福島第一原発事故の健康への世界的影響(要旨)

2012年07月23日 17:00
米学術誌「エネルギーと環境科学」掲載

【GEPR編集部より】米学術誌「エネルギーと環境科学」(Energy & Environmental Science)に掲載された研究者の論文要旨を日本語に翻訳転載する。筆者のホーブ氏とジェイコブソン氏はスタンフォード大学公共環境工学部(Department of Civil and Environmental Engineering, Stanford University)の研究者。

ただし、この論文の内容については、疑問が多い。アゴラ研究所の池田信夫所長がコラム「福島事故の3Dシミュレーションについて」で解説している。

要旨を掲載する。

2012年4月23日受領、2012年6月26日承認、2012年7月17日初出

この研究は、2011年3月11日に起きた福島第一原子力発電所事故による世界的な健康への影響を測るものである。影響は立体地球大気モデルの排出予測で測り、世界的な包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の毎日の計測値と観測された沈着量と対照して評価された。

吸引による被曝、地上レベルの体外被曝、および福島から放出された大気へのヨウ素131、セシウム147、セシウム134の外部被曝経路が、ヒトの被曝のLNT (しきい値なし直線)モデルを使用して説明されている。

汚染された食品や水の摂取による被曝については推定して計測されている。

この研究で用いられている被曝線量と被曝の反応モデルに伴う不確定要素を考慮して、[何もないときよりも]130 (評価の幅15–1100) 人のがん関連の死亡者数および180 (24–1800) 人のがん関連の罹患者数が増えると、筆者は推定した。

また、LNTモデルの低線量被曝における不確定要素についても論じている。

放射性物質の排出量への感度、ガスの中で特にヨウ素131微粒子へ分けた計測、発電所からの半径での強制避難区域についても調査しており、死亡者数および罹患者数の上限値がそれぞれ1300人および2500人へと増加する可能性がある。

発電所作業員への被曝については、これによる罹患率は2から12人と予測される。

更に放射線と無関係の例えば強制避難などの理由による約600人の死亡者が報告されている。

最後に、核事故への場所と季節による影響を分析するために、米国カリフォルニア州のディアボロ・キャニオン原子力発電所が福島に等しい汚染物質の排出をするという仮想事故が研究された。

この仮想事故では、現地の人口密度が4分の1であるにも関わらず、異なる気象状況により、福島よりも約25%以上増加する死亡者数となる可能性がある。


図 セシウム137の総排出量(kBq/㎡)1カ月間のシミュレーション

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