再生可能エネルギーは本当にコストダウンするか?
前2回(「ごあいさつがわりに、今感じていることを」「曲解だらけの電源コスト図made by コスト等検証委員会」)にわたって、コスト等検証委員会の試算やプレゼンの図について、いろいろ問題点を指摘したが、最後に再生可能エネルギーに関連して、残る疑問を列挙しておこう。
再生可能エネルギーの技術開発の進展によるコストダウン・シナリオは学習曲線に基づいているが、この根拠がどの程度確からしいものなのか判然としない。現に米国では風力発電のコストは近年になって上昇してきている。また、太陽光発電についても、パネルの価格は下がるだろうが、設置に必要な労務コストなどはそれほど簡単には下がらない。どこかで学習曲線が、楽観的な想定と乖離する可能性がある。
また、太陽光発電の全量固定価格買取制度を抜本的に見直したドイツで見られるように、パネルの供給コストが下がっても、その結果として導入が進めば、同制度によって上昇する電気代(国民負担)が耐えきれなくなる恐れが強い。その時点で普及への政治的推進力は、大きく減殺されるだろう。
再生可能エネルギーは、一般に普及が進むにつれて、立地条件の良い場所が乏しくなってコストが高くなっていく。水力、風力、太陽光など、その効率性がすべて自然条件に制約されているエネルギー源なのだから、それは当然である。そういう意味では、立地適地の漸減に応じて、再生可能エネルギーの効率性は下がっていくことになり、限界費用は逓増することが確実だ。
しかし、コスト等検証委員会では、こうした事情を一顧だにしていない。本来であれば、新エネは累積導入量が増えるにつれてコストが上昇していくことを、例えば階段状に示すなどの方法で、例のまとめの図に書き込んでおかなければならない。
また、コスト等検証委員会では、太陽光が代替する価値を家庭の電気代20.4円としているが、発電コストの比較をしている作業目的を考えると、これは明らかにおかしい。そうした観点から、ある研究者によると、代替されるとみなされる価値は、家庭の電気代ではなく、発電部門の回避可能原価を用いるべきであり、火力発電の燃料費相当の6円/kWh程度にしかすぎないという指摘がある。
このようにいろいろと問題点があるコスト等検証委員会だが、パブコメは試算方法自体に疑問を呈してはいけないらしいので、こうした疑問の声も簡単には委員会の場には届かないだろう。専門的な研究者が、客観的なデータに基づき、方法論を含めた意見をどんどん提出してくれることを期待している。
コスト等検証委員会に続いて、今後議論の中心の一つを占めていくのは、総合資源エネルギー調査会で行われている「エネルギー基本計画」の見直しだ。2030年のエネルギー供給構成をどのように描くかが見直しのポイントだが、これも百家争鳴状態のようである。
エネルギーミックスといえば原子力のことばかりが話題になるが、実は需要の見通しを引き下げて、成長戦略と整合が取れていないことの問題や、温室効果ガス削減目標の見直しが必然なのに、これまでの目標を前提とした地球温暖化対策税が先行導入された問題などは顧みられることが少ない。そうした点に加え、太陽光発電システムの耐久性の問題にまで視点を広げて、エネルギー基本計画の見直しが感情的な議論と希望的観測のもとに進まないように警告した論考を見つけた。
元内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)の塩澤文朗氏の次の論考だ。
一読の価値があると思う。
関連記事
-
以前、カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わないとCO2削減にならない、という記事を書いた。 今回は、中国で製造した太陽光パネルが日本に設置されるとどうなるか、
-
JBpressの記事は、今のところ入手可能な資料でざっとEV(電気自動車)の見通しを整理したものだが、バランスの取れているのはEconomistの予想だと思う。タイトルは「内燃機関の死」だが、中身はそれほど断定的ではない
-
関西電力の高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを滋賀県の住民29人が求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は3月9日に運転差し止めを命じる決定をした。関電は10日午前に3号機の原子炉を停止させた。稼働中の原発が司法判断によって停止するのは初めてだ。何が裁判で問題になったのか。
-
世の中で専門家と思われている人でも、専門以外のことは驚くほど無知だ。特に原子力工学のような高度に専門分化した分野だと、ちょっと自分の分野からずれると「専門バカ」になってしまう。原子力規制委員会も、そういう罠にはまっている
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(
-
原子力の論点、使用済核燃料問題についてのコラムを紹介します。
-
処理水の放出は、いろいろな意味で福島第一原発の事故処理の一つの区切りだった。それは廃炉という大事業の第1段階にすぎないが、そこで10年も空費したことは、今後の廃炉作業の見通しに大きな影響を与える。 本丸は「デブリの取り出
-
ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。 ガソリン価格、172円維持 岸
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間