ドイツの大転換の大失敗

Yamko/iStock
混迷と悪あがき
ロシアのウクライナ侵攻後、ドイツの過去10年に亘るエネルギー政策「エネルギーヴェンデ(大転換)」が大失敗したことが明々自白になった。大転換の柱は、脱原発と脱石炭(褐炭)である。原発と褐炭を代替するはずだったロシア産天然ガスは、ノルドストリーム2の事実上の永久停止に加えてノルドストリーム1の供給量が2割に削減されたことによって、今や見通しが全く無い。
このようなここ半年の状況にもかかわらず、2011年時点で決めた原子力を全廃するという政策を転換することはなかった。福島第一原子力発電所の事故を受けて、2011年6月30日に、ドイツ連邦議会は2022年12月31日までに、当時17基あった原発を全廃すると決定したのであった。
現在、ドイツでは今もって稼働している3基の原子力発電所を運転延長するかどうかが問われている。

ドイツの原子力発電所分布図
出典:ドレスデン情報ファイル
ドイツ連邦政府の経済省は7月18日に、「ロシアからのガス供給停止の可能性が高まる中、年内に予定されている国内の原子力発電所の閉鎖延期を検討する」ことを明らかにしたのである。
これに先立つこと3月8日には、同連邦政府の経済省と環境省の二省連盟で、
検討の結果両省は、運転延長の効果は非常に限定的であるうえ、莫大な経済的コストや憲法上・安全技術上のリスクを伴うとの見解に達した。また、利益とリスクを比較検討したところ、現存する3つの原発の運転延長は現在のガス供給危機を考慮してもなお、推奨できないとの結論になった。
と発表したばかりであった。
右往左往しているというしかない。

ネッカーヴェストハイム原子力発電所
出典:Wikipedia
その背景には、ロシア・ウクライナ戦争が長期化の様相をなお一層色濃くしていることがある。そもそもロシアの主力輸出品は原油であり、その販路は厳然として継続して確立しているのである。
原油と石油精製品の総輸出額は全輸出額の50%にものぼる。ちなみに天然ガスは全輸出額の1%にも満たない。しかも、この戦争以降世界の原油価格は高騰しているので、仮に欧州から締め出されても中国はじめ輸出先には事欠かない。ロシアは原油高騰でがっぽり稼いでおり、欧州向けの天然ガスが禁輸になっても痛くもかゆくも無いのである。
ドイツを追い込む2つの要因
<EUタクソノミー>
欧州議会は7月6日の本会議において、持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」規則において、一定の条件で天然ガスおよび原子力による発電などを持続可能な経済活動に含めるとする委任規則案に対する反対決議を否決した。これにより「EUタクソノミー」規則は2023年1月1日から施行される見通しが濃厚になった。これは脱原発政策を〝倫理的〟観点から推し進めてきたドイツなどにとっては許し難いことで大きな痛手となっている。
ドイツやオーストリアなどEU内の脱原発急進派には焦りの様相が濃く、中でもグリーンの急先鋒であるオーストリアのレオノーレ・ゲベッスラー気候行動・環境・エネルギー・モビリティ・イノベーション・技術相は、委任規則案をグリーンウォッシングだと批判し、EU司法裁判所に対して取り消し訴訟を提起すると表明した。
見苦しい悪あがきという他ない。
<原発には後戻りできない>
2022年末までに停止が決められている3基の原発は、運転延長したくてもすでに手遅れの状態にある。
なぜか? 理由は2つある。
- 燃料がない——原発を運転する運営会社にはすでに運転延長で必要になる原子燃料の蓄えがない。新たに調達して補充するには12〜18ヶ月かかるとされており、2022年末つまりこの冬には間に合わない。
- 安全審査——3基の原発は2022年末での運転停止を前提として、本来2019年に必要だった運転継続の更新に必要な安全審査が免除されてきた。新しく安全審査を受けて合格するには、まずそれなりの期間が必要でありそのためには少なくとも数年の準備が必要になる。また、現在の国際的に常識的な安全の基準をクリアしなければならず、それに伴なう安全機能の強化が必要になる場合もなる。そうなれば結構なコストとさらなる期間が必要になるのである。
このようにドイツの原発は、〝進むも地獄、退くのも地獄〟の状況なのである。
ドイツを見習ってはいけない
日本の自然エネルギー派には相変わらず「ドイツを手本とすべし」という論があるが、ドイツやそれに類する欧州諸国のエネルギー政策は、決して日本のお手本にはならない。
岸田政権下にあって、電力供給逼迫および電気料金高騰という現実の元で、原子力の積極的な活用に軸を切りつつあるように見える。「この冬までに最大9基の原発稼働」を政府の目標に掲げるようなケチな政策ではこの国の電力事情は全くもって改善されないのは必定だ。
新しい規制基準での適合審査を通過して運転が許可されても動いていない7基、審査中の10基、未申請の8基に目を向けるのが政治の役目のはずである。そしてさらに新型炉の新設・リプレースに早急に舵を切るべきではないのか。
27日に開催された「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」の第一回会合では、岸田首相はGXに欠かせない原発について「再稼働とその先の展開策」を示すよう指示している。答申を受けた首相の実行力に期待したい。
関連記事
-
サプライヤーへの脱炭素要請が複雑化 世界ではESGを見直す動きが活発化しているのですが、日本国内では大手企業によるサプライヤーへの脱炭素要請が高まる一方です。サプライヤーは悲鳴を上げており、新たな下請けいじめだとの声も聞
-
りょうぜん里山がっこうを会場として、中山間地域のみなさんや福島大学の学生を中心に勉強会を開催した。第一回は、2014年10月4日に国立保健医療科学院の山口一郎上席主任研究官をゲストに迎え、食品基準値の疑問に答えてもらい、損失余命の考え方が役立つかどうかや参加者のニーズを話し合った。
-
「複合災害の記憶と教訓を将来に引き継ぐ」 こう銘打たれ、2020年9月20日に「東日本大震災・原子力災害伝承館」が福島県双葉郡双葉町にオープンした。 原子力災害と復興の記録や教訓の「未来への継承・世界との共有」 福島にし
-
著者はIPCCの統括執筆責任者なので、また「気候変動で地球が滅びる」という類の終末論かと思う人が多いだろうが、中身は冷静だ。
-
2/27から3/1にかけて東京ビッグサイトにおいて太陽光発電の展示会であるPV expoが開催された。 ここ2年のPVexpoはFIT価格の下落や、太陽光発電市場の縮小を受けてやや停滞気味だったが、今年は一転「ポストFI
-
アゴラ研究所、また運営するエネルギー問題のバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)は、9月27日に静岡市で常葉大学と共催で、第3回アゴラ・シンポジウム『災害のリスク 東日本大震災に何を学ぶか』を行った。
-
ポイント 石炭火力発電は、日本の発電の3分の1を担っている重要な技術です。 石炭火力発電は、最も安価な発電方法の1つです。 石炭は、輸入先は多様化しており、その供給は安定しています。 日本の火力発電技術は世界一優れたもの
-
東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働は、日本のエネルギー政策の観点から見ても大きな意味を持つ出来事である。しかし、その過程で相次いだトラブルは看過できない問題を浮き彫りにした。 今回の再稼働を巡る不具合は、大きく分けて「
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















