小泉発言、支持するなら朝日新聞らメディアは具体策を示せ — おやおやマスコミ
(GEPR編集部より)エネルギーフォーラム社のご厚意で、同誌12月号掲載のコラムを転載します。
以下本文
原発ゼロをめぐる朝毎読の立場
どういう意図か、政界を引退したはずの小泉純一郎元首相が「ごみ捨て場がないから原発は止めようよ」と言い出した。
朝日新聞は脱原発の援軍が現れたと思ったのか、飛びついた。10月5日付朝刊の「原発容認、自民党から異議あり」、10月30日付朝刊は「小泉劇場近く再演?」など尻馬に乗った記事を載せた。見出しは週刊誌的で面白いが中身はない。
小泉発言で活気付いたのはもっぱら週刊誌。発言を支持するよりおちょくりが多かった新聞も小泉発言は気になると見え、各紙が社説で取り上げた。
毎日新聞10月5日付社説は「かつて『改革の本丸』と郵政民営化に照準を合わせたことを思い出させるポイントを突いた論法だ」とべた褒め。あんないい加減な内容をなぜ褒めるのかと思ったら、読売新聞が10月88日付社説で小泉発言にかみ付いた。
「原発ゼロ掲げる見識を疑う」のタイトルで「小泉氏は原発の代替案について『知恵ある人が必ず出してくれる』と語るが、あまりにも楽観的であり、無責任に過ぎよう」「小泉氏の発言は、政界を引退したとはいえ、看過できない」「処分場の確保に道筋が付かないのは、政治の怠慢も一因と言える。その首相だった小泉氏にも責任の一端があろう」と書いた。
この社説に小泉さんが10月19日付読売新聞朝刊で反論。「日本は原発から生じる放射性廃棄物を埋める最終処分場建設のめどがついていない。核のごみの処分場のあてもないのに、原発政策を進めることこそ『不見識』だと考えている」と書いた。
これに読売新聞論説委員の意見が付けてあり、「めどが付かないというのではなく、めどを付けるのが政治の責任である。廃棄物を地中深く埋める方法は、日本を含め、各国が採用を決めている。問題は、自治体や住民の理解が得られず、候補地が見つからないことだ」と書いていた。その通りだ。
朝日新聞10月22日付社説の表題は「トイレなき原発の限界」。「候補地については、2002年から公募を続けているが、手を上げる市町村がない」と書いた。とんでもない。その前から手を上げた候補地はあった。メディアが一緒になってたたき潰した。
原発ゼロの惨状
脱原発論者は、原発を廃止すれば電気代は安くなると言うが、実状はどうか、脱原発先進国ドイツの現状を毎日新聞ベルリン支局員が10月18日付朝刊「記者の目」で次のように伝えていた。
「ドイツの世論調査では、常に約7割が脱原発に賛成だ。一方で『脱原発のペースが速すぎる』との声も根強い。最大の原因は、高騰する電気料金が市民生活を圧迫している点にある。太陽光や風力など再生可能エネルギーのコストは電気料金に上乗せされるため、標準世帯の電気代は上昇を続け、03年の月平均50・1ユーロ(約6500円)から今年は83・5ユーロ(約1万900円)と10年間で1・7倍に上昇。今後は国民の10人にひとりが電気代を支払えなくなるとの試算もある。8月の世論調査では、脱原発による電気代上昇に6割が反対し『(脱原発の)熱狂が冷めた』(独誌シュテルン)とも分析された。私がドイツに着任したのは福島事故直後の11年4月。当時、原発への拒否感があまりに強いドイツ社会の空気に驚いたのを覚えている。それから2年。ドイツは脱原発の理想と現実に直面している」と書いた。
小泉さんが本気で「原発ゼロ」でやっていけると思うなら、詳細な具体策を示せ。野次馬的発言なら、もういい。役に立たない。
(2013年12月12日掲載)

関連記事
-
アゴラ研究所の行うシンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」の出演者が、GEPRに寄稿した文章を紹介します。
-
田原・原子力船むつというプロジェクトがあった。それが1974年の初航海の時に放射線がもれて大騒ぎになった。私はテレビ東京の社員で取材をした。反対派の集会に行くと放射線が漏れたことで、「危険な船であり事故が起これば、日本が終わる」と主張していた。
-
12月3日放送の言論アリーナ「米国ジャーナリストの見る福島、原発事故対策」に、出演した米国のジャーナリスト、ポール・ブルースタイン氏が、番組中で使った資料を紹介する。(全3回)
-
みなさんこんにちは。消費生活アドバイザーの丸山晴美です。これから、省エネやエコライフなど生活に密着した役立つお話をご紹介できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
-
先ごろドイツの有力紙Die Weltのインターネット版(2013/1/10)に、「忍び寄る電力供給の国有化」と題する記事が掲載された。脱原子力と再生可能エネルギーの大幅拡大という「エネルギー転換」(Energiewende)を果敢に進めるドイツで、なぜ「電力供給の国有化」なのだろうか。
-
はじめに ひところは世界の原発建設は日本がリードしていた。しかし、原発の事故後は雲行きがおかしい。米国、リトアニア、トルコで日本企業が手掛けていた原発が、いずれも中止や撤退になっているからだ。順調に進んでいると見られてい
-
きのうの言論アリーナでは、東芝と東電の問題について竹内純子さんと宇佐見典也さんに話を聞いたが、議論がわかれたのは東電の処理だった。これから30年かけて21.5兆円の「賠償・廃炉・除染」費用を東電(と他の電力)が負担する枠
-
池田・石破さんの意見には、印象に残る点がいくつかありました。メディアがこの問題、安全に傾きがちな面はあるという指摘ですが、小島さん、この点をどう考えますか。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間