SDGsコンサルは自己矛盾に気が付いているのか
前回、SDGsウォッシュを見極める方法について提案しました。
SDGsに取り組んでいると自称している企業や、胸にSDGsバッジを付けている人に以下の2つを質問します。
① その活動(事業、ビジネス等)は2015年9月以降に開始したものですか。
② 2015年9月以降に始めた場合、その活動はSDGsがあったから生まれたものですか。
この両方を満たさなければ、SDGsウォッシュと言われる可能性があることを、企業は肝に銘じるべきです。この①②の質問は、SDGsによる行動変革や付加価値の有無を問うています。仮に2015年8月以前から行っていた活動であれば何も行動が変わっておらず、またSDGsがなくても生まれた・成立した活動であればSDGsによる付加価値は何もないはずです。この①②を満たさない活動は、後付けで上塗りしたSDGsタグ付けなのです。

metamorworks/iStock
SDGsコンサルの皆さんは、クライアントに対して「この①②を満たさないのにサステナビリティ報告書や会社案内等の冊子、自社のwebサイトにSDGsマークを付記したり、役員や従業員が胸にSDGsバッジを付けるのはSDGsウォッシュになるので直ちにやめてください」と指導しなければならないはずです。
ところが、SDGsの発行から6年が経った現在でも「今の活動をSDGsに紐づければOKです」と言い続けるコンサルタントが溢れています。これではクライアントの行動変革になっていないため、今のSDGsが普及すればするほど、今のSDGsの事例が増えれば増えるほど、持続不可能な社会へ進むことになってしまいます。
「SDGsはビジネスチャンスです」「あらゆるセクターに関連します」「大企業だけでなく中小企業も取り組まなければなりません」こんなことを言わなければよいのです。ビジネスチャンスとは本来、気が付いた人が誰にも言わず秘かに取り組むことで利益を得られるものです。従って、国連が作成し公開されている17分類169項目の文書がビジネスチャンスになろうはずがありません。仮にビジネスチャンスであれば、全世界に普及させるのではなく、早く知った企業がいち早く独占したいはずです。「SDGsはビジネスチャンスです」と言うコンサルタントや大学教授などはビジネスの鉄則を知らないのです。SDGsはビジネスチャンスでもなければ、あらゆるセクターに関連するものでもありません。企業にとっては、一部の業種で新規ビジネスを起こすうえで有益な側面もある、といった程度のものです。
普及を目的化するからこんな誤謬が起こってしまいます。普及は手段であって目的にあらず。前回述べた通り、現状の持続不可能な経済活動を緊急かつ大胆に持続可能な経済活動へ変革することこそがSDGsの目的なのです。筆者がSDGsを推進するコンサルの立場だったら、従来の活動を棚卸してタグ付けした後に、「現在白地の分野で新たな活動や新規ビジネスを始められたら初めてSDGsマークを付けてもよいですよ」と伝えます。これがSDGsの付加価値であり、クライアントの行動変革にもつながるはずです。
もしもSDGsが本当に規模や業態を問わずあらゆる企業に関連するビジネスツールであって、SDGsを全く知らない企業に一から勉強させ世の中に普及させることでビジネスチャンスが広がるのであれば、SDGsコンサルタントの皆さんはクライアントにSDGsへ取り組んでもらったうえで、新規に得られた利益からたとえば1%などを受け取る成果報酬型にしたらどうでしょうか。SDGsを解説したりタグ付けしただけでクライアントから報酬を受け取るなんて筆者にはできません。
SDGsコンサルの避けがたい宿命として、貧困や人権といった社会課題、気候変動や資源枯渇といった地球環境問題が解決に向かえば向かうほどコンサルの機会が減ってしまいます。つまり、課題は課題のままで残り続け、より深刻化する方が都合がよいのです。その上で、顧客(=コンサルティングビジネスの市場)は拡大することが好ましいので、現状のようにSDGsの普及のみが目的化してしまいます。SDGsコンサルはこの自己矛盾に気が付いているのでしょうか。SDGsは社会課題や地球環境問題の解決ではなく、コンサルや専門家自身のビジネスを持続可能にするためのツールになってしまっているのです。企業はSDGsの本質や実態をよく見極めてほしいと思います。

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