民主主義のコストを電力会社に負わせるな

2018年04月02日 18:30
池田 信夫
アゴラ研究所所長
伊方原発(Wikipedia:編集部)

伊方原発(Wikipedia:編集部)

四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年以内に10基が運転開始後40年を迎える。

このまま40年ルールを適用すると、10年後に残るのは32基だが、再稼動を申請していない原子炉が17基ある。「2030年に原子力比率20~22%」というエネルギー基本計画の目標を達成するには25~30基の原発が稼働する必要があるが、新規制基準では1基1000~2000億円の追加的なコストが必要なので、達成できるかどうかは疑問だ。

古い原子炉を閉鎖することが避けられないなら、新しい原発に更新するしかないが、電力会社は政治的に厄介な原発を新たに建設する気はない。直接コストだけを考えると、日本の石炭火力は安くてクリーンなので、原発が廃炉になったら石炭火力に置き換えることが経営合理的だ。

再生可能エネルギーは、ピーク時の補助的な電源としては使えるが、送電コストや環境制約を考えると、10年以内にピークアウトするだろう。したがって原子力と火力との間には次の図の直線のようなトレードオフがある。


3・11の前の原発比率は約30%だったが、自然体にまかせると2030年に動く(新規制基準でも採算の合う)原発はたかだか15基、つまり全電源の10%程度だろう。再エネの比率を(楽観的に)25%としても、火力の比率は65%に増える。

もう一つの制約要因は、温室効果ガスである。パリ協定では、日本は2030年までにCO2の排出量を2013年比で26%減らすことになっているので、今のエネルギー基本計画の想定のように原発20%、再エネ25%で目標が達成できるとしても、火力の比率は55%。政策目標と自然体の間には、原発比率で約10%のギャップがある(エネルギー節約の効果はどっちのケースでも同じ)。このギャップを埋めるには、二つの方法がある。

一つの方法はパリ協定の削減枠を守らないで、火力を増やすことだ。日本のCO2排出量は世界の3.5%程度なので、-26%という目標が達成できなくても大した影響はない。それよりはるかに影響が大きいのは、世界の排出量の28%を占める中国を初めとする発展途上国だから、日本が削減枠を守るより途上国に技術援助するほうが効率的だ。

とはいえパリ協定を公然と踏み超えるわけにも行かないので、もう一つの方法は原発の国有化である。電力会社には原発を新設するインセンティブがないので、政策目標を達成するには、政府が責任をもつしかない。東日本のBWR(沸騰水型原子炉)の原発を国が買い取って原子力公社に再編すれば、10%程度のギャップは埋めることができる。買収費用は、福島第一原発の事故処理費用21.5兆円を国が補助するコストを付け替えればよい。

原子力は国が方針を決めて電力会社がコストを負担する「国策民営」で運営されてきたが、3・11でこの無責任体制は破綻した。このままでは日本から原子力産業は消滅するが、中国は2030年までに100基の原発を稼働させる計画なので、製造業の国際競争力に大きな差がつくおそれが強い。

今後、世界の原子力開発の主役は、中国やロシアのような独裁国家になるだろう。原子力のコストの大部分は、恐怖や国民感情による民主主義のコストである。これは燃料費や建設費のような経済的コストではないので、市場経済では解決できない。政府が原子力を延命するつもりなら、政治的コストは電力会社に負わせないで政府が責任を負うしかない。

This page as PDF

関連記事

  • 地球温暖化の「科学は決着」していて「気候は危機にある」という言説が流布されている。それに少しでも疑義を差しはさむと「科学を理解していない」「科学を無視している」と批判されるので、いま多くの人が戦々恐々としている。 だが米
  • 途上国の勝利 前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。 COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年ま
  • 世の中で専門家と思われている人でも、専門以外のことは驚くほど無知だ。特に原子力工学のような高度に専門分化した分野だと、ちょっと自分の分野からずれると「専門バカ」になってしまう。原子力規制委員会も、そういう罠にはまっている
  • 成長に資するカーボンプライスとは何か? 本年6月に公表された政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においては、CO2排出に政策的なコストをかけてその排出を抑制する「カーボンプライシング」政策につい
  • 「核科学者が解読する北朝鮮核実験 — 技術進化に警戒必要」に関連して、核融合と核分裂のカップリングについて問い合わせがあり、補足する。
  • 日本のエネルギーに対する政府による支援策は、原発や再生可能エネルギーの例から分かるように、補助金が多い形です。これはこれまで「ばらまき」に結びついてしまいました。八田氏はこれに疑問を示して、炭素税の有効性を論じています。炭素税はエネルギーの重要な論点である温暖化対策の効果に加え、新しい形の財源として各国で注目されています。
  • 英国のグラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されている。 脱炭素、脱石炭といった掛け声が喧しい。 だがじつは、英国ではここのところ風が弱く、風力の発電量が不足。石炭火力だのみで綱渡りの電
  • 原子力発電施設など大規模な地域社会の変容(これを変容特性と呼ぶ)は、施設の投資規模、内容にまず依存するが(これを投資特性と呼ぶ)、その具体的な現れ方は、地域の地理的条件や開発の意欲、主体的な働きかけなど(これを地域特性と呼ぶ)によって多様な態様を示す。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑