活断層と再稼動は無関係である

2014年06月23日 14:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

6月22日に原子力規制委員会は専門家会合を開き、日本原子力発電の敦賀原発2号機の直下にある断層について最終判断を保留した。これについて読売新聞は「[委員会の]見解が変わらない限り、2号機の再稼働はできない」と書いているが、これは誤りである。

内閣の答弁書に書かれている通り「原子炉等規制法において、発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」。認可する規定がないのだから、委員会が認可することもできない。委員会は「新規制基準への適合性について審査を行っている」だけだ。両者は並行して行なうもので、今までも安全基準が改正されたとき、運転を止めたことはなかった。

今の状況は、姉歯事件で建築基準法が改正されたときに似ている。このときも設計図の審査がきびしくなって審査期間が延び、住宅着工が半減したが、既存の建物には影響がなかった。今の原発は「すべての建物が新しい基準に対応していることを確認するまで住んではいけない」という行政指導で、全国の人がビルから追い出されたような状態だ。

このような既存不適格に新基準を適用することは、建築基準法できわめてきびしい制限がある。これは憲法で原則として禁止する法の遡及適用にあたるからだ。改正炉規制法では、これをバックフィットという形で認めている。これ自体は世界の他の規制当局も行なっているものだが、財産権の侵害にあたるおそれがあるので、適用対象を具体的に規定し、事業者の同意を得るとか国家賠償するなどの配慮をしている。

ところがGEPRにも書いたように、日本の炉規制法では第43条の3の23の「位置、構造若しくは設備が基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる」と規定しているだけで、具体的なバックフィットの対象を定めていない。

これを広義に解釈すると、委員会はすべての原発を無条件に止めることができるが、そういう恣意的な既存不適格の運用は最高裁判決で禁じている。したがってバックフィットを適用するためには委員会規則などによる規定が必要だが、それが田中私案と称する非公式のメモしかない。独立性の高い三条委員会になったので、他の官庁のチェックがきかないのだ。

敦賀2号機が設置許可を受けた1982年には、耐震設計指針には「過去5万年以降に活動した活断層について配慮する」という規定があるだけで、建設を禁止していない。活断層の上に重要施設を建てることを禁じたのは2012年の改正だから、敦賀2号機には適用できない。適用するためには、委員会規則で「活断層をバックフィットの対象にする」と規定し、委員会が停止命令を出す必要がある。

これは今まで私が話を聞いた専門家(反原発派も含む)の一致した意見であり、安念潤司氏ものべている。このような手続きを踏むまでは、原発は通常どおり運転しながら安全審査を並行して行なうのが通例だ。原発を運転するかどうかを決めるのは委員会ではなく、安倍首相である。

(2014年6月23日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 「法則」志向の重要性 今回は、「ドーナツ経済」に触れながら、社会科学の一翼を占める経済学の性格について、ラワースのいう「法則の発展を目的としない」には異論があるという立場でコメントしよう。すなわち「法則科学か設計科学か」
  • ロシアの国営原子力会社ロスアトムが6月、トリチウムの自らの分離を、グループ企業が実現したと発表した。東京電力の福島第一原発では、炉の冷却などに使った水が放射性物質に汚染されていた。
  • 東京都の資料「2030年カーボンハーフに向けた取り組みの加速」を読んでいたら、「災害が50年間で5倍」と書いてあった: これを読むと、「そうか、気候変動のせいで、災害が5倍にも激甚化したのか、これは大変だ」という印象にな
  • 日米の原子力には運転データ活用の面で大きな違いがある。今から38年前の1979年のスリーマイル島2号機事故後に原子力発電運転協会(INPO)が設立され、原子力発電所の運転データが共有されることになった。この結果、データを
  • 全国の原発が止まったまま、1年半がたった。「川内原発の再稼動は今年度中には困難」と報道されているが、そもそも原発の運転を停止せよという命令は一度も出ていない。それなのに問題がここまで長期化するとは、関係者の誰も考えていなかった。今回の事態は、きわめて複雑でテクニカルな要因が複合した「競合脱線」のようなものだ。
  • 日米原子力協定が自動延長されたが、「プルトニウムを削減する」という日本政府の目標は達成できる見通しが立たない。青森県六ヶ所村の再処理工場で生産されるプルトニウムは年間最大8トン。プルサーマル原子炉で消費できるのは年間5ト
  • 停止施設の維持費は只ではない 普通の人は、施設を動かすのにはお金がかかるが、施設を停めておくのにお金がかかるとは思っていない。ところが、2015年4月にMETIの「総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ
  • 欧米エネルギー政策の大転換 ウクライナでの戦争は、自国の化石燃料産業を潰してきた先進国が招いたものだ。ロシアのガスへのEUの依存度があまりにも高くなったため、プーチンは「EUは本気で経済制裁は出来ない」と読んで戦端を開い

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑