小泉氏が希望を託す蓄電技術に未来はあるのか
(アゴラ版)
小泉元首相の講演の内容がハフィントンポストに出ている。この問題は、これまで最初から立場が決まっていることが多かったが、彼はまじめに勉強した結果、意見を変えたらしい。それなりに筋は通っているが、ほとんどはよくある錯覚だ。彼は再生可能エネルギーに希望を託しているようだが、「直感の人」だから数字に弱い。
ちょっと前まで、「太陽光なんて太陽が陰ったらダメだ、風力なんて風が吹かなかったらダメだ」と言われましたけれど、今は蓄電技術が進んできたじゃないですか。日本はかつては「自動車から排気ガスが大量にCO2を出すからダメだ」と、今や石油ショック以来、世界一厳しい排出基準を作って、世界で売れているじゃないですか。
これは河野太郎氏の話とよく似ている。マスキー法ができたときも、アメリカの自動車メーカーは「不可能だ」といったが、日本メーカーはそれを根性でクリアした、という話だ。同じように蓄電技術が進歩すれば、再生可能エネルギーの効率は上がる。これは論理的には正しい。問題は、蓄電技術がどれぐらい進歩する可能性があるかだ。

これはMullerの表だが、AAAバッテリーのコストは家庭用の電気代に比べても1万倍で、この差はここ数十年、ほとんど縮まっていない。携帯電話などでバッテリーの市場は飛躍的に拡大したが、蓄電時間はたかだか数倍にしかなっていない。1万倍の差を根性で埋めようというのは、日本軍の「必勝の信念」と同じ、客観情勢を無視した精神論である。
もちろんブレークスルーの可能性は、論理的にはある。日本はこの分野で先進国なので、蓄電技術の研究開発を国が支援することは重要だ。再生可能エネルギー+バッテリーのコストが化石燃料の10倍ぐらいまで下がったら、合理的な選択肢に入るだろう。小泉氏がそれを言っているなら賛成だが、1万倍の技術進歩を前提にして「脱原発」を主張しているなら「無責任」といわれてもしょうがない。
追記:「AAAバッテリーは使い捨ての1次電池なので、再生可能エネルギーとは無関係だ」というコメントがあったが、電気自動車の2次電池のコストもやっと200ドル/kWhを切るかどうかで、テスラでもこれ以上は下がらないと言っている。2次電池は「エネルギー源」ではないので、これに再エネのコストを加算しなければならない。それにリチウムなどの稀少金属で何万kWも蓄電できない。
(2013年11月5日掲載)

関連記事
-
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。 A Critical Assessment of the IE
-
無資源国日本の新エネルギー源として「燃える氷」と言われるメタンハイドレートが注目を集める。天然ガスと同じ成分で、日本近海で存在が確認されている。無資源国の日本にとって、自主資源となる期待がある。
-
日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。 前回、このような極端なCO2削減策が、太平洋ベルト地帯の製造業を直撃することを書いた。 今回は、特にどの県の経済が危機に瀕しているかを示
-
電力料金が円安と原発の停止の影響で福島原発事故の後で上昇した。自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。安い電力料金、安定供給を求める人も多く、企業は電力料金の上昇に苦しんでいるのに、そうした声は目立たない。情報の流通がおかしな状況だ。
-
先週、3年半ぶりに福島第一原発を視察した。以前、視察したときは、まだ膨大な地下水を処理するのに精一杯で、作業員もピリピリした感じだったが、今回はほとんどの作業員が防護服をつけないで作業しており、雰囲気も明るくなっていた。
-
東日本大震災、福島原発事故で、困難に直面している方への心からのお見舞い、また現地で復旧活動にかかわる方々への敬意と感謝を申し上げたい。
-
福島原発事故後、民間の事故調査委員会(福島原発事故独立検証委員会)の委員長をなさった北澤宏一先生の書かれた著書『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』(ディスカバー・トゥエンティワン)(以下本書と略記、文献1)を手に取って、非常に大きな違和感を持ったのは私だけであろうか?
-
滝波宏文参議院議員(自民党)(たきなみ・ひろふみ)東京大学法学部卒。94年に大蔵省(現財務省)に入省。98年米シカゴ大学大学院公共政策学科を修了し修士号取得。05年米国公認会計士試験に合格。09年から11年までスタンフォ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間