“多様性”が壊した街の風景:ドイツで見た移民政策の現実

2025年10月22日 06:50
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作家・独ライプツィヒ在住

Tomas Ragina/iStock

10月16日、ポツダムで開かれた記者会見で、「難民問題についてAfDはずっと先を行っているが、いったいCDUにはどのような戦略があるのか」という質問を受けたメルツ首相が、「もちろん、街の風景に問題があるため、内務省はさらに大規模に違法移民の母国送還ができるよう検討中だ」と答えた。その途端、街の風景が変わったのは難民のせいか?!とばかりに、左翼が大炎上。瞬く間に“人種差別者メルツ”に対する集中攻撃が始まった。

今回、メルツ氏が「街の風景」という言葉を使ったのは、故意だったのか、それともうっかり原稿にないことを喋ったのかはわからないが、左派が激しく憤慨して攻撃モードになるのは、必ず、誰かが「真実」、あるいは「真実に近いこと」を言ったときだ。

今回も、緑の党と左派党の共同党首らはメルツの公式謝罪を求め、公共第1放送の記者までが、「街の風景とはどういう意味か説明しろ」と言い出す始末。ちなみにドイツの公共メディアの8割方は左翼のシンパなのだ。

一方、国民は、メルツ氏の言った「街の風景の問題」がどういう意味かなど、説明してもらわなくても十分にわかっている。たとえば、大きな町の中央駅には、必ず正体不明の男たちが屯し、ゴミが散らばっている。私でさえ、今では市電に乗ったら周りを見て、麻薬で目の死んでいる人や、怖そうな人はいないか、素早くチェックするのが習慣となっているぐらいだ。いずれにしても、昼間はOKだが、夜は一人では絶対に出歩きたくない。

40年もドイツに住んでいる私ははっきり言える。「昔はこんなではなかった」。誰のせいかということは別にしても、ドイツの都会の街の風景が劇的に変わったのは事実だ。

しかも、この現象はドイツの都市だけではない。昨年訪れたオーストリアでも、ウィーンやザルツブルクの中央駅の周辺は、中東の食べ物屋やバーバーショップが並び、あたかもモロッコに来たかのようだった。ヨーロッパの文化は急速に綻びてきている。

移民・難民のもたらす問題は、すでに国民生活そのものにも大きな影響を与えている。暴力沙汰が増えたこともさることながら、たとえば性犯罪では外国人の割合が飛び抜けて高い。

左翼はそれについても、性犯罪では元々、若い男の比率が高く、移民・難民は若い男がほとんどなのだから、その割合が高くなるのは当たり前と庇うが、しかし、国民にしてみれば、もう我慢は限界に来ている。

性犯罪はたくさんありすぎて、すでにニュースにもならないが、時に、独立系のメディアのおかげで国民の目に触れるものもある。

たとえば21年、ハンブルクの緑地パークで、15歳の少女が10人の外国人に襲われるという暴行事件があった。23年4月、1年半もかかった裁判の結果、犯人のうち8人は懲役(1年〜2年)が言い渡されたものの執行猶予付き。1人は無罪で、19歳の男性1人のみが2年9ヶ月の懲役刑となった。

ところが、これには後日談がある。この判決を聞いて腹を立てた20歳の女性が、犯人の一人のことをSNSで罵倒したら、ヘイトスピーチの罪に問われた。そして、裁判所の呼び出しに応じなかったとして48時間の禁錮という罰則を受けた。それを知った市民は、SNSの投稿が婦女暴行より罪が重いのかと怒った。被害者の少女は、今日に至るまでトラウマに苛まれているという。

また、22年には、ノイシュトレリッツで16歳のアフガニスタン人が11歳の少女を暴行したが、犯人は1年の保護観察。やはり同年、オスナブリュッケで30歳のシリア人が15歳の少女を暴行したが、やはり保護観察だけで収監されなかった。裁判長曰く、このシリア人は今、「普通の市民になるための真っ当な道を歩んでいる最中」だそうだ。いずれも、市民としては納得できない判決だ。

ドイツで最近、やはり大きな問題になっているのが「市民金」だ。これは、社民党が導入した自慢の社会保護で、合法的にドイツに住み、お金がない人なら、就労可能か否かに関わらず誰でも受けられる生活保護なので、難民をドイツに惹きつける最大要因となっている。昨年の受給者は550万人で、そのうち就労可能な人が400万人だった。しかも、受給者の半分が外国人で、その中には、国外退去命令の出ている人や、犯罪者も含まれている。

一方、最近、ノルトライン=ヴェストファーレン州のドルトムントで、ドイツ国籍を持った男性7人が、合計122人の子供を自分の子供であるとして認知したことが発覚し、国民を驚愕させた。ドイツ国籍を取得するためのトリックである。

ドイツでは1997年より、男性は、生まれた子供、あるいは生まれてくる子供を自分の子供だと認めるために、公的な証明は要らない。「私が父親です」と役所か公証人に届ければそれで済む。

現在、当局が目をつけているのは、“ナイジェリア=ガーナ”モデルと呼ばれている組織的なもので、西アフリカの国々から女性を連れてきて、まず、売春で搾取し、その後、妊娠をしたら、それを、すでにドイツ国籍を取得している男性に自分の子供として認知させるという手だ。

ドイツの法律では、ドイツ国籍を持った人の子供は自動的にドイツ国籍となり、さらに、そのドイツ国籍の子供の母親は、自動的にドイツでの居住許可が得られる。

ドルトムントにいるあるナイジェリア出身の男性は、一人で24人の子供を自分の子供だと認めたことがわかっている。ちなみに、子供一人の認知の報酬は、数千ユーロだそうだ。

ただ、そのお金を収入として登録しているわけはないから、父親にも母親にも子供の養育費の支払い能力がないとなると、当然、公金で養うことになる。その上、母親に市民金まで支払われているとすれば、莫大なコストだ。

ドイツで一度も働いたことのない外国人を大量に養って、人道的であるような顔をしているドイツ政府の行為は、それを負担している人たちに対する裏切りであると感じる。毎日、一生懸命働き、子育てをしている人たちは、決して裕福な人たちばかりではないのだ。

しかし、社民党はそんなことにはお構いなしで、昨年は法律を改正し、外国人の帰化を容易にした。現在、ドブレント内務相(キリスト教社会同盟)が法律の引き戻しを検討中だというが、どうなることやら。少々遅すぎるのではないか。

移民を大量に入れて成功している国は、私の知る限り一国もない。それなのに、日本政府はこれから大量に入れると言っており、はっきり言って信じがたい。日本の街の風景が、ドイツの都会のように荒廃してしまうことを、私は想像したくもない。それでもいいというような無責任な政治家は、皆で追い払った方がよい。

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