エネルギーの本当のコスト
いま国家戦略室がパブリックコメントを求めている「エネルギー・環境に関する選択」にコメントしようと思って、関連の資料も含めて読んだが、あまりにもお粗末なのでやめた。ニューズウィークにも書いたように、3つの「シナリオ」は選択肢として体をなしていない。それぞれの選択のメリットとコストが明示されていないからだ。
特にあきれるのは、この「0%」シナリオである。2030年のGDPは「自然体」(潜在成長率)に対して46兆円(8%)もマイナスになり、98兆円の成長のほぼ半分が吹っ飛ぶにもかかわらず、そのメリットは何も書いてない。意見聴取会で0%を選ぶ人々が7割を超えたのは、いったい何を選択しているのだろうか。
こういう意味不明なシナリオになるのは、エネルギー源の社会的コストを計算しないで、「はじめに脱原発ありき」という気分で考えているからだ。前にも紹介したEU委員会のExtern E調査によれば、健康被害や温暖化などの外部コストは、次の表のように石炭火力が2.55ユーロセント/kWhに対して、原子力は0.25とはるかに低い。
太陽光(PV)の外部コストは0.83と原子力より高く、風力の外部コストは0.16と低いが、運転にかかる直接コストは原子力より高い(OECD調べ)。原子力の直接コストは石炭火力とほぼ同じで、天然ガスが最低だ。
したがって社会的コスト(外部コスト+直接コスト)を計算すると、次のようになる(ミリユーロ/kWh)。
原子力:36.5〜61.5
ガス:37.2〜46.2
石炭:57.5〜75.5
風力:68.6〜73.6
太陽光:520.3〜861.3
直接コストで考えると天然ガスが有利だが、環境への影響や健康被害などの外部コストを合算すると、原子力とガスの社会的コストが最低で、石炭は高い。風力や太陽光のコストはkWhという出力変動を勘案しない指標で見ているので、バックアップ電源として同等の火力が必要で、立地条件が限られているので供給量に制約がある。
原子力の外部コストには、放射線の健康被害も含まれている。これは2003年の数字だが、福島事故を含めてもOECD諸国の死亡事故はゼロである。原子力は採算性(直接コスト)では天然ガスに劣るが、外部コストを炭素税などで内部化すると、おそらく原子力のコストのほうが低いだろう。
これが経済学の標準的な費用便益分析であり、この結論は多くの専門家の常識である。ここでは便益は電力量(kWh)として標準化されているので、上の定量的な結論は日本にもほぼ同様に当てはまると思われる。国家戦略室は、下らない「シナリオ」ではなく、このようにコスト比較を明記した上で選択を問うべきだ。
(2012年8月20日掲載、アゴラ版)
関連記事
-
7月1日の施行にあわせ、早速、異業種の企業が、再エネに参入を始めました。7月25日時点での設備認定件数は約2万4000件。このほとんどは住宅用太陽光ですが、中でも、風力2件、水力2件、メガソーラーは100件など、たった1か月で、本格的な発電事業が約100事業、生まれた勘定になっています。また合計すると、既に40万kW程度の発電設備の新設が決まったこととなり、今年予想されている新規導入250万kWの1/5程度を、約1か月で達成してしまった勘定となります。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新を更新しました。 1)トランプ政権誕生に備えた思考実験 東京大学教授で日本の気候変動の担当交渉官だった有馬純氏の寄稿です。前回の総括に加えて
-
ドイツでは各政党にシンボルカラーがあり、昨年11月までの政府は、社民党=赤、自民党=黄、緑の党=緑の三党連立だったので、「アンペル(信号)」と呼ばれた。しかし、今は黄色が抜けて、「レッド・グリーン(rot/grün)」政
-
「生物多様性オフセット」COP15で注目 懸念も: 日本経済新聞 生物多様性オフセットは、別名「バイオクレジット」としても知られる。開発で失われる生物多様性を別の場所で再生・復元し、生態系への負の影響を相殺しようとする試
-
過激派組織IS=イスラミックステートは、なぜ活動を続けられるのか。今月のパリでのテロ事件、先月のロシア旅客機の爆破、そして中東の支配地域での残虐行為など、異常な行動が広がるのを見て、誰もが不思議に思うだろう。その背景には潤沢な石油による資金獲得がある。
-
8月に入り再エネ業界がざわついている。 その背景にあるのは、経産省が導入の方針を示した「発電側基本料金」制度だ。今回は、この「発電側基本料金」について、政府においてどのような議論がなされているのか、例によって再生可能エネ
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点⑳に続いて「政策決定者向け要約」の続き。前回と
-
はじめに 原子力発電は福一事故から7年経つが再稼働した原子力発電所は7基[注1]だけだ。近日中に再稼働予定の玄海4号機、大飯4号機を加えると9基になり1.3基/年になる。 もう一つ大きな課題は低稼働率だ。日本は年70%と
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















