節約しながら使うのが本筋だと思うのだが・・?
重点化:排出量削減政策は「排出量削減」だけに重点を絞った時に最も効果を発揮するが、たの問題〜保護貿易主義、エネルギー安全保障、特定技術の推進など〜によって、排出削減策が弱まってしまうことの指摘。しかし筆者の感想としては、排出削減策がどの政策課題よりも優先されるべきとの主張の根拠は何から得られるのか?大いに疑問である。
システム思考:エネルギーはシステムによって生産・提供されるので、システム全体を俯瞰するシステム思考が重要だとの主張。これは、当然の言い分である。なお、システム思考の必要性は、エネルギーシステムだけではなく、国の各部門における生産・消費システム全体に及ぶべきものであることも言うまでもない。
効率よりもエネルギー消費削減:エネルギーを効率的に使えば、排出量は減らせる。しかし、エネルギー消費自体が大きくなれば、たとえ効率が上がっても排出量自体は増えてしまう。要するに、効率は比率、すなわち割り算の結果に過ぎないが、消費の絶対量は足し算で決まるから、現実的な対策としては絶対量の削減に力を入れなさい、と言う、これまた当然の指摘。
残念なことに、この章はこれで終わる。米国で実際に「排出ゼロ」を目指してやれることを総動員したとして、どれ位できそうかとの推測は、書かれていない。つまり、何が必要かは検討したが、その結果が実行できるかどうかは検討しなかった。
前章の内容を踏まえるならば、それはある意味自明であるとの意味だろうか・・?思えば、表題そのものが意味深長だった。「幻想を実現できるか?」って、幻想が実現するということ自体、形容矛盾に近いわけだから。
第14章「プランB」
この章では、次善の策としての「適応」と「地球工学」を合わせたものを「プランB」と呼び、検討を加えている。「地球工学」として、気象改変(人工降雨など)、大気中CO2の吸着、アルベドの増大などが俎上に挙げられるが、いずれも実行に移そうとすると、大きな問題に突きあたる。
「どんな現場実験が許されるか?」「その結果起こる出来事について、誰がどのように責任を負うのか?」「誰がそれを認可するのか?」などなど。特に、地球工学では何をやるにしても規模とコストがとてつもなく大きい点に、困難の中心がある。
結論として本章では「地球工学」について、検討に値するとは述べているが、積極的に取り組むべきとは書いていない。まあ、妥当な意見だろう。なお、筆者個人としては、地球工学にはあまり賛成しない。
本書の前半で論じられているように、1)観測されている気候変動の大部分は自然変動であり人間活動の影響は小さい(=人間の責任は小さい)、2)科学的な推論による限り、近い将来に破滅的な気候変動が起こることは考えにくい、3)将来予測に使うコンピュータ・シミュレーションの技法には、まだまだ限界が大きく信頼度が低い、の3点を考慮する限り、先が読めない大規模な人工的気候改変を実行に移す動機が乏しいと思えるからである。
そもそも、地球の気候システムの全体像がまだ分かっていないのに、人間の手で大規模に介入することが正しい選択であるかどうか? 筆者には確信が持てない。少なくとも「石橋を叩いて渡る」慎重さは求められるだろう。
残るは「適応」のみである。これは人間が長い間実際に行ってきたことなので、多くを語る必要はないだろう。気候変動が起こるとしても、100年単位で緩やかに進行する事象が多く、人間はそれらに十分対応できるし、これまでも対応してきた歴史がある。
■
以上で本書全体のレビューを終える。結論的に言えば、本書の最大の価値は「PART Ⅰサイエンス」にあり、科学の目で真実を見ることの大切さ・有用さを改めて示した書と言えるだろう。
今でもマスコミ等には、単なる「思い込み」だけで地球温暖化や脱炭素を語る論者が数多くいる。これらの人々の「思い込み」を解くことは容易でない。一種のマインドコントロールに近いから。しかし、地球環境の真実は一つしかない。人為的地球温暖化説が正しいかどうか、それはいずれ、真正科学が明らかにする。そのことを確信させてくれたのが、本書であった。
【関連記事】
・「気候変動の真実」から何を学ぶか①
・「気候変動の真実」から何を学ぶか②
・「気候変動の真実」から何を学ぶか③
・「気候変動の真実」から何を学ぶか④
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