炭素税って何?

2021年03月30日 23:34
アバター画像
アゴラ研究所所長

4月の日米首脳会談では、炭素税(カーボンプライシング)がテーマになるといわれています。EU(ヨーロッパ連合)は今年前半にも国境炭素税を打ち出す方針で、アメリカのバイデン政権も、4月の気候変動サミットで炭素税を打ち出す可能性があります。マスコミは「日本は世界の流れに乗り遅れるな」といっていますが、これはそう単純な問題ではありません。

Q1. 国境炭素税って何ですか?

ひとことでいうと、CO2にかける関税です。といっても単なる保護主義ではなく、地球環境を守るという理由があります。今でもEUの域内ではETS(排出枠取引制度)があり、温室効果ガスの排出枠を売買していますが、それを輸入品にも適用しようというものです。

Q2. どういうふうにかけるんですか?

次の図は市川眞一さんの解説から借りてきたものですが、EUの域内でかけている炭素税と同じ税率を域外からの輸入品にもかけるものです。輸出するときは、域内でかかった炭素税を還付します。

市川眞一さんの図

Q3. これにはどういう影響がありますか?

国境炭素税は関税ですから、日本からEUへの輸出品の価格が上がり、売れなくなるでしょう。たとえば自動車の場合は、工場で自動車をつくるとき消費するCO2の量も計算するので、日本のように電力の75%が化石燃料だと、税率が非常に高くなります。

Q4.日本でも炭素税がかかるんですか?

国境炭素税は普通の関税とはちがい、国内で炭素税をとっている国は軽減されます。たとえばEUの国境炭素税が10%なら、日本も10%の炭素税をとれば関税はゼロです。EUにとられるより国内で炭素税をとったほうがましなので、各国の国内でも炭素税ができるでしょう。

Q5. 国内の炭素税はどんなしくみですか?

これは国境炭素税と同じようなしくみを国内でも使って、CO2の排出量1トンあたりいくらという形でかけます。たとえばトンあたり1万円だと、ガソリン1リットルあたり6円ぐらいになります。ガソリンの価格を150円とすると、税率は4%ぐらいです。

Q6. 炭素税の税率はどれぐらいですか?

スウェーデンはトンあたり約1万5000円、スイスは約1万1000円、フランスは約5600円とバラバラで、かけていない国も多い。実は日本でも「地球温暖化対策税」をかけていますが、これはトンあたり289円だけです。

Q7. これから税率は上がるんですか?

炭素税は化石燃料の消費を減らすための税金ですから、少額では効果がありません。たとえばビル・ゲイツさんは「CO2排出ゼロにするにはガソリンに106%ぐらい税金をかけるべきだ」といっています。

Q8. 日本ではどうなるんですか?

日本でも菅首相の約束した「2050年カーボンニュートラル宣言」を踏まえて、今年から炭素税の検討が始まりました。小泉進次郎環境相はカーボンプライシングを推進しているので、日本でも多かれ少なかれ炭素税は出てくるでしょう。

Q9.  炭素税は何に使うんですか?

炭素税は財源ではなくCO2排出へのペナルティなので、使い道は一般財源にすべきです。今の固定価格買取制度(FIT)のように、電力利用者の賦課金を再エネ業者に移転することは好ましくありません。税収中立にするには、炭素税の分だけ法人税を減税するという提案もあります。

Q10. 炭素税は何%ぐらいかければいいんでしょうか?

地球温暖化の弊害はどれぐらい大きいのか、今のところよくわからないので、最初はトンあたり40ドルぐらい課税し、必要なら増税するというのが、3500人の経済学者の共同提案です。

Q11. 新たに炭素税を設けると増税になりますね?

日本はすでに実質的にかなり高い炭素税をかけているので、今後EUなどと交渉するときは、これまでのFIT賦課金などを炭素税に換算する必要があるでしょう。FITのようなアドホックな補助金や税金をやめ、炭素税に一本化することが理想です。

脱炭素化は小泉さんや日経新聞が幻想を振りまいているような「成長の源泉」ではなく、社会全体の負担です。2050年にCO2排出をゼロにするには、毎年100兆円以上の負担が必要です。これを炭素税に置き換えると、現在の税収のほぼ2倍です。地球温暖化が本当に深刻な問題なら一定の負担は必要ですが、適正な負担を決めるには炭素税として目に見える形にして、国民が選挙で選択すべきです。

This page as PDF

関連記事

  • 「電力システム改革」とはあまり聞きなれない専門用語のように思われるかもしれません。 これは、電力の完全な自由化に向けて政府とりわけ経済産業省が改革の舵取りをしています。2015年から2020年にかけて3ステップで実施され
  • 途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。 全部先進国が撒いた種だ。 ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう: 米国では、西部
  • 9月24日、国連気候サミットにおいて習近平国家主席がビデオメッセージ注1)を行い、2035年に向けた中国の新たなNDCを発表した。その概要は以下のとおりである。 2025年はパリ協定採択から10年にあたり、各国が新しい国
  • 学生たちが語り合う緊急シンポジウム「どうする日本!? 私たちの将来とエネルギー」(主催・日本エネルギー会議)が9月1日に東京工業大学(東京都目黒区)で開催された。学生たち10名が集い、立場の違いを超えて話し合った。柔らかな感性で未来を語り合う学生の姿から、社会でのエネルギーをめぐる合意形成のヒントを探る。
  • 筆者は「2023年はESGや脱炭素の終わりの始まり」と考えていますが、日本政府や産業界は逆の方向に走っています。このままでは2030年や2040年の世代が振り返った際に、2023年はグリーンウォッシュ元年だったと呼ばれる
  • 昨年末の衆議院選挙・政権交代によりしばらく休止状態であった、電力システム改革の議論が再開されるようだ。茂木経済産業大臣は、12月26日初閣議後記者会見で、電力システム改革の方向性は維持しつつも、タイムスケジュール、発送電分離や料金規制撤廃等、個々の施策をどのレベルまでどの段階でやるか、といったことについて、新政権として検証する意向を表明している。(参考:茂木経済産業大臣の初閣議後記者会見の概要
  • 金融庁、ESG投信普及の協議会 新NISAの柱に育成 金融庁はESG(環境・社会・企業統治)投資信託やグリーンボンド(環境債)の普及に向けて、運用会社や販売会社、企業、投資家が課題や改善策を話し合う協議会を立ち上げた。
  • 再生可能エネルギーの先行きについて、さまざまな考えがあります。原子力と化石燃料から脱却する手段との期待が一部にある一方で、そのコスト高と発電の不安定性から基幹電源にはまだならないという考えが、世界のエネルギーの専門家の一般的な考えです。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑