活断層と再稼動は無関係である
6月22日に原子力規制委員会は専門家会合を開き、日本原子力発電の敦賀原発2号機の直下にある断層について最終判断を保留した。これについて読売新聞は「[委員会の]見解が変わらない限り、2号機の再稼働はできない」と書いているが、これは誤りである。
内閣の答弁書に書かれている通り「原子炉等規制法において、発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」。認可する規定がないのだから、委員会が認可することもできない。委員会は「新規制基準への適合性について審査を行っている」だけだ。両者は並行して行なうもので、今までも安全基準が改正されたとき、運転を止めたことはなかった。
今の状況は、姉歯事件で建築基準法が改正されたときに似ている。このときも設計図の審査がきびしくなって審査期間が延び、住宅着工が半減したが、既存の建物には影響がなかった。今の原発は「すべての建物が新しい基準に対応していることを確認するまで住んではいけない」という行政指導で、全国の人がビルから追い出されたような状態だ。
このような既存不適格に新基準を適用することは、建築基準法できわめてきびしい制限がある。これは憲法で原則として禁止する法の遡及適用にあたるからだ。改正炉規制法では、これをバックフィットという形で認めている。これ自体は世界の他の規制当局も行なっているものだが、財産権の侵害にあたるおそれがあるので、適用対象を具体的に規定し、事業者の同意を得るとか国家賠償するなどの配慮をしている。
ところがGEPRにも書いたように、日本の炉規制法では第43条の3の23の「位置、構造若しくは設備が基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる」と規定しているだけで、具体的なバックフィットの対象を定めていない。
これを広義に解釈すると、委員会はすべての原発を無条件に止めることができるが、そういう恣意的な既存不適格の運用は最高裁判決で禁じている。したがってバックフィットを適用するためには委員会規則などによる規定が必要だが、それが田中私案と称する非公式のメモしかない。独立性の高い三条委員会になったので、他の官庁のチェックがきかないのだ。
敦賀2号機が設置許可を受けた1982年には、耐震設計指針には「過去5万年以降に活動した活断層について配慮する」という規定があるだけで、建設を禁止していない。活断層の上に重要施設を建てることを禁じたのは2012年の改正だから、敦賀2号機には適用できない。適用するためには、委員会規則で「活断層をバックフィットの対象にする」と規定し、委員会が停止命令を出す必要がある。
これは今まで私が話を聞いた専門家(反原発派も含む)の一致した意見であり、安念潤司氏ものべている。このような手続きを踏むまでは、原発は通常どおり運転しながら安全審査を並行して行なうのが通例だ。原発を運転するかどうかを決めるのは委員会ではなく、安倍首相である。
(2014年6月23日掲載)
関連記事
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前回書ききれなかった論点を補足したい。現在の日本政府による水素政策の概要は、今年3月に資源エネルギー庁が発表した「今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)」という資料
-
前回、非鉄金属産業の苦境について書いたが、今回は肥料産業について。 欧州ではエネルギー価格の暴騰で、窒素肥料の生産が7割も激減して3割になった。 過去、世界中で作物の生産性は上がり続けてきた。これはひとえに技術進歩のお陰
-
石炭火力発電はCO2排出量が多いとしてバッシングを受けている。日本の海外での石炭火力事業もその標的にされている。 だが日本が撤退すると何が起きるのだろうか。 2013年以来、中国は一帯一路構想の下、海外において2680万
-
途上国の勝利 前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。 COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年ま
-
福島第一原子力発電所の事故を教訓に民主党政権下で発足した、原子力規制委員会と原子力規制庁。独立性確保の名目の下で与えられた巨大な権力を背景に、その行政活動は明らかにおかしい。法律の無視、そして科学的分析を欠いた恣意的な規制を繰り返す。
-
1.2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向け、国民・消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするため、新たに「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(仮称)を開始します。
-
さまざまな専門家が実名ブログで発言する、言論プラットフォーム『アゴラ』と、 ニコニコ生放送がコラボしました。その名も『ニコ生アゴラ』。第3弾は「被災地の復興を脅かす、『汚染がれき』と除染」がテーマです。
-
Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間