今週のアップデート — 可能性の低い低線量被曝の健康被害(2012年1月9日)
福島原子力事故について、「健康被害が起こるのか」という問いに日本国民の関心が集まっています。
私たちGEPRのスタッフは、現在の医学的知見と放射線量を考え、日本と福島で大規模な健康被害が起こる可能性はとても少ないと考えています。GEPRは日本と世界の市民のために、今後も正しい情報を提供していきます。
今週のコラム
1月9日には次のコラムを紹介します。
東京大学准教授の中川恵一氏は『放射線被ばく基準の意味』というコラムを寄稿しました。中川氏は東京大学医学部附属病院の放射線科で緩和ケア診療部長として活動しながら、がんの臨床医として活躍。さらに福島原発事故後は、一般の人への啓蒙活動も行っています。近著に『放射線医が語る被ばくと発がんの真実』(ベスト新書)があります。中川氏は福島の事故の後で国民に不安と混乱が起こっていることを憂慮し、その理由を考察しています。
GEPR編集部は、『発電コストと原発の経済性』という記事を提供します。各種の発電方法のコストをめぐる研究や調査を紹介しています。
論文と報告書の紹介
低線量被曝と健康の関係について、次の論文と報告書を紹介します。
放射線影響研究所(広島市)は『最近の線量推定方式変更が原爆被爆者のがん死亡リスク推定に及ぼす影響』(2004)という論文を発表しています。
この論文は、広島と長崎の被爆者の追跡調査データを使って、健康被害の可能性を検証しています。200mSv以上の被曝をすると、白血病、固形がんのリスクが高まります。一方で、それ以下の低線量被曝では発がんと健康被害の関係は明確ではありません。この論文の解説は近日中に公開します。
内閣府の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」は2011年11月に、『報告書』を発表しています。このWGは、今回の事故の被害地域の被曝上限を20mSvとすることを勧告しています。『発表概要』、『海外の専門家から寄せられたメッセージ』では、福島県民向けに説明が行われています。
ICPR(国際放射線防護委員会)メンバーのロシア人の学者のミハイル・バロノフ氏は、次のコメントを寄せています。バロノフ氏はチェルノブイリの原発事故の研究を行い、事故後の福島にもIAEA(国際原子力機関)の対策チームの一員として1週間滞在しています。次のコメントを発表しました。
1986 年以来 25 年が過ぎました。私たちは、今、公衆衛生上のどのような損害がチェ ルノブイリ事故によって引き起こされたか知っています。損害のほとんどが、1986 年5 月に、汚染された地域で生成された、放射性ヨウ素を含んだミルクを飲んだ子どもの高い甲状腺癌発生率に帰着しました。不運にも、当局と専門家は、この内部 被ばくの危険から、適時、十分に彼らを保護することに失敗しました。福島では、子どもが 2011 年 3 月から 4 月にかけて、放射性物質を含むミルクを飲まなかったことにより、この種の放射線被ばくは非常に小さかったといえます。このため、近い将来あるいは、遠い将来、どんな甲状腺疾患の増加も予想できません。
チェルノブイリ周辺の放射性セシウムに晒された地域の居住者の長期被ばくがどのような影響を与えたかについて、25 年間にわたる細心の医学的経過観察および科学研究は、ブリャンスク地域の人口における特別の疾患の増加を示しませんでした。 また、最近、最も権威のある国際的な専門家により行われた、ベラルーシ、ロシア およびウクライナにおけるチェルノブイリ事故の健康影響の評価でも同様でした。
1986 年のロシアのブリャンスク地域における被ばく状況の比較と 2011 年の福島県の 比較から、日本の人口における放射線起因の特別の疾患の増加はありそうもないと いうことができます。
このメッセージは、日本にとって、とてもよいニュースです。

関連記事
-
地球温暖化というと、猛暑になる!など、おどろおどろしい予測が出回っている。 だがその多くは、非現実的に高いCO2排出を前提としている。 この点は以前からも指摘されていたけれども、今般、米国のピールキーらが詳しく報告したの
-
ポーランドの首都ワルシャワから、雪が降ったばかりの福島に到着したのは、2月2日の夜遅くでした。1年のうち、1月末から2月が、福島においては最も寒い季節だと聞きました。福島よりもさらに寒いワルシャワからやって来た私には、寒さはあまり気にならず、むしろ、福島でお目にかかった皆さんのおもてなしや、誠実な振る舞いに、心が温められるような滞在となりました。いくつかの交流のうち特に印象深かったのが、地元住民との食の安全に関する対話です。それは福島に到着した翌朝、川内村で始まりました。
-
原発事故をきっかけに、日本のエネルギーをめぐる状況は大きく変わった。電力価格と供給の安定が崩れつつある。国策として浮上した脱原発への対応策として、電力会社は「ガスシフト」を進める。しかし、その先行きは不安だ。新年度を前に、現状を概観するリポートを提供する。
-
ちょっとした不注意・・・なのか 大林ミカさん(自然エネルギー財団事務局長)が一躍時の人となっている。中国企業の透かしロゴ入り資料が問題化されて深刻度を増しているという。 大林さんは再生可能エネルギーの普及拡大を目指して規
-
福島第一原子力発電所の事故処理、特にその技術的課題に世間の耳目が集まる一方、その地域に住む人々の暮らしについては見過ごされがちである。しかし私には、事故を起こした原子力発電所とともに生きた経験がある。
-
途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。 全部先進国が撒いた種だ。 ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう: 米国では、西部
-
この度の選挙において希望の党や立憲民主党は公約に「原発ゼロ」に類する主張を掲げる方針が示されている。以前エネルギーミックスの観点から「責任ある脱原発」のあり方について議論したが、今回は核不拡散という観点から脱原発に関する
-
コロナ後の経済回復を受けて米国で石炭ブームになっている。米国エネルギー省の見通しによると、今年の石炭生産量は6億1700万トンに上り、1990年以降最大になる見通しである(p47 table 6)。 更に、アジアでの旺盛
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間