放射線科学会議SAMRAI2014報告 福島県の放射線は健康リスクなし(上)

2015年04月13日 12:00
アバター画像
理学博士 札幌医科大学教授
(写真1)SAMURAI2014の様子

東日本大震災から4年を経過した3月24日、衆議院第一議員会館の多目的ホールにて、福島の放射線政策の大転換を促す狙いで、科学会議「SAMRAI2014」が開催されました。一般の方、科学者、技術者、報道、国会議員、官僚の約 240人が参加し、 福島および日本、そして人類文明のこれからについて真剣討議しました。各科学報告の詳しい概要と科学会議の結論と日本政府への提案が、放射線防護情報センターのウェブサイトに掲載されていますので、ぜひ 、お読みください。

なお、日本政府への提案の文書は、竹下亘復興担当大臣に手交されました。プログラム委員長の私から、開催の経緯と狙い、プログラムの内容、健康リスクが全くないという結論について説明します。

会議開催にいたるまで

会議の名称は、「第一回放射線の正しい知識を普及する研究会」です。日本から世界に、文明を発展させる気持ちで、放射線の正しい情報を発信するために考えた名称が、Scientific Advisory Meeting for Radiation and Accurate Information、略してSAMRAIです。

福島20km圏の復興を目指したSAMRAI2014は、安倍総理への科学会議開催の提案からはじまりました。あれから2年が経過しました。

2013年4月5日の衆議院予算委員会へ、当時維新の会の山田宏議員の参考人として、私が呼ばれました。そこで、安倍総理の前で私は、放射線防護学とは何かを説明し、今の食品安全の放射能基準などは科学から逸脱した判断があると、専門科学者としての見解を述べました。その後、山田議員が、福島の放射線に関して、国際的な科学会議を日本で開催することを、安倍総理へ提案し 総理が同意したのです。

この後、放射線議員連盟 と民間組織の「放射線の正しい知識を普及する会」(SRI)が発足し、高田がプログラム委員長となって、科学会議の準備が開始しました。小規模な予算のため、当初考えていました多数の科学者を海外から招へいできませんでした。しかしながら、科学的には、これまでにない高レベルで、福島の真の復興を目指した放射線の科学を国内外に発信するにふさわしいプログラムにできたと、私たち主催者は自信を持っています。

(写真2)挨拶する平沼赳夫議員

過去の核災害の経験を活かす

1945年、日本は世界で最初の核爆発災害を広島・長崎に受け、爆風と熱線で壊滅し、両市で約20万人が死亡しました。しかし速やかに不死鳥のごとく復興しました。放射能の除染は全くありませんでした。しかし当時、被災直後より、理化学研究所の仁科芳雄博士や京都大学の荒勝文作教授ら第一級の科学者多数が現地入りし、徹底的に現地調査がされました。放射線の急速な減衰が確認されています。

そして日本学術会議によって世界最初の核爆発災害調査の報告書1600ページにもなる「原子爆弾災害調査報告書」が1953年3月に刊行されています。みなさんご存じないかもしれませんが、広島市の平均寿命は一時日本一になったこともあるほどの健康都市です。日本が世界一の長寿国なので、広島は世界一の健康都市とも言えるかもしれません。人は意外に放射線に強かったのです。

さらに日本は、未曾有の地震津波災害を受けて誘発した福島第一原発放射線事故を経験しました。しかし、時の政府は国内の専門科学者を現地に投入しないばかりか、20km圏内を立ち入り制限したのです。こうして、科学の目が入らないブラックボックスとなって、情報混乱が国内ばかりか世界に生じてしまいました。

その情報困難を乗り越え、正しい科学情報を世界に発信する義務が日本にはあります。また、核放射線の平和利用のなかで発生した軽水炉放事故による放射線の正しい知識を発信する権利も日本にはあると思います。それを、同じマインドを持った世界の科学者と共同しておこなう、第一回の会議が、今回のSAMRAI2014です。当初、前年の12月 3日開催の予定でしたが、衆議院が解散され総選挙となったため、今年3月への延期開催となったのでした。

世界的な研究者を集める

さて、日本での科学的な組織に合わせて、海外には、正しい放射線の情報のための科学者の会(SARI)が誕生しました。今回は、そこから、2名の著名な科学者・米国フォックス・チャイス・がんセンターの医学物理士モハン・ドス博士、英国オクッスフォード大学名誉教授物理学のウエイド・アリソン博士にお越しいただきました。

会議の主題は、福島の低線量率放射線の科学認識と20km圏内の復興です。「福島の20km圏内を中心とした線量調査の科学データからみた低線量の実体」、「1ミリシーベルト(mSv)以下に規制する論拠とされている放射線のしきい値なしLNT仮説の非科学性と反社会性の指摘」、「低線量率放射線の健康増進科学ホルミシス研究」、「日本の放射線規制の問題点の指摘」、最後に「 核放射線を正しく利用した文明のあり方=教育の重要性」を、5人の科学者が報告しました。

日本側科学者は3人で、筆者の 世界の核災害地の現地調査をしてきた放射線防護学の高田純、元電力中央研究所理事で放射線による 健康増進効果 である「 ホルミシス効果」研究の第一人者の服部禎男博士、大阪大学名誉教授でICRP(国際放射線防護委員会)の委員を歴任した放射線医学者の中村仁信博士です。

以下(下)に続く

(2015年4月13日掲載)

This page as PDF
アバター画像
理学博士 札幌医科大学教授

関連記事

  • 20世紀末の地球大気中の温度上昇が、文明活動の排出する膨大な量のCO2などの温室効果ガス(以下CO2 と略記する)の大気中濃度の増加に起因すると主張するIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)による科学の仮説、いわゆる「地球温暖化のCO2原因説」に基づいて、世界各国のCO2排出削減量を割当てた京都議定書の約束期間が終わって、いま、温暖化対策の新しい枠組みを決めるポスト京都議定書のための国際間交渉が難航している。
  • 原子力規制委員会が、JAEA(日本原子力研究開発機構)によるもんじゅの運営に対して不適切な行為が多いとして、「機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること」と文部科学省に対して「レッドカード」と言える勧告を突きつけた。
  • 東京電力の元社員の竹内さんが、一般の人に知らないなじみの少ない停電発生のメカニズムを解説しています。
  • 世界の農業では新技術として遺伝子組み換え作物が注目されている。生産の拡大やコスト削減、農薬使用の抑制に重要な役割を果たすためだ。ところが日本は輸入大国でありながら、なぜかその作物を自由に栽培し、活用することができない。健康に影響するのではないか、栽培すると生態系を変えてしまうのではないかなど、懸念や誤った情報が消費者の間に広がっている。この問題を議論するために、アゴラ研究所は「第6回シンポジウム 遺伝子組み換え作物は危険なのか?」を今年2月29日に東京・内幸町のイイノホールで開催した。
  • 世界的なグループである「放射線についての公的な理解を促進する科学者 グループ(SPUR)」が、基本的常識の議論に基づき放射線を巡る神話と恐怖のいくつかを払拭し、かつそれに対する国際的な姿勢の著しい変化を提案する呼びかけを示した。
  • フィナンシャル・タイムズ
    英フィナンシャル・タイムズ7月19日記事。シェールガスで大量の生産が始まった米国から産出の中心である中東へガスが輸出された。エネルギーの流れが変わろうとしている。
  • 要旨「数値目標を1%上積みするごとに、年間1兆円の費用がかかる。これは1トンCO2あたり10万円かかることを意味する。数値目標の本当のコストは途方もなく大きいので、安易な深掘りは禁物である。」
  • 丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑