「もんじゅ」は研究開発施設として出直せ

2016年05月30日 11:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長
高速増殖炉もんじゅ(福井県)

高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」に対して、原子力規制委員会が「運営主体を変更して業務を見直せ」という勧告を出し、崖っぷちに立たされている。今のところ現在の日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる受け皿は見当たらず、メディアからは廃炉にすべきだという意見も出ている。

今回の問題を契機に業務の見直しを

今までの経緯を無視して今後のキャッシュフローだけで考えると、廃炉にすることが合理的だ。技術的には、もんじゅの事故は単なる冷却材ナトリウムの漏洩であり、ロシアでは実証炉の運転が始まっている。しかし日本の安全基準で20年以上も止まったままのFBRを実用化までもっていくコストは莫大で、それに見合うリターンも見込めない。この点は関係者の意見もほぼ一致しているが、問題はその先だ。

まず今のもんじゅを引き受ける運営主体が見当たらない。文部科学省の検討会ではいろいろな受け皿が考えられているが、これまでのように最終的に電力会社が出資する形の法人が引き受けることは不可能だ。このように明らかに採算性の見込めないプラントに出資することは、株主に対する背任になる。

このままでは何らかの形で国(の出資する公益法人)が尻ぬぐいすることになりそうな情勢だが、この場合も今のもんじゅを丸ごと継続することは望ましくない。むしろ「国有化」を機会に、もんじゅの業務内容を見直したほうがいい。

当初FBRは再処理されたプルトニウムを燃やして核燃料を無限に増殖することになっていたが、世界各国をみても、使用ずみ核燃料の体積を再処理で圧縮して最終処分を容易にするという目的に変更されているケースが多い。それならFBRは必要なく、再処理した使用ずみ核燃料をそのまま最終処分すればいい。

もんじゅが多くのトラブルに悩まされる原因は、実用化のための原型炉という位置づけになっているため、実際にプルトニウムを燃やす運転をしていることにある。「常陽」が研究用の実験炉ということになっているのに対して安全確保の負担が大きいが、次の段階の実証炉は建設の見通しも立っていない。それが成功して実用炉が建設されるのは早くても2050年だが、その見通しもどんどん遠ざかっている。

次世代炉の研究開発の拠点に

日本が核燃料サイクルを決めたのは、1970年代の資源制約がきびしい時期で、ウランの埋蔵量も80年程度といわれていたが、資源をめぐる状況は大きく変わった。非在来型ウランの埋蔵量は350年分以上、海水ウランは9000年分あり、そのコストも下がっている。これから何兆円もかけて不確実性の大きいFBRの開発を進めることは、ビジネスとして成り立たない。

しかし日本にはすでに多くの原発があり、その廃棄物処理や廃炉の技術も必要だ。ウランの出せるエネルギーは重量あたり石炭の300万倍もあり、今後の技術革新のポテンシャルは非常に大きい。第4世代原子炉と呼ばれる新しい技術の開発も進んでおり、ビル・ゲイツなどの投資家も原子力に投資している。

ここでもんじゅを廃炉にしてしまうと、これまでの投資が無駄になるが、これはサンクコストと割りきればいい。最大の問題は、世界でもトップクラスの日本の技術が失われ、二度と原子力技術に優秀な人材が集まらなくなることだ。もんじゅを現状維持することにこだわってネガティブな印象が大きくなると、そういう損失はますます大きくなる。

福島で起こった炉心溶融は軽水炉に特有の事故で、それ以外にもっと安全なタイプの原子炉はたくさんあり、実験も行なわれている。もんじゅのサイトとスタッフを生かし、今までの蓄積を生かして、新しいタイプの高速炉など、次世代炉の研究開発の拠点にしてはどうだろうか。

核燃料サイクルの見直しが必要だ

しかし次世代技術の開発には巨額の資金がかかるため、電力会社が単独でリスクを負うことはできない。実用化も2050年代以降だろう。また常陽や東海村などの技術開発との統合も必要になるかも知れない。しかしこうした超長期のプロジェクトこそ、国が投資すべき対象である。

FBRがなくなると、核燃料サイクル全体の見直しも必要になる。今までの全量再処理はFBRで無限に核燃料が再利用できるという前提で立てられた計画なので、今後は直接処分のオプションも検討すべきだ。2015年度から国も直接処分の「研究開発」の予算をつけることになったが、最終処理施設の選定は難航している。

この大きな障害になっているのは、今の電力会社の会計処理だ。今は再処理を前提にして使用ずみ核燃料を「資産」に計上しているのが、直接処分になると「廃棄物」になるので、大幅な赤字が出る。しかしこれは国が会計処理を変更すればすむ。再処理工場を経営している日本原燃の経営も悪化するが、これも救済は可能だ。

このように国の関与を強めることが電力自由化に逆行するという批判もあるが、現状は原発が法的根拠もなく止められているなど、正常な状態ではない。また2018年には日米原子力協定の期限が切れるので、核燃料サイクルについての長期的な見通しを国が示す必要がある。このような路線転換は電力会社の合議では不可能であり、政治決断が必要だ。その意味で究極の責任は、内閣にある。

(2016年5月30日掲載)

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