IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内

2021年12月18日 06:40
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

Nes/iStock

欧州で旱魃が起きたことは、近年の「気候危機」説の盛り上がりに大いに火を付けた。

しかし、欧州の近年の旱魃は、自然変動の範囲内だ、とするイオニータらの論文が出たので紹介する。(論文解説記事

図1 2018年の欧州における旱魃。指数PDSIの意味については本文参照。

2013年のIPCC 第5次報告書では、旱魃が増加したという確信度は低いとされていた。

だがわずか8年後の第6次報告書では、「旱魃が増加したという確信度は中程度である」となった。そして「人間の影響がほとんどの地域の気象学的な旱魃に影響を与えたという確信度は低いが、いくつかの特定の事象の深刻さに貢献したという確信度は中程度である」「人為的な気候変動が、最近の農業および生態学的な旱魃の確率または強度の増加傾向に寄与したという確信度は中程度である」などとなっている。

しかし、イオニータ論文によれば、旱魃の指数PDSIは、過去1000年にわたって大きく変動してきた。そして現在の変動範囲は、歴史的な変動の範囲内に収まっている(図2)。

図2 中央ヨーロッパ(図1の黒線の中、ドイツなど)における地域平均のPDSI指数。青線は31年の移動平均。

PDSIとは、パルマ―旱魃強度指数と呼ばれるもの。降水量と気温の観測データから計算される。マイナスになるほど旱魃になりやすいことを示す

この研究は、複数の独立した観測データ、古気候データ(=地層中の花粉などの分析)、歴史的文献等の分析に基づくものだ。

過去約100年の1901年から2012年の間に、ヨーロッパで最も旱魃が激しかった年は1921年と1976年であった。

過去1000年で見ると、1102年、1503年、1865年、1921年の旱魃が最も激しかった。

またその間、中央ヨーロッパでは1400~1480年と、1770~1840年の2回にわたり頻繁に旱魃が起きた。

この中央ヨーロッパでの2つの大旱魃は、太陽活動が弱く黒点数が極小だったスポイラー極小期とダルトン極小期に一致しているという。

論文では、近年の旱魃は、長期的な観点から見れば、自然変動の範囲内であり、過去千年間で前例がないわけではない、と結論している。

イオニータらは、近年の人為的気候変動の影響が無いとしている訳では無い。しかし、仮に今後CO2排出量を可能な限り少なくしても、自然変動によって、欧州はかなりの乾燥に直面しうるだろう、としている。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • はじめに 欧州の原子力発電政策は国ごとにまちまちである。昔は原子力発電に消極的だったスウェーデンが原子力発電を推進する政策を打ち出しているのもおどろきだが、ドイツの脱原発政策も異色である。 原子力発電政策が対照的なこの2
  • 原田前環境相が議論のきっかけをつくった福島第一原発の「処理水」の問題は、小泉環境相が就任早々に福島県漁連に謝罪して混乱してきた。ここで問題を整理しておこう。放射性物質の処理の原則は、次の二つだ: ・環境に放出しないように
  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。 だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示
  • 女児の健やかな成長を願う桃の節句に、いささか衝撃的な報道があった。甲府地方法務局によれば、福島県から山梨県内に避難した女性が昨年6月、原発事故の風評被害により県内保育園に子の入園を拒否されたとして救済を申し立てたという。保育園側から「ほかの保護者から原発に対する不安の声が出た場合、保育園として対応できない」というのが入園拒否理由である。また女性が避難先近くの公園で子を遊ばせていた際に、「子を公園で遊ばせるのを自粛してほしい」と要請されたという。結果、女性は山梨県外で生活している(詳細は、『山梨日日新聞』、小菅信子@nobuko_kosuge氏のツイートによる)。
  • 北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
  • 菅政権の下で「2030年CO2を46%減、2050年にCO2ゼロ」という「脱炭素」の目標が発表された。 しかしながら、日本は製造業の国である。製造業は石油、ガス、石炭などを燃やしてエネルギーを得なければ成り立たない。 特
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 2月の百貨店の売上高が11ヶ月振りにプラスになり、前年同期比1.1%増の4457億円になった。春節で来日した中国人を中心に外国人観光客の購入額が初めて150億円を超えたと報道されている。「爆買い」と呼ばれる中国人観光客の購入がなければ、売上高はプラスになっていなかったかもしれない。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑