小泉氏が希望を託す蓄電技術に未来はあるのか

2013年11月05日 14:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

アゴラ版

小泉元首相の講演の内容がハフィントンポストに出ている。この問題は、これまで最初から立場が決まっていることが多かったが、彼はまじめに勉強した結果、意見を変えたらしい。それなりに筋は通っているが、ほとんどはよくある錯覚だ。彼は再生可能エネルギーに希望を託しているようだが、「直感の人」だから数字に弱い。

ちょっと前まで、「太陽光なんて太陽が陰ったらダメだ、風力なんて風が吹かなかったらダメだ」と言われましたけれど、今は蓄電技術が進んできたじゃないですか。日本はかつては「自動車から排気ガスが大量にCO2を出すからダメだ」と、今や石油ショック以来、世界一厳しい排出基準を作って、世界で売れているじゃないですか。

これは河野太郎氏の話とよく似ている。マスキー法ができたときも、アメリカの自動車メーカーは「不可能だ」といったが、日本メーカーはそれを根性でクリアした、という話だ。同じように蓄電技術が進歩すれば、再生可能エネルギーの効率は上がる。これは論理的には正しい。問題は、蓄電技術がどれぐらい進歩する可能性があるかだ。

これはMullerの表だが、AAAバッテリーのコストは家庭用の電気代に比べても1万倍で、この差はここ数十年、ほとんど縮まっていない。携帯電話などでバッテリーの市場は飛躍的に拡大したが、蓄電時間はたかだか数倍にしかなっていない。1万倍の差を根性で埋めようというのは、日本軍の「必勝の信念」と同じ、客観情勢を無視した精神論である。

もちろんブレークスルーの可能性は、論理的にはある。日本はこの分野で先進国なので、蓄電技術の研究開発を国が支援することは重要だ。再生可能エネルギー+バッテリーのコストが化石燃料の10倍ぐらいまで下がったら、合理的な選択肢に入るだろう。小泉氏がそれを言っているなら賛成だが、1万倍の技術進歩を前提にして「脱原発」を主張しているなら「無責任」といわれてもしょうがない。

追記:「AAAバッテリーは使い捨ての1次電池なので、再生可能エネルギーとは無関係だ」というコメントがあったが、電気自動車の2次電池のコストもやっと200ドル/kWhを切るかどうかで、テスラでもこれ以上は下がらないと言っている。2次電池は「エネルギー源」ではないので、これに再エネのコストを加算しなければならない。それにリチウムなどの稀少金属で何万kWも蓄電できない。

(2013年11月5日掲載)

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