地球環境は経済問題『地球温暖化とのつきあい方』

地球温暖化とのつきあいかた [単行本]
杉山大志
ウェッジ
★★★☆
著者はIPCCの統括執筆責任者なので、また「気候変動で地球が滅びる」という類の終末論かと思う人が多いだろうが、中身は冷静だ。人類の出すCO2が原因で地球が2100年までに2~4℃温暖化するというIPCCの予想が正しいとしても、その生態系への影響は、人類のやっている地球環境の破壊に比べれば大したことはないという。
ほとんどの報道はIPCC第5次報告書のSPM(政策決定者むけ要約)にもとづいているが、これはマスコミ受けをねらって誇張されている。たとえばSPMには、2100年までに地球の平均気温が2℃上がると多くの動植物が絶滅するかのような図が描かれているが、人類が1970年から今まで行なってきた大規模な環境破壊は、4℃以上の気温上昇に匹敵する。
もちろんこれは、温暖化を放置してもいいということではない。CO2の排出量を抑制する努力は必要だが、日本はすでに世界一の省エネ先進国である。残るのは再生可能エネルギーの固定価格買取のような高コストの対策だが、こういう方法でCO2を1%減らすには約1兆円かかるという。
だから今後、日本政府がCOP21に向けて2030年までのCO2の削減目標を出すとき必要な予算は、EU並みに1990年比40%の削減を行なうには57兆円、アメリカ並みに2005年比で30%としても36兆円かかることになる。これを15年で割っても、EU並みの対策を実施するにはGDPの1%近いコストがかかる。
環境保護派は「省エネでコストが下がる」とか「環境投資で成長できる」などという夢を振りまくが、日本ではそういう低コストの温暖化対策はやり尽くしているので、残っているのは経済的にマイナスになる対策だけだ。唯一経済的にプラスになる温暖化対策は、原発を再稼動することである。
地球温暖化は、こうした環境と成長のトレードオフで考える経済問題なのだ。政府では「20%台の削減目標」という方向で調整が行なわれているようだが、これだとコストは20兆円以上かかる。環境政策の目的はCO2濃度ではなく、快適な生活を守ることだ。今後マイナス成長になる日本で、さらに成長率を下げる環境政策に、国民の合意は得られるのだろうか。
(2015年4月27日掲載)
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
-
地球が温暖化しているといっても、ごく僅かにすぎない。気温の自然変動は大きい。 以下、MITの気候学の第一人者リチャード・リンゼンと元NASAで気温計測の嚆矢であるアラバマ大学ジョン・クリスティによる解説を紹介する。 我々
-
今年7月から施行される固定価格買取制度(FIT以下、買取制度)再生可能エネルギーで作られた電力を一定の優遇価格で買い取り、その費用を電気料金に転嫁する制度だ。
-
はじめに 経済産業省は2030年までに洋上風力発電を5.7GW導入し、さらに事業形成段階で10GWに達することを目標に掲げ、再生可能エネルギーの主力電源化を目指していた。その先陣を切ったのが2021年の第1回洋上風力入札
-
福島第一原発事故によって、放射性物質が東日本に拡散しました。これに多くの人が懸念を抱いています。放射性物質には発がんリスクがあり、警戒が必要です。
-
一枚岩ではない世界システム 2022年2月24日からのロシアによるウクライナへの侵略を糾弾する国連の諸会議で示されたように、世界システムは一枚岩ではない。国家として依拠するイデオロギーや貿易の実情それに経済支援の現状を考
-
有馬純 東京大学公共政策大学院教授 今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。 【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖
-
3月上旬に英国、ベルギー、フランスを訪問し、エネルギー・温暖化関連の専門家と意見交換する機会があった。コロナもあり、久しぶりの欧州訪問であり、やはりオンライン会議よりも対面の方が皮膚感覚で現地の状況が感じられる。 ウクラ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














