米国、CO2を汚染物質とみなす「危険性認定」の撤回へ

idesignimages/iStock
トランプ大統領は就任初日に発表した大統領令「Unleashing American Energy – The White House」において、環境保護庁(EPA)に対し、2009年のEndangerment Finding(危険性の認定、EF)の見直しを指示した。
危険性の認定(EF)とCO2
EFでは、CO2やその他の温室効果ガス(GHG)を「汚染物質」とみなし、大気浄化法(Clean Air Act)に基づき、公衆衛生と福祉に対する脅威と判断している。
このCO2が地球を壊滅的に過熱させる「汚染物質」であるという主張ほど馬鹿げたものはない。CO2の温暖化効果は、大気中の濃度が上昇するにつれて減少することが科学的にも明らかになっている。この「逓減効果」により、仮に現在のCO2濃度を2倍にしたとしても、気温への影響はごくわずかである。
また、EPAは、CO2の恩恵を考慮に入れていないが、CO2濃度の上昇は、植物の成長や農業生産性の向上を促進する「CO2施肥効果」をもたらし、過去数十年間にわたる地球の緑化に寄与してきた。この点については、NASAもその正当性を認めている。
このEFはオバマ政権時代に導入されたものであり、これに基づいてバイデン政権下の化石燃料規制が行われている。そのため、EFを撤回しなければ、化石燃料に対する規制を根本的に覆すことはできない。
しかし、EFの撤回は、環境保護団体や一部の州政府からの強い反発を受けることが確実であり、必然的に訴訟へと発展する。そのため、EFを撤回するには、慎重かつ戦略的な法的アプローチが必要となる。
ここでは、商業訴訟の分野で豊富な経験を待ち、自身が立ち上げたブログ「マンハッタン・コントラリアン(Manhattan Contrarian)」で、公共政策、特に気候変動やエネルギー政策に関して投稿を続けているフランシス・メントン氏の記事を紹介する。
EF撤回の論拠を強化するためのポイントを提案している。
How To Rescind The Endangerment Finding In A Way That Will Stick
EF撤回に関連する主要な裁判例
メントン氏は、EF撤回の正当性を支えると思われる2つの重要な最高裁判決を挙げている。
(1)マサチューセッツ州対EPA(2007年)
最高裁はこの判決で、EPAに対し、CO2やGHGが「汚染物質」に該当するかどうかを判断する義務があると命じた。ここで重要な点は、最高裁自身がCO2やGHGを「汚染物質」と認定したわけではないという点である。つまり、EPAには、独自に新たな判断を下す余地が残されている。
したがって、新たな政権下で、EPAが科学的・経済的な評価をやり直し「CO2やGHGは汚染物質に該当しない」という合理的な結論を下しても、マサチューセッツ州対EPAの判決には違反しないのであり、これは、EF撤回のための法的根拠となる。
(2)ウェストバージニア州対EPA(2022年)
この判決では、EPAのクリーン・パワー・プラン(CPP)が大気浄化法の規制権限を超えていると認定した。この理由は、CPPが「主要な問題の原則(Major Questions Doctrine)」に該当するため、EPAがこのような大規模な規制を行うには、まず議会から明確な指示を受ける必要があるからである。
しかし、この判決にもかかわらず、EPAは2024年に発電所や自動車での化石燃料の使用を制限する2つの規制を発表した。メントン氏は、現在の最高裁が合理的に構成されたEFの撤回を支持する可能性が高いと考えている。
EF撤回に必要な3つの主張
メントン氏は、EF撤回のためには以下の3つの主要な論点を提示すべきだと述べている。
(1)科学的根拠の変化
- 2009年のEFを支えた科学的証拠は、過去15年間の研究結果により大きく覆されつつある。
- 過去15年間に発表された数百の科学論文では、EFが予測した温暖化の危険性が実際には発生していないことが示されている。
- EF撤回の反対派に「EPAの規制対象であるGHGが本当に危険な温暖化を引き起こすのか」を証明させる。
(2)EPAの規制では世界のCO2排出増加を抑制できない
- 2009年以降、中国、インドなどの発展途上国でGHG排出量が急増している。
- EPAの規制が米国内のCO2排出を減らしたとしても、地球全体の排出量にはほとんど影響がない。
- つまり、EPAの規制が「気候変動を防ぐ」という目的を達成できない以上、その正当性は疑問視されるべきである。
(3)化石燃料規制による公衆衛生と福祉への悪影響
- 化石燃料の規制は、エネルギーコストの上昇、電力不足、雇用喪失などの深刻な問題を引き起こす。
- これは100年後の気温上昇よりも、今すぐに現実化する危機として深刻である。
- 「仮説的な1~2度の気温上昇よりも、化石燃料の急速な削減がもたらすエネルギー危機の方が、現実的な公衆衛生と福祉に対する脅威となる」という論理を強調するべきである。
つまり、EF撤回を成功させるためには以下の戦略が必要であると述べている。
- EPAによる新たな科学的・経済的評価の実施
- 「主要な問題の原則」を活用し、議会の権限を強調
- 科学的論争の主導権を握る
- 公衆衛生と経済への影響を前面に押し出す
- 最高裁での法的闘争を想定
おさらい
過去10年間で、規制の影響により全米の石炭火力発電所の40%以上が閉鎖された。石炭火力は、最も経済的で信頼性の高い電力供給源の一つであったにもかかわらず、このような状況が生じている。
全国的に見ても、クリーン・パワー・プラン、厳格な自動車排ガス基準といった政策は、すべてEndangerment Finding(危険性の認定、EF)に基づいて実施されてきた。
このような破壊的な影響は、科学よりもイデオロギーを優先した規制によってもたらされた結果である。
この規則を撤回すれば、石炭鉱山や化石燃料を使用する発電所の閉鎖、エネルギーおよび製造業分野における数千人規模の雇用喪失、電気料金や燃料価格の上昇、さらには停電リスクの増大を引き起こしてきた政策が、必然的に覆ることになる。
アメリカでは、トランプ政権の下、「エネルギードミナンス」を回復しようという動きが始まり、着実に潮目が変わろうとしている。
一方、我が国政府は、本年2月18日、「2040年度温室効果ガス73%削減目標と整合的な形で『第7次エネルギー基本計画』を策定した」と公表した。また、同時に「閣議決定された『GX2040ビジョン』、『地球温暖化対策計画』と一体的に、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現に取り組んでいく」とも発表している。

関連記事
-
昨年12月にドバイで開催されたCOP28であるが、筆者も産業界のミッションの一員として現地に入り、国際交渉の様子をフォローしながら、会場内で行われた多くのイベントに出席・登壇しつつ、様々な国の産業界の方々と意見交換する機
-
前回報告した通り、6月のG7カナナスキスサミットは例年のような包括的な首脳声明を採択せず、重要鉱物、AI、量子等の個別分野に着目した複数の共同声明を採択して終了した。 トランプ2.0はパリ協定離脱はいうに及ばず、安全保障
-
IPCCの第6次報告書(AR6)は「1.5℃上昇の危機」を強調した2018年の特別報告書に比べると、おさえたトーンになっているが、ひとつ気になったのは右の図の「2300年までの海面上昇」の予測である。 これによると何もし
-
先日、「石川和男の危機のカナリア」と言う番組で「アンモニア発電大国への道」をやっていた。これは例の「GX実行に向けた基本方針(案)参考資料」に載っている「水素・アンモニア関連事業 約7兆円〜」を後押しするための宣伝番組だ
-
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦(1月9日放映)」を見た。一部は5分のミニ動画として3本がYouTubeで公開されている:温暖化は新フェーズへ 、2100年に“待っている未
-
2年前の東日本大震災は地震と津波による災害と共に、もう一つの大きな災害をもたらした。福島第一原子力発電所の原子力事故である。この事故は近隣の市町村に放射能汚染をもたらし、多くの住人が2年経った現在もわが家に帰れないという悲劇をもたらしている。そして、廃炉に用する年月は40年ともいわれている。
-
ネット上で、この記事が激しい批判を浴びている。朝日新聞福島総局の入社4年目の記者の記事だ。事故の当時は高校生で、新聞も読んでいなかったのだろう。幼稚な事実誤認が満載である。 まず「『原発事故で死亡者は出ていない』と発言し
-
昨今、日本でもあちこちで耳にするようになったESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉である。端的にいうならば、二酸化炭素(CO2)排
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間