石器時代が終わったのは政府が禁止したからではない

shotbydave/iStock
「石器時代は石が無くなったから終わったのではない」
これは1973年の石油ショックの立役者、サウジアラビアのヤマニ石油大臣の言葉だ。
当時、イスラエルとアラブ諸国の間で第四次中東戦争が起きて、サウジアラビアは「石油戦略」を発動、石油を減産した上で、イスラエル支持の国々に対して石油の輸出を禁止した。慌てた日本政府はサウジアラビアを訪問し、輸入の継続をとりつけた。
その後、ザキ・ヤマニ大臣の言葉は、温暖化対策、なかんずく太陽光発電や風力発電の推進者によって引用されてきた。化石燃料も、その枯渇を待つことなく、やがて時代は終わる、という訳だ。
それで世界諸国は、化石燃料利用を規制し、また太陽・風力を巨額の予算によって大量導入してきた。だがその結果はどうかと言えば、世界の化石燃料消費は増え続けているし、CO2排出も減らない。なぜか?
それは、石器が使われなくなった理由は、石器を政府が禁止したからではないからだ。
石器が使われなくなった理由は、それより優れた技術が登場し、石器が必要無くなったからだ。鉄器は、鋤や鍬などの農具の性能を飛躍的に高めた。戦争においても鉄器は石器を圧倒した。
化石燃料時代が終わるとすれば、それは、化石燃料より優れた技術が登場し、化石燃料が不要になったときだ。
残念ながら、太陽・風力は、コストは高く、出力は安定しないので、化石燃料には負ける。
化石燃料を上回るのは何か?
原子力は、発電に関しては化石燃料と互角かそれ以上に戦える。
それから、省エネは、化石燃料を燃やすよりも経済性が高い場合が多い(金ばかりかかる筋ワルの省エネもあるのでそれは注意は必要だが)。エアコンの効率や自動車の燃費などは、石油ショック以降、ずいぶんと向上した。これは化石燃料消費の削減になった。
今後、筆者が期待するのは、この原子力、省エネに加えて、核融合だ。核融合は、いま国際協力でう進めている実験炉ITER(イーター)は2兆円超、それに続く原型炉(実証炉とも呼ばれる)にもやはり2兆円超かかるが、その後、実用化されれば、既存の原子力発電と互角のコストになると期待している。
一方で、化石燃料の最大の敵はこれまで何だったかというと、じつは化石燃料自身だった。
石油ショック後、50年にわたり、石油価格が高くなりすぎることのないよう、サウジアラビアが主導して、OPECはたびたび減産し、価格を調整してきた。高すぎる石油価格は、代替的なエネルギーや省エネの開発を促すのみならず、ライバルである米国産の石油に負けることも意味するからだ。ここのところ、OPECは価格維持のために石油減産をしてきたが、それ以上に米国が石油を増産して空前の生産量となり、OPECの努力を打ち消してしまった。
また近年、G7諸国はCO2削減のためとして石炭火力発電を目の敵にしているが、中国、インドをはじめとして、グローバルサウスは石炭の開発・利用を進めている。もっとも安価で優れたエネルギーだからだ。
イギリス、ドイツ、米国など、欧米では石炭火力発電は軒並み減少してきたが、最大の理由は、天然ガス火力発電に経済性で負けてきたからだ。要は化石燃料の中で代替が起きているだけで、化石燃料が負けた訳では無い。
化石燃料を禁止するのでは、イタチごっこになるだけである。
化石燃料に代わる、安価で安定した優れたエネルギーこそが、化石燃料の時代を終わらせるのだ。
■

関連記事
-
経済産業省において10月15日、10月28日、と立て続けに再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下「再エネ主力電源小委」)が開催され、ポストFITの制度のあり方について議論がなされた。今回はそのうち10月15日
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 北極振動によって日本に異常気象が発生することはよく知られ
-
神奈川県地球温暖化対策推進条例の中に「事業活動温暖化対策計画制度」というものがあります。 これは国の省エネ法と全く同じ中身で、国に提出する省エネ法の定期報告書から神奈川県内にある事業所を抜き出して報告書を作成し神奈川県に
-
何よりもまず、一部の先進国のみが義務を負う京都議定書に代わり、全ての国が温室効果ガス排出削減、抑制に取り組む枠組みが出来上がったことは大きな歴史的意義がある。これは京都議定書以降の国際交渉において日本が一貫して主張してきた方向性であり、それがようやく実現したわけである。
-
はじめに トリチウム問題解決の鍵は風評被害対策である。問題になるのはトリチウムを放出する海で獲れる海産物の汚染である。地元が最も懸念しているのは8年半かけて復興しつつある漁業を風評被害で台無しにされることである。 その対
-
原子力発電所事故で放出された放射性物質で汚染された食品について不安を感じている方が多いと思います。「発がん物質はどんなにわずかでも許容できない」という主張もあり、子どものためにどこまで注意すればいいのかと途方に暮れているお母さん方も多いことでしょう。特に飲食による「内部被ばく」をことさら強調する主張があるために、飲食と健康リスクについて、このコラムで説明します。
-
福島第1原発事故から間もなく1年が経過しようとしています。しかしそれだけの時間が経過しているにもかかわらず、放射能をめぐる不正確な情報が流通し、福島県と東日本での放射性物質に対する健康被害への懸念が今でも社会に根強く残っています。
-
前回、日本政府の2030年46%削減を前提とした企業のカーボンニュートラル宣言は未達となる可能性が高いためESGのG(ガバナンス)に反することを指摘しました。今回はESGのS(社会性)に反することを論じます。 まず、現実
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間