地球の平均気温が上がると世界の死者は減る

2021年07月21日 10:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

権威ある医学誌The Lancet Planetary Healthに、気候変動による死亡率の調査結果が出た。大規模な国際研究チームが世界各地で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した結果は、次の通りである。

  1. 「最適でない気温」によって、全世界で毎年508万人の超過死亡が出た。
  2. このうち寒さによる死者は459万人で、全死者の9.43%にあたる。
  3. 暑さによる死者は49万人で、0.91%である。
  4. 20年間に寒さによる超過死亡率は0.51%減り、暑さによる超過死亡率は0.21%増えた。
  5. 合計すると、気候変動で世界の超過死亡率は0.3%減った。

この20年の気候変動で、世界の死者は毎年15万人以上減った。この調子で今後も気温が上がると、温暖化で死者が増える以上に寒冷化で死者が減り、全死者は減るだろう。この論文はこう結論している。

世界の平均気温は10年ごとに0.26°C上昇し、寒さによる死者は大幅に減ったが、暑さによる死者はやや増えた。この結果は、地球温暖化が正味の気温に関連する死者をわずかに減少させる可能性があることを示している。

ただ地域的な片寄りが大きい。寒さによる死亡率が世界でもっとも高いのは、サブサハラのアフリカである。これは意外だが、アフリカでも冬は寒いので、気温を保つ住宅がないと死ぬのだ。東欧では、暑さで超過死亡率が世界平均の5倍以上である。

この20年の変化をみると、図のように寒さによる超過死亡率(青い部分)は、世界のほとんどの地域で減った。減少率が最大だったのは、東南アジアとオセアニアである。暑さによる超過死亡率(赤い部分)はほとんどの地域で増えたが、オセアニアと東欧で増加率が大きかった。

世界各地の10年間の超過死亡率の変化(%)

地球の平均気温はまだ「最適気温」より低い

今後については、この研究は「長期的には死亡負担が増えると予想される」と書いているが、「死亡負担」とは何のことか説明がない。過去20年で気温が0.5℃上がって死亡率が0.3%下がったのだから、今後しばらくは温暖化で死亡率は下がると予想される。

今回の調査には温暖化で起こる洪水などの災害による死者は含まれていないが、これも雪や氷河の災害が減るメリットとどっちが大きいかはわからない。今後、温暖化の死亡率が相対的に増えるとしても、それが寒冷化の死亡率を上回る日が、近い将来に来るとは考えられない。

気候変動で騒ぐ人々は、暗黙のうちに現在の気温が最適だと想定しているが、地球の平均気温が上がって死者が減るのは、地球の平均気温はまだ最適気温より低いことを示している。

最適気温はこの超過死亡率が下げ止まる気温だが、寒さによる死亡率は暑さの9倍。これが逆転するには、あと3℃以上の気温上昇が必要だろう。巨額のコストをかけて温暖化を止めるのは、無益というより有害なのだ。

This page as PDF

関連記事

  • きのうのアゴラシンポジウムでは、カーボンニュートラルで製造業はどうなるのかを考えたが、やはり最大の焦点は自動車だった。政府の「グリーン成長戦略」では、2030年代なかばまでに新車販売の100%を電動車にすることになってい
  • 政府エネルギー・環境会議から9月14日に発表された「革新的エネルギー・環境戦略」は2030年代に原子力発電ゼロを目指すものであるが、その中味は矛盾に満ちた、現実からかけ離れたものであり、国家のエネルギー計画と呼ぶには余りに未熟である。
  • 東日本大震災とそれに伴う津波、そして福島原発事故を経験したこの国で、ゼロベースのエネルギー政策の見直しが始まった。日本が置かれたエネルギーをめぐる状況を踏まえ、これまでのエネルギー政策の長所や課題を正確に把握した上で、必要な見直しが大胆に行われることを期待する。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 管政権の目玉政策の一つが「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」であり、日本だけでなく国際的にも「脱炭素」の大合唱しか聞こえないほどである。しかし、どのようにして「脱炭素社会」を実
  • 小泉元首相の「原発ゼロ」のボルテージが、最近ますます上がっている。本書はそれをまとめたものだが、中身はそれなりの知識のあるゴーストライターが書いたらしく、事実無根のトンデモ本ではない。批判に対する反論も書かれていて、反原
  • 筆者は基本的な認識として、電力のビジネスモデルの歴史的大転換が必要と訴えている。そのために「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱している。
  • 山本隆三
    英国のEU離脱後の原子力の建設で、厳しすぎるEUの基準から外れる可能性、ビジネスの不透明性の両面の問題が出ているという指摘。
  • 遺伝子組換え農作物が実用化されて20年以上が経過した。1996年より除草剤耐性ダイズや害虫抵抗性トウモロコシなどの商業栽培が開始され、2014年には世界の1億8150万ヘクタール(日本の国土の4.8倍)で遺伝子組換え農作物が栽培されている。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑