途上国に大きく傾斜したCOP27

2022年11月28日 06:50
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東京大学大学院教授

ricochet64/iStock

途上国の勝利

前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。

COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの緩和野心と実施を向上するための「緩和作業計画」を採択し、ロス&ダメージ支援のための資金面の措置及び基金の設置も決定された。

一言でいえば、グラスゴーは緩和を重視する先進国の勝利であったのと対照的に、シャルム・エル・シェイクは資金を重視する途上国の勝利である。COP27において基金の設置が合意されたことは途上国にとって大金星であろう。

途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。先進国からすれば、足元で年間1000憶ドルの支援目標が達成できていない中、2025年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、新たな資金メカニズムを作ることはレッドラインのはずだった。

他方、緩和に関しては、欧米諸国は緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促すことに加え、2025年全球ピークアウト、排出削減対策を講じていない石炭火力のフェーズアウト、排出削減対策を講じていない全化石燃料火力のフェーズアウト等を提案していた。

合意された緩和作業計画は2026年まで(延長の可否はその時点で決定)には「新たな目標設定を課するものではない」との点が明記された。2025年ピークアウト、石炭火力、化石燃料火力のフェーズアウトも盛り込まれなかった。

このため、クロージングプレナリーでは多くの途上国が「歴史的COP」と称賛する一方、先進国からは不満の声が聞かれた。COP26議長であった英国のシャルマ大臣は「いくつかの締約国はグラスゴーからの後退を試みていた。我々は2025年ピークアウト、石炭フェーズアウト、化石燃料フェーズアウトを提案したが、いずれも盛り込まれなかった」と無念さをにじませた。

今回、途上国に大きく傾斜した交渉結果となった背景としては、議長国エジプトの途上国(特にアフリカ)の利害を重視したことが大きい。先進国の中には「悪い合意ならばないほうが良い」という声もあったが、ロス&ダメージ基金を最後まで拒否してCOPを決裂させれば、先進国に非難が集中する恐れがあるし、ウクライナ戦争下において温暖化防止の実質的なモメンタム低下が懸念している中、COPを決裂させてはならないという考えもあったのだろう。

欧米気候外交への反撃

思い起こせば1.5℃、2050年カーボンニュートラルを強く打ち出したグラスゴー気候合意はパリ協定を踏み超えた側面があった。今年に入り、G20等の場で先進国がグラスゴー気候合意や1.5℃を共同声明に盛り込もうとするたびに中国、インド、サウジ等がことごとく反対に回った。緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促したいという欧米諸国の目論見も中国、インド等にとって5年ごとの目標見直しを規定したパリ協定からの逸脱に映る。

欧米諸国が温暖化のリスクを訴え、野心レベルの引き上げを主張してきたことがブーメランになっている側面もある。今回の会合では先進国に敵対的な有志途上国(LMDC)が「先進国は2050年ではなく、2030年カーボンニュートラルを達成すべきだ」と主張した。1.5℃安定化、2050年カーボンニュートラルを絶対視すれば、限られた炭素予算の配分をめぐってこのような議論が生ずることは十分予想されることだった。

欧米の環境活動家やメディアは不確実性があるにもかかわらず、あらゆる異常気象を温暖化と結び付け、温暖化の危機をこれでもかと煽ってきた。皮肉なことに、こうした議論が中国の目標引き上げにつながらず、「先進国の歴史的排出によって生じた温暖化の被害を何とかせよ」という途上国のロス&ダメージ基金の主張の根拠に使われている。これまたブーメランである。

途上国の高揚感が失望に変わる可能性も

他方、ロス&ダメージ基金設立を勝ち取った途上国の高揚感も、早晩、失望に変わる可能性も大きい。先進国は現在の1000億ドルの目標すら未だに達成できていない一方、気候資金(緩和・適応)のニーズは2030年までに5.8~5.9兆ドルにのぼる。しかもここにはロス&ダメージから回復するための資金ニーズは含まれていない。

結局、「お財布」はできてもお金が十分入らない可能性も高い。異常気象等による被害のどれだけが地球温暖化によって引き起こされているのかを特定することも容易ではない。

グラスゴーでは実現可能性のない1.5℃目標が打ち出され、シャルム・エル・シェイクでは際限なくエスカレートする途上国からの資金要求がもう一つ加わった。いずれもスローガン先行で現実からの乖離は広がるばかりだ。

早晩、それが誰の目にも明らかになったとき、COPプロセスは持続可能なのだろうか?「緑の専制(Green Tyranny)」の著者であるルパート・ダーウオールはCOP27後に「それでもCOPは続く。このプロセスに依存した利害関係者があまりにも多い」と言っていたが・・・。

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