まだない未来? — ジュネーブ・モーターショーから垣間見えたもの
(IEEI版)
100年のモーターショー、今年のトレンド
3月7日から筆者の滞在するジュネーブにて開催された100年以上の歴史を誇るモーターショーを振り返りつつ雑感を述べたい。「Salon International de l’Auto」、いわゆるジュネーブ・モーターショーのことだ。いわゆるジュネーブ・モーターショーのこと。1905年から開催されている。
3月8日付日経BPネットでは「高性能車よりエコカー?販売不振が続く欧州で自動車ショー開幕」との見出しでジュネーブ・モーターショーを紹介している。
しかし、実際に自分自身も現場へ数回足を運び(自動車に関しては素人で一般人的な感覚で)率直に言えば違和感のある見出しと感じた。(全体の様子は写真1)。
もちろん、フェラーリ初のハイブリッド車「ラ・フェラーリ」(写真2)が開幕当初からの注目を浴びていたことを考えれば、引き続き「エコ」がテーマの一つであったことは間違いない。しかし、主要な自動車メーカーのブースを見て回るに、昨年のジュネーブ・モーターショーで多く見かけた燃費比較のパネル等は目立っていなかった。
(写真2)フェラーリ初のハイブリッド車「ラ・フェラーリ」
個人的な印象の域を出ないが、昨年大々的に電気自動車の充電器と家電製品とのリンクを展示していた三菱自動車は、今年も同様の展示をしていたもののその規模は縮小されていた一方、ワゴンタイプの中型車の陳列により多くのスペースを割いていた。
ホンダもメインの展示はシビックの新型ワゴン(コンセプトカー)(写真3 中後ろに見える車体)であり2014年の欧州市場投入を睨んでの展示であった。そうした展示の様子からは、1月15日付日経電子版が伝えている「高級「アメ車」が再び主役にー北米自動車ショー」という見出しの方がトレンドを捉えていたように思える。
(写真3)ホンダのブース
エコはもう当然の必要条件
ジュネーブ・モーターショーへの出展に関与した自動車メーカー関係者何人かにそうした感想を述べたところ、「エコはもう当然の必要条件であり、むしろ、車本来の楽しさや次のテーマを押し出していく時期」といった反応があった。確かに、比較的各社が注力していた中型車の類のラインアップは非常にワクワク感を醸成していたように感じる。(注)
今から15年以上前の1997年にプリウスを発表したトヨタが今回展示場のど真ん中に展示した「i-Road」(写真4)は一つの方向性を示しているともいえよう。ヨーロッパ特有の街中の小道をスイスイと優雅に駆け抜けるイメージビデオも流されていたが、一つの生活スタイルを提案しているようであった。
(写真4)トヨタの「i-Road」
4月21日から開催される上海モーターショーのテーマは「革新?美しい生活」。一方、11月に開催される東京モーターショーのテーマは「世界にまだない未来を競え」。いずれのテーマにも「クルマ」という文字は出てこない。ちなみに前回2011年の東京モーターショーのテーマは「世界はクルマで変えられる」、前々回2009年は「クルマを楽しむ、地球と楽しむ」であった。
革新的な美しい生活とは、「クルマのない世界」というものに、「まだない未来」を暗示しているのか、双方のアジア発のモーターショーが「エコ」を超える次のテーマを叩きつけてくることを期待してやまない。
※本文中、意見にかかる部分は筆者の個人的見解であり、所属する組織等を代表するものではない。
(注)ジュネーブ・モーターショーの直後3月18日にジュネーブ日本政府代表部大使公邸にて、日系自動車企業支援のため、各国の大使や国際機関の幹部の参加を得たレセプションが開催された。筆者は当該レセプションに関与する機会を得ておりその際に関係者との意見交換の機会を得たもの。
このように政府が自動車を展示して企業支援のためのレセプションを開催するケースはあまりないようで、初回となった昨年と今年も引き続き自動車専門紙でもその様子は取り上げられた。
写真5
写真6
写真7
写真8
(2013年5月13日掲載)
関連記事
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は朗報。衛星観測などによると、アフリカの森林、草地、低木地の面積は10年あたり2.4%で増えている。 この理由には、森林火災の減少、放牧の減
-
チェルノブイリ原発事故によって放射性物質が北半球に拡散し、北欧のスウェーデンにもそれらが降下して放射能汚染が発生した。同国の土壌の事故直後の汚染状況の推計では、一番汚染された地域で1平方メートル当たり40?70ベクレル程度の汚染だった。福島第一原発事故では、福島県の中通り、浜通り地区では、同程度の汚染の場所が多かった。
-
世のマスメディアは「シェールガス革命」とか「安いシェールガス」、「新型エネルギー資源」などと呼んで米国のシェールガスやシェールオイルを世界の潮流を変えるものと唱えているが、果たしてそうであろうか?
-
福島第1原発事故以来、日本では原発による発電量が急減しました。政府と電力会社は液化天然ガスによる発電を増やしており、その傾向は今後も続くでしょう。
-
9月29日の自民党総裁選に向け、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏、野田聖子氏(立候補順)が出そろった。 主要メディアの報道では河野太郎氏がリードしているとされているが、長らくエネルギー温暖化政策に関与してきた身からすれ
-
今年も夏が本格化している。 一般に夏と冬は電力需給が大きく、供給責任を持つ電力会社は変動する需要を満たすために万全の対策をとる。2011年以前であればいわゆる旧一般電気事業者と呼ばれる大手電力会社が供給をほぼ独占しており
-
原油価格は年末に向けて1バレル=60ドルを目指すだろう。ただし、そのハードルは決して低くはないと考えている。
-
欧州の非鉄金属産業のCEO47名は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長、欧州理事会のチャールズ・ミシェル議長に宛てて、深刻化する欧州のエネルギー危機「存亡の危機」につ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間