今週のアップデート — 原発事故後の電力システムの構築(2012年4月23日)
今週のコラム・記事
1)福島第一原発事故後、日本のエネルギー事情は根本的に変わりました。その一つが安定供給です。これまではスイッチをつければ電気は自由に使えましたが、これからは電力の不足が原発の停止によって恒常化する可能性があります。
岩船由美子東京大学生産技術研究所准教授に、「2011緊急節電から2012持続可能な節電へ」を寄稿いただきました。岩船准教授はエネルギー消費の研究に加えて、節電方法などについての一般向け啓発活動を行っています。
岩船准教授は、昨年の節電は経済的・人的負担をした上で達成されたと指摘。その反省にたって、労力と効果の見合う節電方法を考えるべきであるとの意見を示しています。
2)GEPRを運営するアゴラ研究所の池田信夫所長は、書評「エネルギー問題に万能薬はない−『探求』」を寄稿しました。著名なエネルギー研究者であるダニエル・ヤーギン氏の最新刊『探求』(日本経済新聞出版社)についてまとめたものです。
池田所長は「特定のエネルギーにコミットしないで多様性を保つことが重要だというのが、本書の結論である。これは平凡だが、重要なのはアジェンダ設定である。「原子力か否か」などというのは枝葉の問題であり、「原発ゼロ」は愚かな選択だ」と、本のポイントを語っています。
3)GEPRは民間有識者と共に、スマートグリッド(賢い電力網)についての研究を進めています。東京電力がこのほど、その入り口になるスマートメーターの調達仕様を発表しました。5年間で1700万台の大規模調達ですが、専門家が分析すると、東電は自社に有利な形で、メーターの仕様を決めています。
有識者からなるスマートメーター研究会の「東京電力発注のスマートメーター通信機能基本仕様に対する意見書」、ならびにGEPR編集部による解説記事「問題だらけの東電スマートメーター発注=独占延命を図る「トロイの木馬」?−方針転換の意見広がる」を提供します。
意見書は東京電力の活動の問題を指摘した上で、抜本的な仕様の再検討を求めています。
4)GEPRはNPO法人の国際環境経済研究所(IEEI)と提携して、コンテンツの提供をいただいています。澤昭裕同研究所所長の「再生可能エネルギーは本当にコストダウンするか?」を紹介します。
今週のリンク
1)「緊急節電―電力不足を乗り切るための、節電情報ポータルサイト」東京大学岩船由美子研究室が運営しています。(現在は更新を停止中)節電・省エネを巡るテクニック、また文献情報が掲載されています。
2)電力中央研究所「節電や省エネの効果分析と方法について」同研究所のまとめている節電情報、公開論文のサイトです。企業・工場から一般家庭までの節電と省エネのノウハウが提供されています。
3)「諸外国における緊急節電の経験−IEA 報告 “Saving Electricity in a Hurry”の紹介」
電力中央研究所 社会経済研究所の木村宰主任研究員のワーキングペーパーです。IEAが電力不足に陥った国の節電対策をまとめた論文について紹介しています。
5)経済産業省「スマートグリッド・スマートコミュニティについて」経産省がスマートグリッドのもたらす社会についての動画、イメージを提供しています。
6)「日本のエネルギー戦略に関する提言」。東京大学エネルギー工学連携研究センター(CEE)第12回シンポジウム(12年1月実施)「日本のエネルギー戦略を考える」参加者有志が、まとめたものです。
多様なエネルギー源を確保し、エネルギーの経済性、安全性、環境配慮、安全(3E+S)を目指すべきであると主張しています。

関連記事
-
ESGだネットゼロだと企業を脅迫してきた大手金融機関がまた自らの目標を撤回しました。 HSBC delays net-zero emissions target by 20 years HSBCは2030年までに事業全体
-
日本経済新聞12月9日のリーク記事によると、政府が第7次エネルギー基本計画における2040年の発電量構成について「再生可能エネルギーを4~5割程度とする調整に入った」とある。 再エネ比率、40年度に「4~5割程度」で調整
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
以前にも書いたが、米国共和党は、バイデンのグリーン・ディールが米国の石油・ガス産業を弱体化させ、今日の光熱費高騰、インフレ、そしてロシア依存を招いたことを激しく批判している。 今般、ノースダコタ州のダグ・バーガム知事をは
-
気候関係で有名なブログの一つにClimate4youがある。ブログ名の中の4が”for”の掛詞だろうとは推測できる。運営者のオスロ大学名誉教授Ole Humlum氏は、世界の気候データを収集し整理して世に提供し続けている
-
「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」は
-
北海道大停電について「出力ではなく周波数が問題だ」というデマが流れているので、テクニカルな話だが、事故の経緯をくわしく見てみよう。苫東厚真の3基は一挙に止まったわけではなく、地震直後には1号機が動いていた。読売新聞による
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間