政府資料では分からない、本当に安いのは原子力と火力

shotbydave/iStock
政府の審議会で発電コスト試算が示された。しかしとても分かりずらく、報道もトンチンカンだ。
以下、政府資料を読みといて再構成した結論を簡潔にお示ししよう。
2040年に電力を提供するための発電コストをまとめたのが図1だ。

図1 2040年に電力を提供するための発電コスト。
発電コスト試算を再構成して筆者作成。
① 「既存の原子力・火力発電所の利用」が断然安い
まず、原子力の再稼働が断然安い。原子力発電は建設には費用がかかるが、一度建設してしまえば、燃料であるウランは安い。燃料費はキロワットアワー当たりで1.9円だ(発電コスト試算 p4)。
次いで、既存の火力発電所である。いま火力発電所は、全発電の7割を占めているが、政府のエネルギー基本計画(案)(p9)ではこれを3割から4割程度まで減らすとしている。
だが、減らすことなどしなければ、発電所は建設済みなので、これまた燃料費だけで済む。IEAの「表明公約シナリオ」を用いると、これは石炭火力は4.2円、LNG火力は6.0円だ(発電コスト試算p78およびp79)。なお仮に世界全体で脱炭素を本当にするなら、燃料価格は暴落してこれよりもっとずっと安くなる。
② 次に安いのが「原子力・火力発電の新設」
政府の発電コスト試算(p4)では火力発電については「CO2対策費」が算入されているが、これはCO2についての税のことだ。そんなものをコストに入れるのはおかしい。
それを差し引いて、燃料価格も①と同じものを用いれば、新設の石炭火力が8.6円、LNG火力が9.9円となる。原子力は政府コスト試算をそのまま使えば12.5円(発電コスト試算 p4)である。
③ 「グリーン電力」はべらぼうに高い
政府がグリーントランスフォーメーション(GX)として推進しているアンモニア発電は23.1円、CCS付きの石炭火力は27.6円といずれも高い(発電コスト試算 p4)。
アンモニアで発電するというのは筋が悪いし、CCSは大量に発生するCO2を回収して地中に埋めるという膨大な無駄をやるのでコストが高い。
太陽光発電は大量導入するとなると、一斉に発電して余ったときにはバッテリーに充電して、発電が止まったときにはバッテリーから放電しなければならない。このためバッテリー代や充放電ロスなどのコストがかかる(電力系統への統合費用という)。
政府のエネルギー基本計画(案)(p9)では太陽・風力の合計の電力量(キロワットアワー)を3割から4割にするとしているが、こうすると発電設備容量(キロワット)では全電力の6割に達する。
発電設備容量が膨大になる理由であるが、それは天気任せなので設備利用率が低いからである。現状でも、太陽光発電は、電力量では全体の1割に過ぎないが、発電設備容量は全体の3割もある。
この場合の発電コストは事業用太陽光で36.9円となる。洋上風力も風任せなので太陽光同様に「電力系統への統合費用」がかかり25.2円となる(発電コスト試算 p6)。
なおこの太陽光・風力についてはまだ送電線の建設費用などが算入されていないので、これでも過小評価である。
結論
以上から、結論は明らかだ。電気代を下げるにはどうするか。
- 原子力の再稼働を進め、既存の火力発電を活用すること。
- それでも電気が足りないなら、原子力と火力発電の新設をすること。
- 太陽光・風力などの再エネや、アンモニア発電・CCS発電などは、いずれもべらぼうに高いので、導入をしないこと。
なお米国の主力である天然ガス火力発電のコストはキロワットアワー当たり6円(4セント)だ(発電コスト試算 p207)。米国は天然ガスが安いので新設でもこのぐらいになる。
トランプ大統領率いる米国は、この安価な天然ガスを「掘りまくり(drill baby drill)」、「エネルギー・ドミナンス(優勢)」を確立しようとする一方で、日本政府はますます電気代が高くなるGXを進め、経済を自滅させようとしている。愚かなことだ。
■

関連記事
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow
-
東京都の「2030年カーボンハーフ」の資料を見て愕然としたことがある。 工場のエネルギー消費が激減している。そして、都はこれを更に激減させようとしている。 該当する部分は、下図の「産業部門」。CO2排出量は、2000年に
-
ICRP勧告111「原子力事故または放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(社団法人日本アイソトープ協会による日本語訳、原典:英文)という文章がある。これは日本政府の放射線防護対策の作成で参考にされた重要な文章だ。そのポイントをまとめた。
-
現在ある技術レベルでは限りなく不可能に近いだろう。「タイムマシン」があれば別だが、夏の気温の推移、工場の稼動などで決まる未来の電力の需要が正確に分からないためだ。暑く、湿度が高い日本の夏を、大半の人はエアコンなく過ごせないだろう。そのために夏にピークがくる。特に、8月中旬の夏の高校野球のシーズンは暑く、人々がテレビを見て、冷房をつけるために、ピークになりやすい。
-
「原子力文明」を考えてみたい筆者は原子力の安全と利用に長期に携わってきた一工学者である。福島原発事故を受けて、そのダメージを克服することの難しさを痛感しながら、我が国に原子力を定着させる条件について模索し続けている。
-
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後の誘発地震で、それまでに考慮されていなかった断層に地表地震断層を生じたことから、翌年、国は既設原子力発電所の敷地内破砕帯を対象に活動性の有無に関するレヴューを行なった。
-
岸田首相が「脱炭素製品の調達の義務付け」を年内に制度設計するよう指示した。義務付けの対象になるのは政府官公庁や、一般の企業と報道されている。 脱炭素製品の調達、「年内に制度設計」首相が検討指示 ここで言う脱炭素製品とは、
-
四国電力の伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の抗告審で、広島高裁は16日、運転の差し止めを認める決定をした。決定の理由の一つは、2017年の広島高裁決定と同じく「9万年前に阿蘇山の約160キロ先に火砕流が到達した
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間