北朝鮮の核武装ゲームにおけるジョーカー登場
武力建設における切り札
私は2025年4月、本論において「北朝鮮の核武装は完成の域へ:プーチン・習近平・金正恩の脅威」という論を展開した。北朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は、12月25日に、最高指導者金正恩総書記が「核動力戦略誘導弾潜水艦」の建造事業を視察し、現地で指導したことを伝えた。世界に向けた〝ビッグなクリスマスプレゼント〟といったところか。

キム総書記が視察した原潜
©KCNA 朝鮮通信
写真は、その原子力潜水艦(核動力潜水艦)の現在の姿であるらしい。
総書記は「我々は、武力建設において、超強力な攻撃能力こそが国の安全を守る最大の盾だと見ている」と述べたという。
この原潜の排水量は8700トンで、米国原潜のヴァージニア級だという。
これはいわばジョーカーの登場であり、核武装ゲーム(戦略)の切り札になるものである。
ただ最近の情勢によれば、北朝鮮はロシアとの「血盟関係」の見返りが充分に得られてないようで、原潜開発も先行き不透明の感は拭えない。
核の原潜配備とVLSの意義
4月に論じたように、北朝鮮は核武装を完成するために必須である〝核配備〟の問題に、現実的かつもっとも効果的な手段を手中におさめようとしている。
北朝鮮は国土が広くなく山がちで砂漠などはないので、地上配備(サイロや搭載列車の循環)の適地に乏しい。
そういった国情を鑑みるに、潜水艦+SLBM(VLS:ヴァーティカル・ローンチ・システム)は核武装の完成形として申し分のないものになろう。
VLSはミサイルの垂直発射システムで、垂直方向真上に発射できるので360°全方位に向けて攻撃および迎撃ができるというすぐれものである。また発射機が露天甲板上に露出していないので、保守管理がしやすく同時に耐候性も高い。

装備されたVLSのミサイルセルーMk41型
©Wikipedia

Mk41からのホットローンチの概念図
©Wikipedia
ホットローンチとはミサイル自身のエンジンを燃焼させて発射するシステムのこと
原潜の最大のメリットは、ディーゼル・エンジン式とは違って、きわめて長期間連続潜航を続けることができる。その間、海中に潜んでいるので外敵から捕捉される可能性を著しく低く抑えることができる。
動力である原子炉は、原理的には燃料交換せずに何年でも運転可能である。原子炉の寿命は約30年ともいわれる。ただ、実際には食料の補給や乗組員のQOL(保養)などの制約条件があるので、3ヶ月程度の連続潜航が限界とされている。
1960年に、米国の原子力潜水艦USSトライトンが、潜航したまま世界を一周した(オペレーション『サンドブラスト』)。その時の記録が84日と19時間であった。
連続哨戒(連続した監視・警備活動)の記録は、USSペンシルベニアが2014年1月から6月にかけて記録した140日が最長とされている。

USSペンシルベニア
©Wikipedia
韓国の動向
・原潜
2025年10月30日、韓国を訪問中だった米国トランプ大統領は、自らのSNSに「韓国が原子力潜水艦を建造することを承認した」と投稿した。ただし、これには2つの付帯事項がある。
一つ目は、この建造される原潜には核兵器は搭載せず通常兵器を搭載するということ。もう一つは、原潜の建造は韓国ではなく、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアで建造される見通しであること。
・核武装
韓国の核武装は半世紀以上前からある(本論『ムクゲノ花ガ咲キマシタ:韓国の核武装』)。朴正熙大統領の頃の話である(『890計画』)。
当時の世界情勢からとても許されるものではなかったので極秘裏に計画はすすめられたが当然の如く挫折した。その背景は単純である。韓国はNPT(核不拡散)体制のもとにあり、同盟国である米国の容認がなければととてもじゃないが計画を進めることなどできなかった。
核開発技術のキモである核物質、つまり高濃縮ウランないしはプルトニウム、の製造自体が事実上できなかった───米国が決して認めなかったのである。この辺の苦労は、北朝鮮やイランの歴史と事例をみれば明らかであろう。
・潮目が変わった──核の足枷
現行の米韓原子力協定では、韓国がウラン濃縮や使用済燃料の再処理(プルトニウムの抽出が可能)には米国の事前同意が必要とされている。この足枷ともいえる縛りは、1974年にインドがNPT体制を嘲笑うかのように核実験に成功して以来、より一層強化されてきた。
ところが潮目が変わった。
2025年11月14日、米国政府は韓国によるウラン濃縮および核燃料再処理の権限拡大を「包括的に支持する」ことを安全保障・通商交渉に関するファクトシートに明記したというのである。
このことをして、韓国は核燃料自立への一歩を踏み出したといえるかもしれない。
しかしながら、原潜や核燃料自立は、米国の北朝鮮が最早頑として核放棄などありえないことを実績として着実に積み上げてきた北朝鮮に対するカードに過ぎないと見るべき筋合いのことかもしれない。
どうする日本!?
日本ではいま官邸関係者から〝核保有すべき〟との発言がでてきて一部でハチの巣をたたいたように成っている。
独自核武装がありえないことはすでに幾度となく説いてきた。
日本はNPT体制のもとにある。仮に違反、果ては脱退などしようものなら、日本のウラン輸入の道はたちまちに途絶する。そうすれば、日本の原子力発電は立ち行かなくなる。原子力発電なくしては、DXもGXもない。
わが国は韓国がもしかしたら手に入れるかもしれない核燃料再処理の権利を、米国の許容のもとにとうの昔に手に入れている。1970年代からだから、50年以上が過ぎている。それなのに、いまだに六ヶ所村の国産再処理施設は竣工していない(2026年度中の竣工とは言われてはいるが・・・)。
半世紀を経て平和利用の核自立さえできていないわが日本。そんな核主権の権利はあってもその権利を持て余している国の核保有とは、一体なんだというんだろうか。
不可思議極まりない。
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