エネルギー体制の整備が東アジア経済成長のエンジン-フィリピンの挑戦

2016年01月18日 11:00
ゼナイダ・モンサダ
フィリピン・エネルギー大臣

(英語版)

(GEPR編集部より)フィリピンは経済成長が著しい。そして15年10月にAPEC(環太平洋経済協力会議)のエネルギー担当大臣会合が開かれた。取材を申し込んだところ、議長のフィリピンのモンサダ・エネルギー大臣の寄稿をいただいた。それを掲載する。

(以下本文)

過去10年間、東南アジア諸国は急速に、世界の主要な経済の成長エンジンの一つとなった。年成長率6%以上のアジアにおける「輝ける経済の星」に位置するフィリピンは、この地域における経済成長の中心となっている。現在はアジア地域の経済成長は減速しているが、フィリピン経済は世界的に見て今でも急速に成長している国の一つだ。

急速な経済成長を背景に、アジア地域のエネルギー消費量は劇的に上昇している。東南アジアのエネルギー需要は、過去25年間でほぼ倍増した。原油の輸入は、2040年に現時点から倍増すると予想されている。しかしエネルギーでは輸入に過度に依存していることによって、突然の供給の途絶や、エネルギー価格の変動に対して、この地域が脆弱になっている。したがって総合的なエネルギー安全保障戦略を実施する必要が強まっている。

エネルギー安全保障の課題に対処

かなりの程度まで、フィリピンは供給の安全保障を確保する対策を行ってきた。バランスの取れたエネルギーミックスと、再生可能エネルギーの開発と利用を適切に確保するものだ。

2012年には、フィリピンの一次エネルギー総消費量は、1.307兆BTU単位に達し、そのうち41%が原油、22%が石炭、19%がバイオマス、そして残りの18%が天然ガスやその他の再生可能エネルギー源から成り立っている。

国家再生可能エネルギープログラム(NREP)と2008年の再生可能エネルギー法からは導入された「フィード・イン・タリフ」(固定価格買取制度:FIT)が、再エネ事業者の参加者のビジネスを刺激し、そしてカーボンフットプリント(経済活動における炭素使用量)を減らすために実施されている。しかし、その実績以上のことを実行する必要が出ている。

「三つ又戦略」を実行

そのため、フィリピン政府は、こうした挑戦に対応するために、「効果的」「包括的」「持続可能」な「三つ又戦略」の実施を、果断に実行しようとしている。政府は、国産エネルギーの増加を、効率性を増しながら行う計画を立てている。それを再エネ比率の増加、そして低炭素化、さらに経済の加速的な発展を伴うことで成し遂げようとしている。

またアジア地域のエネルギーの共同開発を通して、インフラを強化することも最優先事項としている。フィリピン政府は、2001年の電力産業改革法の成立と共に、電力セクター改革を強化し、エネルギー分野に投資する民間開発事業者を支援してきた。また政府は、すべての主要な島を相互接続するために電力網整備の拡大を支援している。

この結果、2011年には16GW(ギガワット)だった国の発電能力が2030年に29GWへと劇的に増加することが予想されている。一連の政策はすべて、誰もが容易にアクセスでき、90%以上の家庭を電化する現代的な電力システムをつくるという国の目標を達成することを意図している。同時に政府は「エネルギー総合プログラム」と呼ばれる民間企業への支援を通じて、国内資源の石油、石炭探査の投資を促進している。

またフィリピンは、世界第二位の地熱発電の生産能力がある国であり、低炭素経済への移行への強い決意を国が示している。地熱を活用し、2030年までに、現在の3倍に当たる15GWの再エネの発電容量を目指している。また重要なエネルギーの効率的活用を促進するために政府が2030年までに保有するすべての公共車両の30%をがクリーンな代替燃料で運用する目標を設定した。

アジア・太平洋地域のため、フィリピンは2015年10月に第12回APECエネルギー大臣会合を開催した。そこでは、強く積極的で、相互に有益なエネルギー安全保障を確保すること、また弾力性、災害に耐久性の強いAPECエネルギーネットワークの構築に貢献することを約束した。

最後に、フィリピンは、APECで、「エネルギーの耐久性のためのタスクフォース」について米国と共に共同議長国になっている。APEC諸国の経済のための強く、持続的な成長のための、ハイレベルの議論を行い、その協力の道を開こうとしている。

すべての政策や取り組みが整えられれば、フィリピンの政策は、自国だけではなく、地域全体のエネルギー安全保障を確保するための努力を実効化していくものとなるだろう。

(2016年1月18日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • (GEPR編集部より)サウジアラビアの情勢は、日本から地理的に遠く、また王族への不敬罪があり、言論の自由も抑制されていて正確な情報が伝わりません。エネルギーアナリストの岩瀬昇さんのブログから、国王の動静についての記事を紹介します。
  • 前回(https://www.gepr.org/ja/contents/20180710-02/)、簡単に九州電力管内の電力需給事情を概観したが、今回は「CO2削減」をテーマに九州の電力需給の在り方について考えてみたい。
  • 「原油価格はどう決まるのか?」。一言で言えば、原油市場における投資家の近い将来に対する思惑、すなわち需給が逼迫(ひっぱく)すると思えば価格上昇。緩和すると思えば価格下落だ。ただし、この思惑には、下記の要素が含まれる。
  • 国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。
  • 産経新聞
    産経新聞、4月18日記事。政府は18日、原発再稼働の条件である審査を担う原子力規制委員会の委員長に更田(ふけた)豊志委員長代理(59)を昇格させるなど、国会同意が必要な12機関28人の政府人事案を衆参両院の議院運営委員会理事会に提示した。
  • 筆者は、三陸大津波は、いつかは分からないが必ず来ると思い、ときどき現地に赴いて調べていた。また原子力発電は安全だというが、皆の注意が集まらないところが根本原因となって大事故が起こる可能性が強いと考え、いろいろな原発を見学し議論してきた。正にその通りのことが起こってしまったのが今回の東日本大震災である。
  • 2011年3月の福島第一原子力発電所事故の余波により、今後の世界的エネルギー供給への原子力の貢献はいくぶん不確かなものとなった。原子力は潤沢で低炭素のベースロード電源であるため、世界的な気候変動と大気汚染緩和に大きな貢献をすることができるものだ。
  • 福島第一原子力発電所事故以来、国のエネルギー政策上の原子力の位置づけは大きく揺らいできた。政府・経産省は7月に2030年度の最適電源構成における原子力比率を20~22%とすることをようやく決定したが、核燃料サイクル問題については依然混迷状態が続いている。以下、この問題を原点に立ち返って考えて見る。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑