ダニエル・ヤーギン、近著『探求』のビル・ゲイツの書評に答える
GEPR編集部より・ビル・ゲイツ氏はビデオ対談などで『探求』を書評。この本は過去の人類は多様なエネルギーの追求をしたことを振り返りました。そして新しいエネルギー源として、天然ガスの利用に注目しています。ゲイツ氏はその著書の面白さと、適切さを指摘する一方で、多様なエネルギーが貧困問題への解決、また自動車などの移動手段のエネルギー源を変革する可能性があるかについて、ヤーギン氏に問いかけました。
[ビル・ゲイツ氏より]
ダニエル・ヤーギン氏は、私の好きな作家の1人であり、そして彼の著書『探求』はエネルギーの将来を形成するさまざまな力について、対話をすることに重要な貢献をする本です。私の彼の著書の書評に対して、彼がコメントする時間をとって下さったことに感謝します。
(ヤーギン氏の寄稿)(ゲイツ・ノート)
私は、ビル・ゲイツ氏の『探求』に対する思慮深い書評に深く感謝します。彼は、「輸送燃料の未来とは?」という、中心となる問題点を示しています。1970年代のエネルギー危機の余波で、石油とその他のエネルギー源との間がはっきりと区別されるようになりました。
世界の大半で、石油は発電から押し出されてしまい、主に輸送用燃料となりました。従って今日、風力と太陽光について語るとき、輸送と関連づけられることはほとんどありません。ビルが述べるように、輸送と発電の間にはわずかな取引しかない、それらは二つの異なる世界なのです。
ここ数十年の間に自動車の燃費は非常に効率的になり、この先、さらに効率的になるでしょう。しかしながら増大を続ける世界の車の台数に見合った燃料の供給は大きな挑戦となります。私は、『探求』で、自動車数が10億台から20億台へと増大したとき、世界はエネルギー面でどのように対処するのかと、問題 をシンプルに示そうと試みました。
最も明らかな答えは、より効率的になることによって、成し遂げられるということでしょう。そして実際そのようになりつつあります。例えば、アメリカでは、現在の1ガロンあたり30マイル(1リットル当たり12.7キロメートル)から、2020年代の前半には新しい自動車は1ガロンあたり54マイル(1リットル当たり約24.8キロメートル)で走ることになりそうです。しかしこれはまだ石油が燃料であることに基づいての予想です。
この10年の間に、輸送において、水素、バイオ燃料、電気自動車、天然ガス車両といった、石油への依存を減らす多くの取り組みがありました。バイオ燃料は特に影響を与えるものであり、それは今、米国では容積測定ベースで、自動車燃料のほぼ10%を占めています。しかしエタノールや他の第一世代のバイオ燃料には明らかに限界があります。第二世代のバイオ燃料の生成は、数年前に一部で予測されていたよりも難しいことがわかっています。
電気自動車は、新しい概念ではなかったのですが、2008年ごろに、新しい意味を持って存在感を増し、化石燃料を減らすという問題に深く関係するようになりました。(『探求』の、電気自動車を促進する努力をする以前のトーマス・エディソンとヘンリー・フォードが1896年に自動車について話し合っている、素晴らしい写真をご覧下さい)。
今日の視点では電気自動車は、この先の輸送でより大きな役割を果たす運命にあるようです。しかし電気自動車が輸送と発電の間の壁を壊し、石油の市場シェアを減らすほどになるか、という意見についての見通しは大きく分かれるでしょう。これまで伝えられている情報に基づく予想によれば、電気自動車が普及の限られるニッチな車になるのか、それとも巨大マーケットの製品となるのか、大きくばらつきがあり、おそらく5年から10年以内に明らかになるでしょう。おそらくバッテリーの革新とコストが鍵となります。
しかし、今では新しい競争相手が現れました。というよりは、新たな勢いを持った古くからの競合相手といえるかもしれない天然ガスです。世界の一部地域では、天然ガスは長らく 代替燃料でした。新しい動きとは、北米におけるシェールガス革命です。大量で、低価格である天然ガスが獲得できるという展望により、天然ガスは輸送燃料の市場において、電気自動車の新しい競争相手になったのです。
現在のコストでは、天然ガスは、バスや配達・サービストラックなどの多くの種類の車両の燃料供給へと役割を拡大するでしょうし、さらには大型長距離トラックへともその供給シェアを拡大することができるかもしれません。しかし需要と燃料補給インフラのコストが自動車での汎用化への大きな障害となっています。
こうした議論を進めると、天然ガスの輸送におけるシェアは、それが直接、燃料タンクへ入るものとなるのか、あるいは電気自動車の電気を発電することで得るのか、という興味深い問いを考えることになります。
今日世界で天然ガスも石炭も液化されている例があります。しかしそのコスト、およびエネルギーの比較によるコストは、注目される拡大に大きな障害となっています。例えば、中国は、数年前まで野心的な達成目標であった、石炭の液化から後退しています。その理由はコストでした。
私がこれまで述べてきたことを考えれば、自動車のエネルギー効率を改善し続けることの重要性に注意を払わねばなりませんし、また今では身近になったハイブリッド技術は、効率化実現のために鍵となる手段として、強く普及が促進されるでしょう。
しかし、まだ20億台の車に対する根本的な挑戦があります。経済成長と所得の増加が、世界にある車の数を今の10億台から20億台にします。それは巨大な増加です。その道を進むには、ビル・ゲイツ氏が彼の書評で述べたさまざまなな方向性と共に、多くの革新を必要とすることになるでしょう。
ダニエル・ヤーギン氏は、IHS CERA(ケンブリッジエネルギーリサーチアソシエイツ) 会長、エネルギー問題で高く評価されている専門家。1992年、ベストセラーとなった「The Prize: The Epic Quest for Oil, Money, and Power. (石油の世紀――支配者たちの興亡)」(日高義樹・持田直武訳、日本放送出版協会, 1991年)にてピューリッツァー賞受賞。近著に「The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World (探求――エネルギーの世紀)」(伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社、2012年)がある。
(2012年7月9日掲載)
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