アベノミクスはエネルギーの負担から失敗か — アゴラチャンネル報告
GEPRを運営するアゴラ研究所は毎週金曜日の午後9時から、インターネットの映像配信サービス、ニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」という番組を放送している。22日は、アゴラ研究所の池田信夫所長をホスト、元経産官僚の石川和男氏をゲストにして「原発停止、いつまで続く?」というテーマで放送した。
告知記事
石川氏へのインタビュー、「原発停止継続、日本経済に打撃—活断層に偏重した安全規制は滑稽」
電力会社の倒産が現実味
原子力規制委員会は、活断層が原発の重要施設の近くにある場合に稼動を認めないという方針を打ち出している。原子力安全政策で活断層は全体の中の一論点にすぎなかった。それなのに、なぜか今はそれだけに注目して事故リスクを語り、既存の原発を廃炉に導こうとまでしている。「部分しか考えず、全体を見ない態度は異常だ」という認識で2人は一致した。

石川和男氏
池田氏は、敦賀原発の下に活断層と規制委員会によって認定された日本原電が、保有するウランを売却したという報道を紹介。「電力会社が燃料を売るなんて考えられない。資金繰りが危険なのだろう」と指摘した。石川氏も、「他の損失を受けている電力会社は、福島の原発事故を起こしたわけではない。福島事故の連帯責任とも言える形で、原発を止めるのはおかしい」と述べた。
そもそも「活断層があれば廃炉」という規定は現行法にない。そして指摘する人は少ないが、原発の停止は行政による違法な行為だ。菅直人首相(当時)が11年5月に浜岡原発を停止要請した。その後、全国の原発にストレステストの要請をして原発は止まっている。
その状態が今でも続いているが、いずれも法律に基づく根拠はない。民主党政権はエネルギーをめぐる法律も多くはつくらず、重要事項の閣議決定もしていない。「日本の行政史上、原発の停止は前代未聞であろう。日本で物事を支配する『空気』が、この状況を決めているようだ」と石川氏は述べた。
原発問題はコストで経済を直撃
「安全性を高めるために、事故があれば基準はそれを活かして変更されるものだ。しかし遡及適用は、企業に混乱をもたらしかねず、慎重であるべきだ。そして私の知る限り、活断層で原発事故が起こった例は世界にない。また地震で上の構造物が壊れるとは限らない」(石川氏)。
池田氏も「法治国家としても、資本主義国家としても、おかしい。権限のない組織である規制委員会が、無意味な穴掘りをして、暴走している」と述べた。同委員会は7月発表予定の新安全基準で、活断層を原稿の11−12万年から40万年動かなかった地層と定義し直して、規制を強化する方向だ。これを遡及適用すれば、すべての原発が廃炉に追い込まれてしまうだろう。「原発を止める理由探しに活断層が使われているようだ」(池田氏)。
原発停止による火力発電の燃料費の増加で、2012年度で2兆円、今年度で3兆円、原発停止による燃料費の増加がある。さらに電力会社の経営危機によって、電力料金は今後上昇するだろう。
「民主党政権の行動が滅茶苦茶であるのは仕方がないにしても、自民党政権が何もしないのはおかしい」と池田氏は指摘した。自民党は夏の参院選まで、議論を呼びそうな原発問題に沈黙をする意向のようだ。ところが、それは結局、損になる。「『アベノミクスで経済再生』が、安倍政権の重要な政策課題だ。ところが、このまま円安が進めば、輸入インフレが起きかね、経済にダメージを与える。今でさえ、3兆円の国富が海外に流失している」(石川氏)。
また7月の参院選前に、夏の電力需給が再び問題になるだろう。社会不安や企業の生産活動の混乱が起こりかねない。「アベノミクスがエネルギーの面からつまずく可能性がある」と、石川氏は指摘する。
独立委員会がよいとは限らない
なぜ規制委員会は、こうしてかたくなになってしまったのか。石川氏によれば、経産省の官僚たちも、呆れているという。政治の介入を受けない独立行政委員会という形は、「アンタッチャブル」になりがちだ。「制度論の失敗として興味深い。独立行政委員会が良い制度とは限らない」と、池田氏は指摘した。
独立性を強めても問題のある人を委員に選べば、今の規制委員会のように混乱を引き起こす。米国のNRC(合衆国原子力規制委員会)は、政治的に利用され、米国民主党の反原発派の牙城になってしまった。「すぐに欧米を真似ようとするが、真似てはいけないものがあるはずだ。日本になじむとは思えない。政治に翻弄されてしまう」と石川氏は述べた。
それではどうすればいいのか。「長期には原発をめぐって議論を積み重ねればいい。ただし短期では原発を使う事を考えないと、経済上の負担が膨らんで行く。この事実をどの立場の人も認識してほしい。政治が、規制委員会への指導、場合によっては人の入れ替えなどの介入も検討するべきだろう」と指摘した。
原発に賛成でも、反対でも、原発停止と廃炉の場合の負担は国民全体が引き受けることになる。負担は経済と生活の足を引っ張る。「今世界で大増産が起こっているシェールガスが日本に輸入されるには時間がかかる。再生可能エネルギーは、今の時点では原発の代替にはならない。この現実を認めて原発の未来を考えなくてはならない」と石川氏は述べた。
規制委員会の田中俊一委員長は「コストを考えない」と述べている。これを、池田氏はおかしいと批判した。「制度、法律等の面から総合的に考えるべきだ。もしくは技術的に安全かどうかという職分の範囲で発言するべきだ。一日100億円も余分の燃料費をどぶに捨てる形になっている。どう考えてもおかしいと、国民は理解できるはずだ。政治の行動が求められる」という。
石川氏はまとめた。「原発を使って『しのぐ』という発想が必要ではないか。他の手段があれば、原発を使おうとする人はいない。しかし目先は原発を使い、経済への負担を減らさないと、アベノミクスによる経済再生、そして社会保障の再建という今の日本の重要な課題が失敗しかねない」。
(2013年2月25日掲載)
関連記事
-
東北電力についでBWR2例目の原発再稼動 2024年12月23日、中国電力の唯一の原子力発電所である島根原子力発電所2号機(82万kW)が発電を再開しました(再稼働)。その後、2025年1月10日に営業運転を開始しました
-
洋上風力発電入札の経緯 そもそも洋上風力発電の入札とは、経済産業省が海域を調査し、風況や地盤の状況から風力発電に適していると判断された海域について、30年間にわたり独占的に風力発電を行う権利を、入札によって決定するという
-
はじめに 世界的な生成AIの普及やデータセンターの拡大により半導体需要が急速に高まって、日本国内でも供給の安定化を目指して大規模半導体工場の建設ラッシュが起こっている。 なかでも注目されるのが、世界的半導体製造会社TSM
-
英国の大手大衆紙ザ・サンが、脱炭素に邁進する英国政府に、その経済負担について明らかにするように社説で迫っている。 記事概要は以下の通り: 政府が隠していた理由が判った。ボリス・ジョンソンが掲げた「2050年までに脱炭素」
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供している。今年1月19日の第1回放送は「放射能はそんなに危険?原発のリスクを考える」。有識者を集めた1時間半の議論の結論は、「福島に健康被害の可能性はない」だった。
-
日本の化石燃料輸入金額が2023年度には26兆円に上った(図1)。これによって「国富が流出しているので化石燃料輸入を減らすべきだ、そのために太陽光発電や風力発電の導入が必要だ」、という意見を散見するようになった。 だがこ
-
国際環境経済研究所主席研究員 中島 みき 4月22日の気候変動サミットにおいて、菅総理は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度の温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらには50%
-
3・11の福島原子力事故は、日本のみならず世界の原子力市場に多大なる影響を及ぼした。日本では、原子力安全のみならず原子力行政そのものへの信頼が失墜した。原子力に従事してきた専門家として、また政府の一員として、深く反省するとともに、被災者・避難を余儀なくされている方たちに深くお詫び申し上げたい。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
- COPの理想論に冷水:S&Pグローバルが描く2060年のエネルギー
- 秋田に2兆円AIデータセンター:「風力発電が決め手」は本当か
- 廃棄物もCO2も捨てたら価値はゼロになるのか? 炭素というレンズで読む思想史
- データが示す石油輸入の中東依存度の実態
- スコープ3に代わる新たな炭素会計?「E-ledgers/E-liability」とは
- AfD排除で進む「ドイツ民主主義の侵食」:ベーメ=ネスラー教授の警告
- 系統用蓄電池の問題点とはなにか?
- 全世界の町工場まで炭素簿記を義務化? E-ledgersという無理ゲー
- トランプが気候変動は「いかさま」だという理由
- モデルは未来を設計できるのか:現代社会にとっての「設計主義」とは?















