原子力を止めることの意味
ワシントンポスト紙の社説を翻訳しました。社説はネット上で公開されています。(Phasing out nuclear)
世界は、原子力発電なしで、地球温暖化を阻止することができるのか?主要な先進国のひとつであるドイツは、それを探ることを決意し、もうひとつの日本では、それを試みるかが議論されている。両国は、それがどれほど難しいかを示してている。
今のところ、原子力が唯一低排出の実績のある「ベースロード」電源、つまり、東京やミュンヘンのオフィスビルで24時間エレベーターを動かすため、昼夜を問わず常に安定供給できる電力である。しかしながら、ドイツも日本も、反核の狂乱の雰囲気の中で、発電において低炭素にあることを保障された発電方法をあきらめ、今後10〜20年のうちに再生可能エネルギーによる発電を増加させることに賭けている。時期尚早ではあるが、それぞれの大規模な原子力セクターを閉鎖すると見られる。
昨年の福島第一原発の事故以前、日本の電力の3分の1は原子力発電によるものだった。現在、1つを除く全ての原子炉が停止され、日本の発電用原油と重油の消費量はほぼ3倍増えた。しかし、政府は、この化石燃料による代替の火力発電をもってしても、電力会社が原子炉を再稼動させなければ、夏のピーク電力需要時に電力システムがダウンしてしまうと心配している。フィナンシャル·タイムズ紙のゲリット・ワイズマンが伝えているところでは、ドイツではすべての原子炉を停止することを決定し、昨年8基の原子炉を停止させた後、電力会社は必要以上に二酸化炭素を排出せざるをえず、送配電も不安定になっているという。
両国共に二酸化炭素排出削減目標への道のりが困難なものとなっているが、反核活動家達はこの混乱を、再生可能エネルギーの歩みが速くなると主張することで正当化している。しかしそれには実現可能性とコストという重要な問題が提起される。
日本政府の報告書は、おそらく日本は原子力発電なしで2030年までに1990年レベルの25%にまで炭素排出量を減らすことができる、と主張している。しかしそれが正しかったとしても、全ての既存の原子力インフラやノウハウを無駄にさせてしまう理由とはならない。報告書はまた、日本が電力の五分の一を原子力でまかなえば33パーセント、また、引き続き3分の1の電力を原子力とし続ければ、39パーセントまでも二酸化炭素の排出を削減できると指摘している。
また、これらの数字が示唆するように日本の排出量を削減することが簡単であるかは全く明確ではない。別に示された政府の分析では、原子力なしでは二酸化炭素の削減量は25パーセントの達成を大きく下回ると主張されている。再生可能エネルギーについての楽観的な予測に頼ることに満足しない日本の電力会社は、既に化石燃料の輸入を促進するためのプロジェクトに数百万ドルを投資している。
グリーンエネルギーの推進者は、ドイツは、多額の政府補助金により再生可能エネルギー由来の電力が既に日本よりも多いことを指摘する。しかし、その国の原子炉の停止による発電の損失分を補い、さらに野心的な排出削減目標を達成させるには、第二次世界大戦後の復興以来見られなかった規模での真の発電の革命が必要となる、とブルームバーグは報道している。それを批判する人々は、それよりもドイツは、昔ながらの信頼性の高い石炭、ガス、そうです、そして原子力による発電による近隣諸国からの電力輸入にこれからも頼ることになるだろう、と合理的な予測している。
恐ろしい災害ではあったが、最終的には壊滅的ではない福島原発事故により、原子炉を持つ全ての国において、既存の施設とその調節システムの整合性の安全性を検討すべき理由となった。しかし、当時も今も、急いでこの電力源を放棄しない慎重さが要求される。既存の原子炉を維持すること(二酸化炭素排出削減政策を前向きに実現させる要素となる次世代の原子力技術を含め)は、再生可能エネルギーの有望な将来を排除するものではない、ということも議論するべきであろう。しかし、それにより、排出削減目標に達するあるいは上回る可能性ははるかに高くなるだろう。
関連記事
-
3.11福島原発事故から二年半。その後遺症はいまだに癒えておらず、原子力に対する逆風は一向に弱まっていない。このような状況で、原子力の必要性を口にしただけで、反原発派から直ちに「御用学者」呼ばわりされ、個人攻撃に近い非難、誹謗の対象となる。それゆえ、冒頭で敢えて一言言わせていただく。
-
【記事のポイント】1・一つのリスクを減らすと他のリスクが高まる「リスク・トレードオフ」という現象が起こりがち。2・「絶対反対」の主張を政治的な運動体は好む。しかし現実を動かさない。3・原発事故後に政府の対策はリスクの分析をせず、誰もが責任から逃げている。
-
地震・津波に関わる新安全設計基準について原子力規制委員会の検討チームで論議が進められ、その骨子が発表された。
-
原発事故に直面した福島県の復興は急務だ。しかし同県で原発周辺の沿海にある浜通り地区でそれが進まない。事故で拡散した放射線物質の除染の遅れが一因だ。「被ばく水準を年1ミリシーベルト(mSv)にする」という、即座の実現が不可能な目標を政府が掲げていることが影響している。
-
原発における多層構造の請負体制は日本独自のものであるが、原発導入が始まって以来続けられているには、それなりの理由がある。この体制は、電力会社、原子炉メーカー、工事会社、下請企業、作業者、さらには地元経済界にとって、それぞれ都合が良く、また居心地の良いものであったため、この体制は関係者に強く支持されてきた。
-
昨年7月に5回にわたって「欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感」を投稿したが、その後半年の間に色々な動きがあった。これから数回にわたって「続・欧州のエネルギー環境政策を巡る風景感」を綴ってみたい。
-
12月3日放送の言論アリーナ「米国ジャーナリストの見る福島、原発事故対策」に、出演した米国のジャーナリスト、ポール・ブルースタイン氏が、番組中で使った資料を紹介する。(全3回)
-
言論アリーナ「日本は核兵器をつくれるのか~日米原子力協定をめぐって~」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 7月16日に日米原子力協定が自動延長されます。その焦点はプルトニウムの削減ですが、日本にあるプルトニウムで
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間