日本版再エネ拒否事例データベースを作成:住民反対で撤退続々10件

2025年09月24日 06:40
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Natalya Kosarevich/iStock

以前、「再エネ拒否データベース(Renewable Rejection Database)」をロバート・ブライスが発表したことを書いた。

世界で広がる再エネ拒否事例1104件のデータベース

これは、再エネ事業が地元の反対などによって拒否ないし制限された事例について、公開記事を基に作成したものだ。これまでの累積で1104件もの再エネ事業が登録されていた。ところが日本については、言葉の壁のせいか、1件しかなかった。

そこでチャッピー(ChatGPT)の助けも借りて調べたところ、日本についても早速10件ほど確認できたので、以下に紹介しよう。これからも、続々、このような拒否事例が出てきそうだ。

日付 都道府県 決定主体 種別 備考 出典
2018/4/6 JP 秋田県 由利本荘市(計画撤回:SBエナジー社) 風力 SBエナジー(ソフトバンク子会社)は秋田県由利本荘市の鳥海山麓で計画していた34MW規模の風力発電施設の建設を断念。景観・環境への懸念から住民グループが反対運動を展開しており、2018年4月6日付の報道で計画中止が明らかになった[1] [1]
2018/5/11 JP 福岡県 久留米市・八女市(計画撤回:エコ・パワー) 風力 東京の風力発電事業者エコ・パワーは耳納連山(久留米市・八女市)にまたがる大型風力発電所計画を中止すると2018年5月11日に久留米市に伝達[2][3]。地元の協力体制や道路条件等を考慮し計画断念を決定したとされ、住民は景観悪化などへの不安から計画中止に安堵した[2] [2] [3]
2021/2/18 JP 静岡県 浜松市(計画撤回:自然電力) 風力 再生エネルギー事業者の自然電力(福岡市)は浜松市天竜区熊地区で進めていた風力発電事業(最大30MW2MW×最大15基)について、2021年2月18日付で事業中止を決定し、FIT事業計画の認定取り下げを申請した[4]。事業地の風況観測や環境アセスを進めていたが、市のゾーニング計画公表を受けて再検討した結果、採算確保が困難との結論に至ったため。[4]地域住民の反対運動も強く、事業者は苦渋の撤退判断を行った。 [4]
2023/6/17 JP 北海道 小樽市・余市町(計画撤回:双日) 風力 大手商社の双日は、北海道小樽市・余市町の国有林に27基の風車(最大出力10万kW)を建設する計画(仮称:北海道小樽余市風力発電所)の中止を2023年6月17日に発表[5]。資材価格高騰に加え、小樽市が景観への影響を理由に反対意見書を北海道知事に提出するなど地元自治体の強い反発が逆風となり、事業継続が困難と判断した[5] [5]
2023/10/10 JP 青森県 青森県(計画撤回:ユーラスエナジー) 風力 再エネ大手のユーラスエナジーホールディングス(東京)は、青森県八甲田山系で計画していた国内最大級(当初150基→後に71基予定)の陸上風力発電事業(仮称:みちのく風力発電事業)から撤退すると2023年10月10日に発表した[6]。ブナ林伐採を伴う計画に対し地域ガイドらの反対運動(Protect Hakkoda)が起こり、宮下青森県知事や青森市長らも白紙撤回を要求するなど強い反対意見が相次いでいた[7]。これらを受け事業者は「苦渋の決断」として事業を白紙撤回した[8] [6] [7]
2024/5/23 JP 福島県 福島市(木幡浩市長) 太陽光 福島市平石地区で計画中のメガソーラーに対し、地域住民が計画中止を求め538筆の署名付き要望書を提出。これを受け木幡浩市長は「当該地は土砂災害が過去2度発生した危険区域で、地域住民全世帯が反対署名している。住民意思を重く受け止め事業者に計画断念するよう働きかける」と表明した[9]。市は住民と連携し事業者へ計画中止を強く求めていく方針。 [9]
2025/8/8 JP 岡山県 鏡野町(計画撤退報告:ENEOS再生エネ) 風力 ENEOSグループのENEOS再生可能エネルギー(旧JRE)は、岡山県鏡野町で計画していた最大約22基・出力約88MWの風力発電事業(仮称:JRE鏡野風力発電事業)から撤退する方針を2025年8月8日に町長に報告した[10]。主な理由は「材料費の高騰」と「保安林解除の見込みが立たないこと」であり[10]、地元地権者や鏡野町長が保安林指定解除に同意しない意向を示していたことなどから事業断念に至ったとみられる。 [10]
2025/8/19 JP 北海道 厚真町・苫小牧市(計画撤回:Daigas) 風力 大阪ガス子会社のDaigasガスアンドパワーソリューションは、北海道厚真町・苫小牧市の勇払原野に5基(総出力約21.5MW)の風力発電所建設を計画していたが、建設資材費の高騰を理由に事業中止を決定し、2025年8月19日付で経産省・北海道へ事業廃止届を提出した[11]。勇払原野一帯はタンチョウなど希少鳥類の生息地で、環境団体や地元関係者から懸念の声が上がっていたと報じられている[12] [11][12]
2025/9/4 JP 岩手県 大船渡市(計画撤回:自然電力) 太陽光 自然電力(福岡市)は岩手県大船渡市三陸町吉浜地区で進めていた大規模メガソーラー(計画面積25ha、パネル約76600枚)の事業中止を2025年9月4日に発表した[13]。2014年の事業申請以来、環境破壊や土砂崩れを懸念する住民の強い反対運動が続いており、固定買取価格の低下や人件費・資材費の高騰による採算悪化も重なり継続困難と判断した[13] [14]。「1つが救われました」と環境活動家からも喜びの声が上がっている[15] [13][15]
2025/9/12 JP 北海道 鶴居村(鶴居村役場&日本エコロジー) 太陽光 タンチョウの生息地である北海道鶴居村で、沖縄県の合同会社「日本エコロジー」が計画していたメガソーラーについて、事業者が計画を見送る意向を村に通知し、村がその予定地の民有地を買い取る方針を固めた[16]。日本エコロジーは「鶴居村と協議の上、景観や環境に影響があると判断したため建設計画を取り止めた」とコメントしており[16]、計画浮上からわずか半年での事業撤回となった。 [16]

※ 出典は各事例の報道記事・自治体公式発表等。

【出典一覧】

[1] 風力発電計画、事業者が撤回
[2] 【18.05.14】九州の久留米市で風力発電計画が中止に 情報を …
[3] 耳納連山に大型風力発電所!?景観悪化にならないか心配 事業化は未定 | 久留米ファン
[4] 熊に風力発電はいらない
[5] 双日が北海道の風力発電計画を中止、資材高騰の影響や地元の反対で – Bloomberg
[6] 青森・八甲田山系の風力発電計画 事業者が白紙撤回 | 河北新報オンライン
[7] 青森で計画の大規模風力発電、地元反発で事業者が撤回 経緯を説明へ
[8] 八甲田山で計画されていた「(仮称)みちのく風力発電事業」が事業廃止に! | 活動レポート | 日本自然保護協会オフィシャルサイト
[9] 市に対し、メガソーラー計画の中止を求める要望書の提出がありました/福島市公式ホームページ
[10] 速報!事業者が撤退を決定!! – 鏡野風力発電を考える会
[11] 勇払原野の風力発電計画中止 大阪ガス子会社 資機材高騰理由に:北海道新聞デジタル
[12] 「安心して生活」住民安堵 大阪ガス子会社の勇払風力計画中止 健康、鳥への影響回避 再エネ可能性探る
[13] 大船渡市のメガソーラー、事業中止に 14年に申請されたが費用高騰 [岩手県]:朝日新聞
[14] 大船渡メガソーラー計画中止 住民の声が環境勝利を勝ち取る – X
[15] 釧路湿原を破壊すると得?批判と規制を強めても「メガソーラー建設」が絶対に減らないワケ | 情報戦の裏側 | ダイヤモンド・オンライン
[16] 鶴居村 計画地を購入へ “メガソーラー”建設見送り

データが語る気候変動問題のホントとウソ

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