小泉発言、支持するなら朝日新聞らメディアは具体策を示せ — おやおやマスコミ

2013年12月12日 12:30
科学ジャーナリスト(元読売新聞論説委員)

(GEPR編集部より)エネルギーフォーラム社のご厚意で、同誌12月号掲載のコラムを転載します。

以下本文

原発ゼロをめぐる朝毎読の立場

どういう意図か、政界を引退したはずの小泉純一郎元首相が「ごみ捨て場がないから原発は止めようよ」と言い出した。

朝日新聞は脱原発の援軍が現れたと思ったのか、飛びついた。10月5日付朝刊の「原発容認、自民党から異議あり」、10月30日付朝刊は「小泉劇場近く再演?」など尻馬に乗った記事を載せた。見出しは週刊誌的で面白いが中身はない。

小泉発言で活気付いたのはもっぱら週刊誌。発言を支持するよりおちょくりが多かった新聞も小泉発言は気になると見え、各紙が社説で取り上げた。

毎日新聞10月5日付社説は「かつて『改革の本丸』と郵政民営化に照準を合わせたことを思い出させるポイントを突いた論法だ」とべた褒め。あんないい加減な内容をなぜ褒めるのかと思ったら、読売新聞が10月88日付社説で小泉発言にかみ付いた。

「原発ゼロ掲げる見識を疑う」のタイトルで「小泉氏は原発の代替案について『知恵ある人が必ず出してくれる』と語るが、あまりにも楽観的であり、無責任に過ぎよう」「小泉氏の発言は、政界を引退したとはいえ、看過できない」「処分場の確保に道筋が付かないのは、政治の怠慢も一因と言える。その首相だった小泉氏にも責任の一端があろう」と書いた。

この社説に小泉さんが10月19日付読売新聞朝刊で反論。「日本は原発から生じる放射性廃棄物を埋める最終処分場建設のめどがついていない。核のごみの処分場のあてもないのに、原発政策を進めることこそ『不見識』だと考えている」と書いた。

これに読売新聞論説委員の意見が付けてあり、「めどが付かないというのではなく、めどを付けるのが政治の責任である。廃棄物を地中深く埋める方法は、日本を含め、各国が採用を決めている。問題は、自治体や住民の理解が得られず、候補地が見つからないことだ」と書いていた。その通りだ。

朝日新聞10月22日付社説の表題は「トイレなき原発の限界」。「候補地については、2002年から公募を続けているが、手を上げる市町村がない」と書いた。とんでもない。その前から手を上げた候補地はあった。メディアが一緒になってたたき潰した。

原発ゼロの惨状

脱原発論者は、原発を廃止すれば電気代は安くなると言うが、実状はどうか、脱原発先進国ドイツの現状を毎日新聞ベルリン支局員が10月18日付朝刊「記者の目」で次のように伝えていた。

「ドイツの世論調査では、常に約7割が脱原発に賛成だ。一方で『脱原発のペースが速すぎる』との声も根強い。最大の原因は、高騰する電気料金が市民生活を圧迫している点にある。太陽光や風力など再生可能エネルギーのコストは電気料金に上乗せされるため、標準世帯の電気代は上昇を続け、03年の月平均50・1ユーロ(約6500円)から今年は83・5ユーロ(約1万900円)と10年間で1・7倍に上昇。今後は国民の10人にひとりが電気代を支払えなくなるとの試算もある。8月の世論調査では、脱原発による電気代上昇に6割が反対し『(脱原発の)熱狂が冷めた』(独誌シュテルン)とも分析された。私がドイツに着任したのは福島事故直後の11年4月。当時、原発への拒否感があまりに強いドイツ社会の空気に驚いたのを覚えている。それから2年。ドイツは脱原発の理想と現実に直面している」と書いた。

小泉さんが本気で「原発ゼロ」でやっていけると思うなら、詳細な具体策を示せ。野次馬的発言なら、もういい。役に立たない。

(2013年12月12日掲載)

This page as PDF
科学ジャーナリスト(元読売新聞論説委員)

関連記事

  • ここは事故を起こした東京福島第一原発の約20キロメートル以遠の北にある。震災前に約7万人の人がいたが、2月末時点で、約6万4000人まで減少。震災では、地震、津波で1032人の方が死者・行方不明者が出ている。その上に、原子力災害が重なった。
  • 筆者がシェール・ガス革命について論じ始めて、2013年3月で、ちょうど4年になる。米国を震源地としたシェール・ガス革命に関して研究を行っていたエネルギー専門家は、日本でも数人であり、その時点で天然ガス大国米国の復活を予想したエネルギー専門家は皆無であった。このようにいう筆者も、米国におけるシェール・ガス、シェール・オイルの生産量の増加はある程度予想していたものの、筆者の予想をはるかに上回るスピードで、シェール・ガスの生産コストが低下し、生産量が増加した。
  • 6月30日、原子力企業Arevaとフランス電力EDFは中国原子力企業CNNC及びCGNとの間で原子炉・核燃料サイクル技術の民生利用に係る協力を推進することで合意した。これに先立つ6月3日、Arevaの原子炉事業をフランス電力(EDF)が取得することがフランス大統領府により承認されている。
  • 環境保護局(EPA)が2014年6月2日に発表した、発電所からのCO2排出量を2030年までに2005年に比べて30%削減することを目標とした規制案「クリーン・パワー・プランClean Power Plan」。CO2排出削減の目標達成の方法として、石炭火力から天然ガス火力へのシフト、既存発電技術の効率向上、省エネ技術の導入による促進などとともに、再生可能エネルギーや原子力発電などの低炭素電源を開発していくことが重要施策として盛り込まれている。
  • ロイター
    ロイター 1月16日記事。サウジアラビアのファリハ・エネルギー相は16日、主要産油国による減産合意を厳格に順守すると語った。
  • Web原産新聞
    7月6日記事。クリントン氏はオバマ大統領の政策を堅持し、再エネ支援などを主張する見込みです。
  • アゴラ研究所の運営する映像コンテンツ言論アリーナ。6月24日はエネルギーアナリストの岩瀬昇氏を招き、「原油価格、乱高下の謎を解く」という放送を行った。岩瀬氏はかつて三井物産に勤務し、石油ビジネスにかかわった。アゴラの寄稿者でもある。
  • nature.com 4月3日公開。「Impacts of nuclear plant shutdown on coal-fired power generation and infant health in the T

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑