中部電力、浜岡原発の現状(上) — 津波を防ぐ巨大な壁

2013年11月11日 13:00
アバター画像
経済ジャーナリスト

中部電力の浜岡原子力発電所を11月8日に取材した。私は2012年8月に同所を訪問して「政治に翻弄される浜岡原発 — 中部電力の安全対策工事を訪ねて」という記事をGEPRで発表している。

今回は東工大で11月7日に行われた「国際シンポジウム−原子力と法制」に参加した、各国の原子力関連法の専門家と共に見学した。浜岡原発の現状を報告する。

津波対策、海抜22メートルまでOK


写真1

写真2

2枚の写真は浜岡原発の津波対策の防波壁だ。地上からの高さは10から12メートル、幅約2メートル、全長約1・6キロメートルの建造物で、間近に見ると巨大さに圧倒される。

海抜は壁の上部まで約18メートルになる。地下は支えとして10から30メートルまで岩盤にあたるまで掘り壁が続き、津波の衝撃に耐えられるように特殊な鋼材で補強されている。海側には10メートル前後の丘と堤防があるが、津波が来てもこの防波壁で水は食い止められると中部電力は見込んでいる。

それに加えて、同社は追加工事を行なった。2012年8月に内閣府が「南海トラフの巨大地震モデル」を公表した。南海トラフでは100年から150年程度の感覚で、巨大な地震が発生する。その被害を予測したものだ。

同社は内閣府から予測データの提供を受けて、浜岡近郊の津波の予測をして、最大で約20メートル以上の津波の可能性があるとの試算を出した。それを受けて、この巨大な防波壁の上に4メートルの金属製の補強壁を設置する、かさ上げ工事を行う予定だ。厳重な津波対策は津波で電源が喪失して冷却が行えなくなった福島原発事故の教訓を活かしたものだ。

地震と津波の対応

中部電力はこれ以外にも地震と津波の対策を並行して行っている。浜岡原発は5つの原子炉を持つが、70年代に建設された1−2号炉は廃炉が決まり、現在は稼働していない。3—5号機の耐震工事は昨年夏よりも進捗していた。

津波対策では、「敷地内に水を入れない」「仮に敷地に水が入っても、建物には入れない」という目的に基づいて対策が行われている。建屋の重要部分は、改造して水が入らない構造にした。また非常用発電装置は津波、地震に耐えられるように、分散して設置されていた。地震の際の対策本部は建設された免震の建物に置かれ、有事にはいつでも活動できる状態になっている。

原子力規制委員会は今年8月に、原子力発電の新安全基準を設定した。この基準に合わせた工事も行う。当初は4号炉の対策を優先し、これは来年度早期に工事を完了して再稼動を目指す。地層構造の調査で揺れがやや大きくなることが分かった5号炉では追加工事を行うため、稼動申請は後回しになる予定だ。

一連の対策費用は当初予定の1500億円を大幅に上回り、3000億円に達する見込みだ。


図表 浜岡原発の位置

海外専門家らの評価


写真3 各国の専門家と発電所幹部の意見交換会

これらの対策を専門家はどのように受け止めたのか。

ブルガリアのソフィア大学教授であるアタナス・シーモフ氏(Atanas Semov)は次の意見を述べた。「事故リスクを下げるという構想の下に、あらゆる観点からの危険を考えた災害対策に感銘を受けた。ここまでの措置は世界でも類例が少ないのではないか。津波対策では世界の指針になるかもしれない」。

ブルガリアでは、国民の8割が原発の利用を支持している。2006年までに、旧ソ連製の原発4つを相次いで廃炉にした。原発は当時1億ドルをかけ安全対策工事をしたが、2002年に加盟をしたヨーロッパ連合(EU)からの政治的圧力と、政治的な駆け引きの末に、法的手続きが行われないまま2006年までに廃炉になってしまった。

シーモフ氏は指摘した。「原発の運用では、人々に原子力への恐怖感があり、効果的なエネルギー供給という目的ではなく、政争が影響することがある。浜岡の停止の経緯を聞くと、ブルガリアと似た面がある。冷静にリスクと利益を多様な観点から分析して、浜岡原発の再稼動を考えるべきだ。日本の方々は賢明であり、適切な結論を下すであろう」。

ブラジルのリオ・デジャネイロ連邦大学教授で、元IAEA(国際原子力機関)職員だったギルへルミナ・ラボス・コインビア女史(Guilhermina Lavos Coimbra)は 次の見解を述べた。

「可能な限り原発の情報を公開し、地元の人々と対話する中部電力の姿勢に感銘を受けた。福島事故は津波によって引き起こされたが、浜岡原発の厳重な対策を見て懸念が払拭された。浸水をめぐるここまで厳重な安全対策が行われている原発は、世界には類例がないと思う」。

インドで原子力法制度の作成や訴訟を担当した弁護士のヤシュ・マニュリー氏(Yash Mannully)は次の評価をした。「インドでは残念ながら原子力をめぐる適切な情報公開が行われていない。この2年で、浜岡原発は隣接するPR館を含めて、4万人もの人が見学に訪れたという。その公開姿勢は感銘を受けた。インドの人々にもこの取り組みを伝えたい」。

しかし、こうした海外の有識者の評価があっても、浜岡原発の再稼動の先行きは見えない。

(下)再稼動は「エネルギー政策正常化」の証明

(2013年11月11日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 原子力規制委員会により昨年7月に制定された「新規制基準」に対する適合性審査が、先行する4社6原発についてようやく大詰めを迎えている。残されている大きな問題は地震と津波への適合性審査であり、夏までに原子力規制庁での審査が終わる見通しが出てきた。報道によれば、九州電力川内原発(鹿児島県)が優先審査の対象となっている。
  • りょうぜん里山がっこうを会場として、中山間地域のみなさんや福島大学の学生を中心に勉強会を開催した。第一回は、2014年10月4日に国立保健医療科学院の山口一郎上席主任研究官をゲストに迎え、食品基準値の疑問に答えてもらい、損失余命の考え方が役立つかどうかや参加者のニーズを話し合った。
  • 原子力発電所の安全目標は長年店晒しだった 福一事故の前、2003年に旧原子力安全委員会が安全目標案を示している。この時の安全目標は以下の3項目から構成されている。 ①定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性
  • アゴラ研究所、またその運営するエネルギー問題のバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)は、9月27日に静岡市で常葉大学と共催で、第3回アゴラ・シンポジウム『災害のリスク 東日本大震災に何を学ぶか』を行った。
  • 「福島で捕れたイノシシのボタン鍋を食べませんか。肉の放射線量は1キロ当たり800ベクレルです」こんなEメールが東京工業大学助教の澤田哲生さんから来た。私は参加し、食べることで福島の今を考えた。
  • 1986年に世界を震撼させたチェルノブイリ原発事故。筆者は14年11月に作家の東浩紀氏が経営する出版社のゲンロンが主催したツアーを利用して事故現場を訪問し、関係者と話す機会を得た。福島原発事故を経験した日本にとって学ぶべき点がたくさんあった。そこで得た教訓を紹介したい。
  • 六ケ所村の再処理工場を見学したとき印象的だったのは、IAEAの査察官が24時間体制でプルトニウムの貯蔵量を監視していたことだ。プルトニウムは数kgあれば、原爆を1個つくることができるからだ。
  • 2013年6月14日に全米で公開された、原子力を題材にしたドキュメンタリー映画「パンドラの約束(Pandora’s Promise)」を紹介したい。筆者は抜粋の映像を見たが、全編は未見だ。しかし、これを見た在米のエネルギー研究者から内容の報告があったので、それを参考にまとめた。この映画の伝える情報は、日本に必要であると思う。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑