冬までに泊原発を再稼動して命を守れ
北海道の地震による大停電は復旧に向かっているが、今も約70万世帯が停電したままだ。事故を起こした苫東厚真火力発電所はまだ運転できないため、古い火力発電所を動かしているが、ピーク時の需要はまかないきれないため、政府は計画停電を検討している。北海道の電力は足りてないのだ。北海道の電力供給がぎりぎりで危険な状態にあることは、以前から多くの専門家が指摘してきた。
今回の大停電の直接の原因は、震源の真上にあった苫東厚真発電所が地震で停止したことだ。図のように苫東は北海道の電力網のハブのような位置にあり、3基で出力165万kWと北海道の最大消費電力380万kWの4割を発電している。これがすべて地震で停止したため、事故が同じ送電網の他の発電所に連鎖的に波及したのだ。
大停電が起こるときは徐々に起こるのではなく、一つの送電網のすべての発電所が一挙にダウンする。電力供給は「同時同量」で、つねに需要と供給が一致していないといけない。電力需要が供給を上回って発電所に過大な負荷がかかると、電力の周波数が下がり、電気設備や電子機器が壊れるので、発電所が送電網から切り離される。
今回は苫東が停止して、同じ送電線につながる他の発電所に大きな負荷がかかった。これを他の発電所で吸収できれば送電は続けられるが、地震の発生当時、苫東は全電力の55%を発電していたので、送電網全体で供給が不足して発電所が送電網から遮断され、連鎖的に大停電が起こったのだ。
つまり今回の事故の最大の原因は電力供給が需要を大幅に下回り、苫東の停止による負荷を他の発電所が吸収できなかったことにある。一時的には本州との連系線も動いたようだが、これは最大でも60万kWで、苫東の脱落をカバーできない。
これをマスコミは「北海道電力が発電所を集中配置したためだ」と批判しているが、図でもわかるように泊原発(207万kW)は苫東から100km近く離れた場所に分散配置されており、今回は震度2だった。通常なら原発は(地震の起こった)深夜の3時にはフル稼働しているので、苫東が落ちても残りの約100万kWの負荷は、他の火力と北本連系線で吸収できたはずだ。
ところがその泊が動かせない。安全審査はほぼ終わったが、「敷地内の断層が12~3万年以降に動いたかどうか」をめぐって紛糾しているからだ。その基準は曖昧で法的根拠もないが、北電は設備の増設をためらってきた。人口の減少する北海道で発電所を増やすと、泊が動いたら設備が大幅に余ってしまうからだ。
安全性の問題というなら、12万年前の断層より、今年の冬にまた大停電が起こるリスクのほうがはるかに大きい。上にも書いたように大停電の原因は発電所に過大な負荷がかかったことだから、地震だけでなく送電線の断線などの技術的な事故でも起こりうる。
根本的な問題は、北海道の電力インフラが綱渡り状態にあることだ。今まで経産省も北海道庁も責任を北電に押しつけて逃げてきたが、真冬に大停電が起こったら多くの凍死者が出るだろう。そのときは行政の責任が問われる。北海道民の命を守るために、泊の再稼働を急ぐべきだ。
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
福島第1原発事故以来、日本では原発による発電量が急減しました。政府と電力会社は液化天然ガスによる発電を増やしており、その傾向は今後も続くでしょう。
-
米最高裁、発電所温暖化ガス排出の米政府規制制限 6月30日、米連邦最高裁は、「発電所の温暖化ガス排出について連邦政府による規制を制限する」判断を示した。 南部ウェストバージニア州など共和党の支持者が多い州の司
-
4月5日、ロバート・F・ケネディ・ジュニアが、2024年の大統領選に立候補するために、連邦選挙委員会に書類を提出した。ケネディ氏は、ジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、暗殺されたロバート・F・ケネディ元司法長官の息子であ
-
世界の太陽光発電事業は年率20%で急速に成長しており、2026年までに22兆円の価値があると予測されている。 太陽光発電にはさまざまな方式があるが、いま最も安価で大量に普及しているのは「多結晶シリコン方式」である。この太
-
学生たちが語り合う緊急シンポジウム「どうする日本!? 私たちの将来とエネルギー」(主催・日本エネルギー会議)が9月1日に東京工業大学(東京都目黒区)で開催された。学生たち10名が集い、立場の違いを超えて話し合った。柔らかな感性で未来を語り合う学生の姿から、社会でのエネルギーをめぐる合意形成のヒントを探る。
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
米国のロジャー・ピールキー(Roger Pielke Jr.)は何時も印象的な図を書くが、また最新情報を送ってくれた。 ドイツは脱原発を進めており、今年2022年にはすべて無くなる予定。 その一方で、ドイツは脱炭素、脱石
-
昨年9月1日に北海道電力と東北電力の電力料金値上げが実施された。これで、12年からの一連の電力値上げ申請に基づく料金値上げが全て出そろったことになる。下表にまとめて示すが、認可された値上げ率は各電力会社の原発比率等の差により、家庭等が対象の規制部門で6・23%から9・75%の範囲に、また、工場やオフィスビルを対象とする自由化部門で11・0%から17・26%である。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間