新型コロナに生かされない福島の教訓
いまだにワイドショーなどで新型コロナの恐怖をあおる人が絶えないので、基本的な統計を出しておく(Worldometer)。WHOも報告したように、中国では新規感染者はピークアウトした。世界の感染はそこから1ヶ月ぐらい遅れて広がっているが、新規感染者の増加率はほぼ一定だ。退院者も増えているので、病院で処置を受ける患者は減っている。

新型コロナの累計患者数(患者数-回復者数)
新型コロナは単なる風邪なので、感染者数を正確に把握する意味はない。ほとんどの感染者は発症せず、自分でも気づかないうちに免疫を獲得して感染は終息する。マスコミでは韓国やイタリアやイランのケースばかり報道されているが、この3ヶ国で中国以外の感染者の80%を占める。これは医療が崩壊した例外であり、日本は世界の2.2%である。

中国以外の新型コロナ患者の分布
日本でも新規患者数は、2月28日の24人をピークとして、やや減っている。「安倍政権がPCR検査を受けにくくして感染者を減らしている」という陰謀論もあったが、検査数が3倍の5690名になっても、患者数(有症数)は16名しか増えていない。
ただ今後も新規感染者が増える可能性はある。特に北海道では「感染者が940人になる」という専門家会議の予測もあるので、日本国内で累計1000人程度にはなるかもしれないが、日本のこれまでの増加ペースは世界の平均程度で、それほど心配する必要はない。
危険なのは、韓国のように国民がパニックになって無症状の人までPCR検査を受け、陽性の人をすべて入院させて医療が崩壊することだ。「医師が認めたらすべて検査を受けさせる」という安倍政権の方針は危険である。
福島の教訓は「ゼロリスク」の危険
新型肺炎だけに「ゼロリスク」を求めるのは、2011年に福島第一原発事故の放射能だけにゼロリスクを求めた人々と同じ錯覚なのだ。リスクは確率的な期待値である。それは次のような式で書ける。
リスク=被害×確率
新型肺炎の被害(感染力や致死率)がインフルエンザの20倍だとしても、その患者に出会う確率が10万分の1だったら、リスクはインフルエンザの5000分の1だ。新型肺炎にゼロリスクを求めて騒ぐのは、福島でゼロリスクを求めて風評被害を生み出した民主党政権の失敗を繰り返すものだ。
今の日本は、感染症の爆発的流行が起こる医療環境にはない。武漢で7万人近い感染が発生したのは、発生初期に中国共産党が情報を隠蔽するなど、特殊な条件で起こったものだ。もちろん状況はまだ不確実なので楽観は禁物だが、過剰反応はもっと危険である。福島で放射能による健康被害はまったくなかったが、 パニックによる風評被害はまだ消えない。 その教訓に改めて学ぶときである。

関連記事
-
2月25日にFIT法を改正する内容を含む「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。 条文を読み込んだところ、前々からアナウンスされていたように今回の法改正案の
-
福島産食品などがむやみに避けられる風評被害は、震災から4年以上たってもなお根深く残り、復興の妨げとなっている。風評被害払しょくを目指す活動は国や県だけでなく、民間でも力を入れている。消費者の安心につながる食事全体での放射線量の調査や、企業間で連携した応援活動など、着実に広がりを見せている。
-
言論アリーナ「原子力をめぐる「空気」を考える」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 福島第一原発事故から7年たちましたが、原子力をめぐる国民感情は意外に変わりません。「原発がなくても電力は足りてるじゃないか」という
-
原子力規制委員会の活動は、法律違反と言えるものが多い。その組織に対しては、やはり外からのチェックが必要であろう。
-
こちらの記事で、日本政府が企業・自治体・国民を巻き込んだ「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を展開しており、仮にこれがほとんどの企業に浸透した場合、企業が国民に執拗に「脱炭素」に向けた行動変容を促し、米国
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では過去の地球温暖化は100年あたりで約1℃
-
福島原発事故で流れ出る汚染水への社会的な関心が広がっています。その健康被害はどのような程度になるのか。私たちへの健康について、冷静に分析した記事がありません。
-
東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間