山中伸弥氏の「コロナ10万人死亡説」は大丈夫か
日本循環器学会で、政府の有識者会議の委員になった山中伸弥氏が、西浦博氏と対談した動画が公開されている。山中氏は西浦氏の「40万人以上死ぬ可能性がある」という話について「先生のおっしゃることはまったくその通りだ」と賛成してこう語る(8:00~)。
アメリカはロックダウンをあれだけやって、日本なんか比べものにならないぐらいの対策をやって、それでも今大変なことになっているわけです。アメリカは300万人近くが感染されて13万人近くが亡くなっているわけです。
それをみても、ウイルスの潜在的な恐ろしさは、それは対策をとらなければ日本でも何十万人が亡くなってしまうというのは間違いないことだと思うんです。何も対策をしなければ。実はそれは今も変わっていないんじゃないんかと。
結局日本というのは感染者がそれまで広がらなかったので、その数は一緒で、40万人なのか30万人なのか20万人なのかというのは別ですが、いまだに日本はもし何も対策をとらなければ、今からでも10万人以上の方がなくなる、それぐらいのウイルスがまだそのあたりにいっぱいいてるんだという事実は僕たちは絶対忘れてはいけないことだと僕は思ってるんですが、そのあたりは先生も同じでしょうか?
この質問に対して西浦氏は直接答えないで、致死率の話ではぐらかしている。その口ぶりでは「40万人以上死ぬ」という予測は撤回したようだが、むしろ山中氏が「間違いない」とか「絶対」という強い口調で恐ろしさを強調しているのが印象的だ。
「何十万人が亡くなってしまう」とか「10万人以上の方がなくなる」という話はアバウトだが、おそらく「何もしないと10万人から40万人が死亡する」と山中氏は思っているのだろう。
「日本なんか比べものにならないぐらいの対策をやったアメリカで13万人死んだから日本はそれ以上死ぬ」という論理は逆だ。人口で比例配分すると日本でも5万人死ぬはずだが、現実の死者は1000人弱。アメリカより「丸腰」に近い日本で、死者がこれから50倍以上に爆発することはありえない。
山中氏が「何もしなかったら」を繰り返しているのをみると、彼も西浦氏のトリックに引っかかっているようにみえる。丸腰の死者というのは統計に存在しない仮想の数字だから、それを大きく設定すれば感染症対策の効果はいくらでも大きくなる。
もし日本で丸腰の死者42万人を感染症対策で1000人におさえこんだとすると、対策の効果は420倍だから、それ以上の対策をとったアメリカの丸腰の死者は5500万人以上ということになる。これは山中氏のいう「ファクタ-X」仮説とも矛盾するが、彼は本気でそう信じているのだろうか。
問題は感染者数ではなく医療資源
ただ最近の東京のように無症状の人にも検査を拡大すると、感染者数が増えることは考えられる。むしろ今までPCR検査が発症者に限られていたので過少に出ていた可能性があるが、感染者数は大した問題ではない。緊急事態宣言を出す基準は、重症患者数が医療資源の制約内におさまるかどうかである。
図のようにきのう東京の入院患者は487人と46人増えたが、コロナ用に確保したベッドは1000あり、まもなく3000に増やす予定だ。人工呼吸器などの必要な重症患者は一貫して減っており、きのうは5人。死者は16日連続でゼロである。集中治療医学会のホームページによると、全国に2万台ある人工呼吸器のうち、コロナ患者に使われているのは62台である。
東京の感染者の80%は30代以下で、重症化のリスクはほとんどない。無症状の若者が高齢者に感染させて重症化するのでもっと検査を増やせという意見もあるが、そんなことを言い出したら、毎年1000万人の患者が出て1000人が死ぬインフルエンザも全員検査するのか。
病気はコロナだけではない。マスコミが騒ぐ特定の病気だけに感情的な「安心」を追求して医療資源を集中したら、病院がそれ以外の病気に対応できなくなって超過死亡が増えるというのがこれまでの経験である。
山中氏はこれから有識者会議で感染症対策を指揮するわけだが、彼が「10万人以上死ぬ」と思っているとすれば、また緊急事態宣言が発令される可能性もある。日本は大丈夫だろうか。
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