普及させるほど自然エネルギーはコスト高になる

artJazz/iStock
2021年8月経済産業省は、太陽光、風力、原子力、石炭、液化天然ガスなど電源の2030年における発電コストの精査結果を公表した。この発電コストは、LCOE(Levelized cost of electricity、均等化発電原価)と呼ばれ、発電所を新設した場合の建設や運営にかかるモデル費用である。
分析の結果、太陽光発電の2030年時点のコストが1kWh当たり8.2~11.8円と、原子力より安くなっている。
今回、原子力については安全対策費を上積みした結果、2020年実績の「11.5円以上」よりも増えた。火力(LNG、石炭)は、燃料費やCO2対策費を考慮して上昇傾向であり、洋上風力は2030年時点でなお26.1円であり、他の電源に比べると高い。

このコスト試算について、①送電網への接続費を含んでいない ②風力や太陽光を増やせば発電できない事態に備える石炭火力などのバックアップ電源が必要となるが、そのコストや系統安定化費用も織り込んでいない ③原料コストが不明確などの批判が出されていた。
さて、米国などでも、環境保護主義者、バイデン政権、および一部の州が、低コストで気候変動への対処に役立つとして、風力や太陽光などの再エネへの抜本的なエネルギー転換を推進している。しかし、最近の研究では、すべてのコストを考慮すれば風力や太陽光発電は発電コストが高く、そのような転換は環境的に成立しないことが判明した。
「Journal of Management and Sustainability」6月号に掲載されたラルス・シェミカウ博士らのレポート注1)では、FCOE(Full cost of electricity)の発想を取り入れ、eROI(energy return in energy invested)を議論している。
2021年以降EUなどで起きたエネルギー危機は、電力需要の増加、風力やソーラーによる発電不足、エネルギー原材料の供給不足、地政学的挑戦などによるものであり、価格高騰やエネルギー安全保障問題を引き起こした。そのため、教条的で空想的な「脱炭素」の声もどこへやら、多くの国で石炭火力への回帰や時限的強化が進んでいる。
LCOEは断続性を取り込んでいないので、エネルギーの選択をする場合には不十分な指標である。一方FCOEは、燃料、運転、輸送、貯蔵、バックアップ、排出、リサイクルなど10のコスト要因を挙げ、単位サービス当たりの材料投入量、設備寿命、エネルギー投資収益率の3つの指標で評価するものだ。
再エネについては、電力1テラワットを生産するのに、従来の石炭や天然ガスよりもはるかに多くの物質投入が必要であるという。

1TWに投入すべき原材料 (Other: iron, lead, plastic and silicon, 米国設備利用率に依拠)
出典:DOE 2015, Table10.4, p390
さらに、もう一つの重要な概念であるエネルギー投資収益率(eROI)についても言及している。現代の生活には最低でも5〜7のeROIが必要であるが、太陽光発電や風力発電の場合は2~4と低く、社会全体を支えるには十分な効率でないと指摘する。因みに、原子力と石炭&ガスのeROIは、それぞれ75と30である。
風力発電と太陽光発電の課題は、断続性と低エネルギー密度である。そのため、すべての風車やソーラーパネルには、バックアップ電源や蓄電が必要となりシステムコストが高くなる。世界が100%自然エネルギーに移行すればエネルギー飢餓状態に陥る。
また、著者らは、「風力や太陽光発電は最もエネルギー効率が悪く、材料投入などの対策を考えると、普及させようとする取り組みは成立しないのではないか」と疑問を呈している。
破綻しつつある兆候は、既にEUで散見される。エネルギー政策の策定に当たっては、EUのように再エネに特化するのではなく、我が国が当初から言ってきたエネルギー・ミックスという取り組みが重要である。
エネルギーは地球資源の採掘に始まり、加工、利用となるが、その過程で環境に大いなる負荷を与える。これらのネガティブな影響を最小限にし、在来型のエネルギー資源に対しては、エネルギーと物質効率を向上させる投資を行っていくことが必要である。
注1)Full cost of electricity “FCOE” and energy returns “eROI”, Dr. Lars Shernikau, Prof. William Hayden Smith, Prof. Rosemary Falcon (Vers. 05/2022)
関連記事
-
寿都町長選 世の中は総選挙の真っ只中である。そんな中、北海道寿都町で町長選が10月26日に実施された。 争点は、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場選定に関わる『文献調査』を継続す
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロ
-
Climate activist @GretaThunberg addresses crowd at #FridaysForFuture protest during #COP26 pic.twitter.com/2wp
-
2025年5月22日、米下院はトランプ大統領が「One Big Beautiful Bill(ビッグ・ビューティフル・ビル)」と呼ぶ歳出・歳入一括法案を、賛成215、反対214(棄権1)で可決した。 本法案の柱は、大規模
-
国際環境経済研究所主席研究員 中島 みき 4月22日の気候変動サミットにおいて、菅総理は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度の温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらには50%
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
-
福島原発事故以来、日本のエネルギー政策には世世論から批判を集めます。 確かに、事故の大失態は批判されるべきですが、過去の業績をすべて否定する必要はありません。GEPRの編集に関わる経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏が、過去のエネルギー政策で評価する例を紹介します。
-
夏が本格化してきた。 気象庁は猛暑があると事後的にその理由を分析している。 猛暑の理由は、主に気圧配置やジェット気流などの自然変動とされるが、地球温暖化も背景にある、として言及される。 だが、100年かかって1℃しか上が
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















