エネルギー危機の東欧諸国がEUの脱炭素政策に異議申立て
EUのエネルギー危機は収まる気配がない。全域で、ガス・電力の価格が高騰している。
中でも東欧諸国は、EUが進める脱炭素政策によって、経済的な大惨事に直面していることを認識し、声を上げている。

Leestat/iStock
ポーランド議会は、昨年12月、EUのエネルギーシステムが「新しい気候政策手段の採用と実施に伴い、ポーランドにとって大きな脅威となった」とする決議を採択した。
隣国のチェコでも、閣僚たちが、エネルギー価格の急上昇を警告し、この冬、電気をつけ家を暖かく保つための化石燃料の使用に対して、EUがより寛大な態度をとるよう要請した。
現在の危機の要因は複数指摘されている。パンデミックの規制が緩和されて経済活動が予想以上に再開されたこと、エネルギー市場の自由化に伴い天然ガスの在庫が減少していたことなどである。
だが何よりも、天然ガスへの依存度が高まったのは、EUの脱炭素政策の結果だ。石炭火力発電を減らし、出力が不安定な再生可能エネルギーを大量導入したことで、両者の代わりに天然ガス火力に依存せざるを得なくなった。
これは大きな地政学的影響を伴う。EUの天然ガス供給量の約半分はロシアからのものだからだ。
かくして、欧州の電力供給の主導権はクレムリンに奪われつつある。かつてソ連に支配された苦い経験を持つ東欧諸国は、EUで策定された脱炭素政策のせいで、ロシアの地政学的脅威が高まることを警戒している。
EUは排出権取引制度(ETS)を採用しているが、これによって石炭、次いで天然ガスが、経済的に不利になっている。長期的には、EUはエネルギー市場から化石燃料を完全に排除することを目指している。
当然のことながら、このETSは、化石燃料への依存度が高い東欧の加盟国では非常に不人気だ。
チェコでは、全エネルギー生産量の半分以上を化石燃料が占めており、ポーランドでは80%以上となっている。
今後、エネルギー市場がますます制約され、ロシアが供給を支配するようになる。これは悪夢だ。
欧州委員会は、ETSを強化・拡大することに熱心だ。だが東欧諸国は、そのツケを払わされるのは自分たちだという事実に気づいている。
チェコのカレル・ハブリチェク産業貿易相は、国内で代替エネルギーが化石燃料に取って代わるには20年はかかるだろうと警告した。
ポーランドでは、今年初めにEUが褐炭を産する巨大なトゥルフ炭鉱の閉鎖を指示したことで、マテウス・モラヴィエツキ首相が「エネルギー災害」と「巨大な社会問題」が生じる、と警告した。
これらの国々は、今後数十年にわたり、多かれ少なかれ、化石燃料に依存することにならざるを得ない。ETSによって石炭の経済性はますます悪化し、天然ガスの供給はプーチン大統領のコマとなる。アジアとの経済競争も激化している。東欧諸国は将来を不安視している。
なお悪いことに、ETSではCO2価格が高騰し、エネルギー危機に拍車をかけている。
昨年末に開催されたEU首脳会議では、ポーランドはETSの完全な停止を要求した。チェコのアンドレイ・バビシュ首相は、エネルギー危機を打開するためとして、4億単位の排出権を市場に放出することを要求した。
これらの国々は、化石燃料の価格が高騰し、入手が困難になった結果、経済的な大惨事に直面していることを認識している。チェコでは、昨秋に大手電力会社のボヘミア・エナジー社が倒産。100万件の顧客が契約切り替えを余儀なくされた。
今のところ西欧諸国は化石燃料からの脱却に積極的だ。だが中・東欧諸国こそが、真っ先にこの巻き添えとなって、経済的な打撃を受けてしまうのだろうか。
■

関連記事
-
貧困のただなかにある人達は世界の大企業をどうみるだろうか。あるいは、貧困撲滅が最大の政治課題である途上国政府は世界の大企業をどうみるだろうか。
-
15年2月に、総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループで、高レベル放射性廃棄物の最終処分法に基づく基本方針の改定案が大筋合意された
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 今回は、環境影響(impact)を取り扱って
-
7月21日(日本時間)、Amazonの創始者ジェフ・ベゾスと3人の同乗者が民間初の宇宙飛行を成功させたとして、世界中をニュースが駆け巡った。ベゾス氏の新たな野望への第一歩は実に華々しく報じられ、あたかもめでたい未来への一
-
石炭火力発電はCO2排出量が多いとしてバッシングを受けている。日本の海外での石炭火力事業もその標的にされている。 だが日本が撤退すると何が起きるのだろうか。 2013年以来、中国は一帯一路構想の下、海外において2680万
-
エネルギー・環境問題を観察すると「正しい情報が政策決定者に伝わっていない」という感想を抱く場面が多い。あらゆる問題で「政治主導」という言葉が使われ、実際に日本の行政機構が政治の意向を尊重する方向に変りつつある。しかし、それは適切に行われているのだろうか。
-
米国出張中にハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」を手にとってみた。大変読みやすく、かつ面白い本である。 冒頭に以下の13の質問が出てくる。 世界の低所得国において初等教育を終えた女児の割合は?(20% B.40% C
-
先進国では、気候変動対策の一つとして運輸部門の脱炭素化が叫ばれ、自動車業界を中心として様々な取り組みが行われている。我が国でも2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」宣言の中で、2035年以降の新車販売は電気
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間