今が瀬戸際の日本の高速炉開発

2022年01月31日 06:30
澤田 哲生
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

「もんじゅ」以降まったく不透明なまま

2016年12月に原子力に関する関係閣僚会議で、高速原型炉「もんじゅ」の廃止が決定された。それ以来、日本の高速炉開発はきわめて不透明なまま今に至っている。

高速増殖原型炉「もんじゅ」
出典:Wikipedia

この関係閣僚会議の決定では、「もんじゅ」の廃止と引き換えに、従来通りに高速炉を中核とした「核燃料サイクルを維持していくこと」が明記された。そして、米国やフランスなどと国際協力を進めながら、高速炉の研究開発を行っていくとされた。

その後2018年12月に『戦略ロードマップ』が同閣僚会議で決定された。ロードマップの最も重要なポイントは、「21世紀半ば頃に、現実的な出力規模の高速炉が運転開始されることが期待される」としたことである。しかしながら、その後の進展は何もない。

何故なのか?

鍵は、第6次エネルギー基本計画にある。

同エネ基において、まず高速炉開発については、「戦略ロードマップのもとに米仏などと協力して研究開発を進める」旨が記載された。

次に、軽水炉を軸とした原子力利用に関しては、「必要な規模を持続的に活用していく」という一文が新たに追記された。

問題は、前者は精神論の域をでておらず、具体的な計画がまったく見えないということ。後者は「原子力への依存度を限りなく減らしていく」という従来からのドグマが軛になり、まさに二律背反の様を呈している。

高速炉と核燃料サイクルは、日本の将来においてエネルギー安定供給の上からは欠かせない技術である。原子力の持続的な利用のためには、ウラン資源からの解放としてプルトニウム利用が必須である。また、放射性廃棄物の減容と有害度の低減は非常に重要である。これらには高速炉が果たす役割は大きい。というより、高速炉なくしては不可能なのである。

しかし、開発計画が具体性を持って動き出さない限りは、設計、製造、建設技術は継承されない。人材も枯渇する一方である。高速炉開発がまったく具体的な形を現さない体たらくをいつまで続けるのか。ここには経産省エネ庁内の再エネ推進派の興隆とそれを強く後押しする政治勢力の圧力が効いている。第6次エネ基に、呪文のような一文〝原子力への依存度を限りなく減らしていく〟が残されたのは、その政治勢力の所為である。

「もんじゅ」の実例を見ても、計画の具体化から運転開始までは25年以上を要する。戦略ロードマップが示唆した〝21世紀半ば〟つまり2050年まではもう30年を切った。

つまり今日本は高速炉開発を進めていく瀬戸際にある。

ビル・ゲイツの高速炉:6年後に運転開始

米国ではビル・ゲイツの高速炉が2028年に運転開始になることが決まった。この計画は、米国エネルギー省の肝いりで予算的措置もなされてビル・ゲイツが創設したテラパワー社が請け負う契約である。予定通り建造、運転とならないと契約違反になる。厳しい縛りのもとでプロジェクトは着実に進められなければならない。

「ナトリウム発電・エネルギー貯蔵システム」の完成予想図©テラパワー社
出典:原子力産業新聞

この高速炉は「もんじゅ」と同様にナトリウム冷却式の炉である。そしていわゆる「第4世代の原子炉」の一つである。

この計画が急伸した背景には、国家セキュリティや競争力の観点から、米国の高速炉開発がロシアや中国に遅れをとっていることへの危機感がある。前トランプ政権でテコ入れがなされ、現バイデン政権が一層後押しをした結果である。

米国は長らく高速炉の自国製造は行っていない。サプライチェーンがない。

ビル・ゲイツの高速炉は、テラパワー社が中心になってサプラーチェーンを担うベンチャーも同時に起業していくことになる。国をあげての〝Buy American〟である。

政権−政策―事業者の連携が良き方向に働き、未来を拓くパワーが感じられる。

苦しい日本企業:糟粕を嘗める

ビル・ゲイツの高速炉計画に、日本の研究機関と一部企業が協力するべく協定を結んだ。

自国の高速炉計画は不透明のまま、米国の計画のおこぼれを頂戴するかのように見るのは穿ち過ぎだろうか。

米国のために日本の試験研究施設を提供したり、一部機器のサプライヤーに甘んじるような協力ならば、まさに米国の糟粕を嘗めるがごとき屈辱である。

なぜか?

そもそも第4世代の原子炉のアイデアを創出したのは日本である。1990年代、数回にわたって行われた日米会議(通称サンタフェ会議)で日本側が提案し、発展、共有された。その結果、世界の13カ国が集まり「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)」が2001年に発足した。その初代議長には日本の研究者が就いた。

日本では「高速増殖炉サイクル実用化研究開発(通称FaCTプロジェクト)」が2006年以降実施され、2010年には「2015年頃までに高速炉の建造に着手する」との決定がなされた。しかし、2011年3月の福島第一原子力発電所事故によってその計画は凍結された。その後フランスとの開発協力の可能性もあったが、先の「もんじゅ」廃止措置の波にのまれてうやむやになり、政治も外方を向いたままである。

日本の決意が問われる

日本がエネルギー安全保障とカーボンニュートラルをともに実現するためには、原子力発電と真摯に向き合うほか道はないのである。

olaser/iStock

欧米を中心に多くの国は、2050年のカーボンニュートラルのためには、原子力と再生可能エネルギーを上手に利用していく道を選び始めている。むしろ、その道しかないことに気がついたと言って良い。EUタクソノミーで原子力がグリーン認定されたのはその証とも言える。

その影響もあって、今後の軽水炉利用の拡大によるウラン需要を見込んで、天然ウランの市場価格は高騰傾向にある。ウラン資源に代替するのはプルトニウムである。エネルギー資源として、どの国がいち早く高速炉と再処理によるプルトニウム利用の実用化技術を手に入れるかーーー高速炉先進国である米、仏、露、中、印は虎視眈々とリーダーの座を狙っている。

「もんじゅ」までは日本がトップランナーだったが、今日本はレーンにすらいない。

日本の高速炉関係者によれば、産業界に高速炉を開発するための人材やシステム、そしてサプライチェーンが今ならまだあるという。具体的な計画があって、しかるべき予算措置に国家が乗り出せば今すぐにでも高速炉の建造に向けて動き出せるのである。

計画の立案から設計、建設、運転までには数十年かかる。それを支える人材を維持・育成していかなければならない。そのためには、何としても具体的な開発計画がなければならない。それなしではお話にならないのである。

今こそ自国の高速炉開発に動き出さなければ、この国はカーボンニュートラル競争においても他国の後塵を拝するのみである。

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澤田 哲生
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

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