総選挙とCOP26:DX時代に日本が美しく、強く、成長するには

2021年10月31日 06:40
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

LFO62/iStock

総選挙とCOP26

総選挙真っ只中であるが、その投開票日である10月31日から英国グラスゴーでCOP26(気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催される。COVID-19の影響で昨年は開催されなかったので2年ぶりとなる。

この間、世の中は随分様変わりした。なかでも、国内外を問わず会議はオンラインが主流になった。これまでは無駄な出張を繰り返していたわけである。気候変動、脱炭素を標榜しながら、世界中から数万人が飛行機を利用してCOPに参加し続けてきたことは、ナンセンスというより滑稽ですらある。

第6次エネルギー基本計画策定

COP26の論戦に備えるかのように、10月22日に第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。この計画では、再エネ依存を36−38%程度という極めて無謀な目標値を設定する一方で、原子力に関しては「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。」という文言がそのまま残された。

この点に関して、私は3.11後一貫して、電源構成における原子力発電の比率はまず40%を目指すべきと言い続けてきた。そしてそのためには、直ちに原子力発電所の〝新増設・リプレース〟に向けて舵を切るべきだと主張している。

2030年の電力需要

ここに興味深いレポートがある。科学技術振興機構に設置された低炭素社会戦略センターは、2030年のIT関連だけでもその電力消費量が、1,480TWh/年(2016年のIT関連消費電力は41TWh、2020年の国内総消費電力は905TWh)になるという予測値を報告している。

仮に、これを全て太陽光発電で賄おうとすると、東京ドーム約25万個分の設置面積が必要になる。笑えないジョークというほかない。不安定で変動し、給電指令に応えられず、広大な土地を要する再エネではDX時代を乗り切れない。脱炭素を目指し、同時に急速な電力需要に応えるには原発に頼らざるを得ないのが現実である。

各党の原子力政策:公明党のくびき

各党の選挙公約に基づく原子力政策は表のようになる。これは、10月17日に都内で行われた気候危機を訴える10代の若者を中心とする団体であるFFF(Fridays for Future)の討論会で、「原発を廃止する予定はあるか。廃止の場合は何年を計画しているか。」に対する各党の政策担当者の回答をまとめたものである。

出典:東京新聞

自民、維新、国民以外は全ての党が積極的な脱原発に向かっている。自民党は消極的脱原発である。これには連立政権を組みながらも、〝できる限り早めに原発ゼロを目指す〟という公明党がくびきになっている。他党と比較してももっとも急進的な部類の脱原発政策である。このことによって、自民党は間接支配されていると言ってもよい。

今後加速していくDX時代に、日本が美しく、強く、成長する国となるためには、原子力発電所の新増設・リプレースは欠かせない。そのためには、自民党がこのくびきから解放され、自立の道を選ぶしかないのではないか。

This page as PDF
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

関連記事

  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
  • 福島原発事故の後で、日本ではエネルギーと原子力をめぐる感情的な議論が続き、何も決まらず先に進まない混乱状態に陥っている。米国の名門カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授であるリチャード・ムラー博士が来日し、12月12日に東京で高校生と一般聴衆を前に講演と授業を行った。海外の一流の知性は日本のエネルギー事情をどのように見ているのか。
  • はじめに 原子力にはミニトリレンマ[注1]と呼ばれている問題がある。お互いに相矛盾する3つの課題、すなわち、開発、事業、規制の3つのことである。これらはお互いに矛盾している。 軽水炉の様に開発済みの技術を使ってプラントを
  • きのうの日本記者クラブの討論会は、意外に話が噛み合っていた。議論の焦点は本命とされる河野太郎氏の政策だった。 第一は彼の提案した最低保障年金が民主党政権の時代に葬られたものだという点だが、これについての岸田氏の突っ込みは
  • 地球温暖化の原因は大気中のCO2の増加であるといわれている。CO2が地表から放射される赤外線を吸収すると、赤外線のエネルギーがCO2の振動エネルギーに変換され、大気のエネルギーが増えるので、大気の温度は上がるといわれてい
  • 9月14日、政府のエネルギー・環境会議は「2030年代に原発ゼロ」を目指す革新的エネルギー環境戦略を決定した。迫りくる選挙の足音を前に、エネルギー安全保障という国家の大事に目をつぶり、炎上する反原発風に気圧された、大衆迎合そのものといえる決定である。産業界からの一斉の反発で閣議決定にまでは至らなかったことは、将来の国民にとって不幸中の幸いであった。報道などによれば、米国政府筋などから伝えられた強い懸念もブレーキの一因と いう。
  • 前回に続き、2024年6月に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書についてお届けします。 (前回:気候カルテルの構図はまるで下請け孫請けいじめ) 今回は、司法委員会の調査に対して気候カルテルが逃げ回って
  • そもそも原子力水素とは何か 原子力水素とは、原子力をエネルギー源として製造される水素のことをいう。2050カーボンニュートラル実現のためには運輸、産業、果ては発電においても水素を利用することがキーポイントなるといわれてい

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑