日本は核武装できるのか

2018年06月21日 12:00
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アゴラ研究所所長

米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。

もちろん核兵器の保有は、日米原子力協定のみならず核拡散防止条約(NPT)にも違反するが、これは条約を離脱すればよい。そういう事態は常識的には考えられないが、今の日米同盟の枠組が崩れた場合には、そういうオプションも必要になる可能性はあるので、頭の体操はしておいても無駄ではない。

核武装は憲法違反ではない、というのが従来からの日本政府の立場である。2016年4月にも安倍内閣が「自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、核兵器であっても、必ずしも憲法の禁止するところではない」という答弁書を出した。

では技術的にできるのか。これが日米原子力協定にからむ争点である。アメリカは再処理で純度を高めたプルトニウムはすべて核兵器の材料になると考え、六ヶ所村の再処理工場ではIAEA(国際原子力機関)の査察官がプルトニウムの量を24時間体制で監視している。

これは1970年代に(NPTに入っていない)インドが原発と再処理工場でプルトニウムをつくったことが原因だが、これはCIRUS炉と呼ばれる特殊な原子炉(燃料棒を核兵器用に取り替えることができる)で、日本の軽水炉では同じことはできない。現在の再処理工場でできる純度50~60%の原子炉級プルトニウムでは、実用的な原爆はつくれないからだ。

河田東海夫氏も指摘するように、原子炉級プルトニウムで原爆をつくっても、プルトニウムが発熱して3日ぐらいで自壊してしまう。テロリストがプルトニウムを盗んで「自爆核兵器」をつくることはできるが、核兵器をつくる技術と設備をもつテロリストはいない。

原爆をつくるには純度93%以上の兵器級プルトニウムが必要で、このためには核兵器工場が必要である。この問題は政府も検討し、2006年に「核兵器の国産可能性について」という秘密報告書で「国産化は技術的に可能だが、兵器級プルトニウムを製造できる黒鉛減速炉と再処理設備が必要だ」という結論が出たという。原爆を搭載した小型核弾頭を試作するまでには少なくとも3年かかり、2000~3000億円の予算と数百人の技術者が必要だという。

つまり日本が核武装する技術はあるが、それは現在の軽水炉では不可能だ。原子炉級プルトニウムを兵器級に変換する設備はないので、新たに大規模な設備が必要になる。これをインドのように秘密に行うことは不可能であり、日本が核武装するときはNPTを脱退するしかない。それは日米同盟の破棄を意味するだろう。

今アメリカが余剰プルトニウムを問題にしてきたのは、核拡散を防ぐ政治的な意図だろうが、「プルトニウムの濃度は問わないで核兵器の材料とみなす」というアメリカの立場を認める限り「利用目的のないプルトニウムをもたない」という日米原子力協定を守ることは困難だ。

核燃料サイクルと核拡散は別の問題である。日本が核武装するのはNPTを脱退するときだから、政治的には不可能に近い。したがってIAEAが余剰プルトニウムを監視しているのは意味がない。日米原子力協定を延長するとき、日米でこの点を確認したほうがいいのではないか。

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