日独エネルギー転換協議会-意見が一致する点、異なる点-

2018年04月29日 12:00
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東京大学大学院教授

日独エネルギー転換協議会(GJTEC)は日独の研究機関、シンクタンク、研究者が参加し、エネルギー転換に向けた政策フレームワーク、市場、インフラ、技術について意見交換を行うことを目的とするものであり、筆者も協議会メンバーの一人として議論に参加してきた。昨年9月の「ドイツとのエネルギー論議で感じたことはそのときの感想を綴ったものである。先般、2年間にわたる活動の成果としてIntensified German-Japanese Cooperation in Energy Reserarch – Key Results and Policy Recommendations と題する報告書がとりまとめられたので、その主要なポイントを紹介したい。

日独が一致した共同提言

協議会では(1)長期エネルギー転換シナリオの比較分析、(2)エネルギー転換の戦略的フレームワークと社会文化的側面、(3)電力市場デザインにおける市場参加者の役割、(4)省エネポテンシャルと政策の4つの研究テーマについて日独の研究機関が合計800ページにのぼる研究報告を作成した。これを踏まえ協議会メンバーのよる日独共同提言をとりまとめた。主な共同提言は以下の通りである。

  • 日独は高度の産業・技術国家として低炭素エネルギーシステムに向け、野心的な長期目標、戦略構築においてリーダーシップを発揮すべき。
  • 産業競争力とエネルギー安全保障を確保しつつ、2050年に向けてエネルギーセクターの構造改革を進めるべき。
  • 原子力においては見解を異にするものの、省エネ技術の導入、再エネの拡大にプライオリティを置くべき。
  • 太陽光や風力等のコスト低減を推進する一方、電力市場の設計にあたっては、柔軟性オプションと変性再エネの拡大に向けたインセンティブが必要。
  • 「省エネ第一」原則の下で、省エネポテンシャルとのギャップを埋めるべき。
  • 省エネと省資源のコベネフィットとシナジーを追求すべき。
  • 集中的インフラと分権的な活動(市民ファイナンス、エネルギー組合等)の共存を支援すべき。
  • 共同シナリオの作成や学術交流プログラムの設立などの研究協力を強化すべき。

当然のことながら脱原発を選択したドイツと、原子力オプションを保持する日本とでは考え方の違いがあり、この点についてコンセンサスを得ることは望めない。他方、共に高度な産業・技術国家である日本とドイツが共通の利益を追求できる分野も多い。ドイツはこれまで太陽光や風力等の再エネの出力変動を周辺国のグリッドも活用しながら吸収してきた。隣国と送電網が接続されていない日本に比して恵まれた環境にあったと言える。しかし再エネのシェアの更なる拡大を目指す中で、周辺諸国に「尻拭い」を押し付けてばかりもいられない。変動電源を国内電力システムでどう吸収してくのか、電力、運輸、熱部門の枠を超えたセクターカップリングをどのように進めていくのか、そのための政策手法をどうすべきか等、お互いに学べる点も多いだろう。

省エネも有望分野だ。IOTやAI、ビッグデータを活用しながら消費者の利便性を拡大しつつ省エネを進める革新的なモデルを追求できるはずだ。筆者は協議会の場で日独の低炭素技術を途上国に移転し、グローバルバリューチェーンへのインプットとしていくことにより、国境を越えた温室効果ガスの削減に貢献していくこと、長期の大幅削減につながるような革新的技術開発に向けて日独が協力を強化することを特に強調した。これらの点は報告書の中にも盛り込まれている。日本とドイツが国情や立場の違いを越え、共同提言をまとめあげた意義は大きい。

相互評価では見解の相違が

共同提言はコンセンサスベースで作成されたものであるため、意見対立を避け、表現が無難に丸められている側面もある。しかし報告書中、コンセンサスに基づかない部分もある。それは自国及び相手国のエネルギー転換についての相互にコメントする第4章である。このため、第4章には双方の考え方が非常に率直に述べられており、ある意味、コンセンサス部分よりも興味深いかもしれない。双方のコメントの主たるものを見てみよう。

【ドイツ側コメント】

  • ドイツのエネルギー転換は、再エネ推進、脱原発等、段階的、戦略的に進められており、大多数の国民がこれを支持している。
  • 日本は「エネルギー資源の乏しい国」とされているが、太陽光、風力、地熱、バイオマスの技術的ポテンシャルを最大限活用すれば、「エネルギー資源の豊かな国」と言える。
  • 再エネを最大限活用すれば、原子力、化石燃料を放棄しつつ、ドイツ並みの野心的な目標(2050年80-95%減)をリスク最小で達成できる。日本は将来のエネルギーミックスを検討するに当たって太陽光や風力に政治的なシェアを設定するのではなく、これらエネルギーのポテンシャルを真剣に検討すべきである。
  • 再エネのコスト低下は大きな課題であるが、FITはコスト面で問題なのではなく、むしろコスト削減に貢献する。重要なことはFITと併せ、ドイツのような再エネの優先給電を導入し、接続コストは再エネ発電事業者ではなく、最終消費者に負担させるべきである。これは化石燃料火力や原子力を有する既存事業者の市場支配力を低下させ、イノベーションを誘発し、コスト削減にもつながる。
  • 日本のエネルギー価格が高く、国際競争力上の懸念があることは理解するが、ドイツのエネルギー多消費産業はFITのコスト負担を免除されている。また日本の産業部門のエネルギー効率ではドイツに劣っており、効率改善によるコスト削減を追及すべきである。
  • 原子力シェア20-22%を前提とする日本の2030年目標は実現可能性に疑問があり(再エネ、省エネの役割を拡大した)プランBを考えるべき。
  • 80%削減は技術的、経済的に可能であり、エネルギー転換を進めることにより、今後、低炭素技術への需要が拡大する世界市場での競争力を強めることになる。
  • 2050年までの道筋をモデル化せずに2030年目標をボトムアップで設定することは高炭素技術をロックインすることにつながる。

【日本側のコメント】

  • 福島事故以降、「脱原発、再エネ推進でドイツを見習え」という議論があるが、各国のエネルギー政策は地理、資源、経済等、国情の違いを考慮して策定されるべきであり、ドイツと日本とでは大きな違いがある。
  • 隣国と送電網で接続されたドイツと異なり、日本の送電網は近隣国から孤立しているため、変動再エネの吸収がそれだけ難しい。日本の土地は平地面積が少なくメガソーラーや風力発電所の適地が限られることに加え、風力適地は遠隔地に存在するため接続コストが高い。台風や地震の多い日本では安全基準も厳しく高コストにつながる。
  • 再エネコストには地域性があり、ある国において再エネの発電コストが既存電力を下回ったとしても、それが日本に当てはまるものではない。
  • 再エネや省エネに投資をすることが、それ自体マクロ経済にプラスの影響を与えるのは事実だが、その結果、エネルギーコストが上昇すれば産業競争力、可処分所得、雇用に影響を与える。ドイツがエネルギー転換のコストに対して楽観的な背景の一つは、ユーロ圏に属し、国際競争面で有利な立場にあること、貿易相手国もEUが7割であることにも起因するのではないか。これに対して日本は貿易相手国の7割がAPEC諸国であり、エネルギーコスト上昇による国際競争上への懸念がより強い。
  • ドイツではエネルギー転換のコストを産業部門に軽く、家庭部門に重く課しているが、日本の消費者は産業部門の負担を肩代わりすることにはネガティブである。
  • 2030年原発シェア20-22%の実現が困難な場合は、26%削減を所与とするのではなく、その時点の化石燃料価格、再エネ価格、国内外の経済情勢等を総合的に勘案して新たなエネルギーミックス、CO2削減目標を策定すべきである。
  • ドイツは2030年目標を2050年目標からバックキャストして設定しているが、日本はボトムアップで緻密に設定された2030年目標と、大きな方向性としての2050年目標とは性格が異なると考えている。温暖化の科学、技術、経済、内外政治情勢等、多くの不確実性の存在する2050年からのバックキャストは柔軟性を欠く管理経済的なアプローチにつながる。
  • ドイツは生産ベースの国内排出削減に焦点を当てているのに対し、日本は技術移転やイノベーションを通じた国境を越えた排出削減を重視している。
  • ドイツのエネルギー転換は再生可能エネルギー推進と脱原発には成功しているが、2020年目標の断念に代表されるようにCO2排出削減には成功していない。CO2排出減よりも脱原発を優先したように見える。またドイツ商工会議所や会計検査院が指摘するように中小企業や家庭部門に重い負担が生じており、費用対効果の点でも疑問がある。

友人間ではAgree to Disagreeも必要

 このようにコンセンサス不要の相互評価では日独双方の考え方の違いが明確である。ドイツ側の評価は再エネ推進論者や環境NGOの主張とほぼ同じであり、彼らの間でドイツが大人気なのもよくわかる。筆者も協議会の場でドイツ側と激しい議論になったこともある。しかし総合的に見れば2年間、協議会での議論に参加し、お互いの考え方のバックグラウンドについての相互理解(合意ではないにせよ)が深まったことは非常に有益であったと思う。4月に日独エネルギー転換協議会のアウトリーチイベントがベルリンで開催され、日本側メンバーとしてドイツ側ヘッドのヘンニケ教授と共に協議会の成果を報告した。その際、「友人であることは全ての点で意見が一致することを意味するものではない、意見の違いを尊重しつつ、協力できる分野で協力することこそが重要である」と述べた。先に述べたように高度な産業・技術国家である日本とドイツが協力できる分野は多い。協議会が今後も継続するかどうかは未定だが、それが実現すれば引き続き議論に参加したいと思う。

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