湿度も再現できない気候モデルで大雨も山火事も予測できる筈がない

mesh cube/iStock
地球温暖化の予測に用いられる気候モデルであるが、複雑な地球についてのモデルであるため、過去についてすらロクに再現できない。
地球平均の地表の気温については過去を再現しているが、これは、再現するようにパラメーターをチューニングした結果に過ぎない。そして、それより詳しく見ると、ことごとく過去の再現に失敗している。地表ではなく上空の気温とか、気温ではなく海面水温とか、地球全体ではなくアメリカの気温とかを見ると、どれもこれも、観測と全く違う値をはじき出している。
過去についてこのありさまだから、当然、将来予測を信用しろと言う方が無理である。以上についてはこの記事末尾で紹介する新刊本「データが語る気候変動問題のホントとウソ」に詳しく書いたのでぜひご覧いただきたい。
さて今回も、モデルが過去を再現できないという論文の紹介であるが、今度は湿度である(論文、紹介記事、何れも英文)。乾燥地域および半乾燥地域(arid/semi-arid)についての、大気の比湿(大気1kg中の水分gのこと)の変化が下図Cに示してある。
黒線が観測値で、紫の実線が2021年のIPCC第6次報告書が用いたモデル計算値の平均値。薄い紫は複数のモデル計算の範囲である。いずれも1980-1990年の平均からの偏差で表示してある。
観測では比湿はほぼ横ばいで推移しているのにモデルではどんどん上がり続けていて、両者は一致しない。
同じことを、今度は相対湿度(RH、その気温での最大の湿度に対する比で示したもの。通常言われる湿度何パーセントとは、このこと)について見てみよう。図Dがそれで、図の見方はCと同じである。モデルでは相対湿度はほぼ一定の筈なのに、観測では大きく減少している。
気候モデルの世界では、「地球温暖化で気温が上昇すると、大気が保持できる水分の量が増えるので、雨量が増加する」(クラウジウス・クラペイロンの関係)ということがよく言われており、そのような将来予測が多く発表されてきた。だが、図C、Dを見ると、そのようなことは全く起きてこなかった。
こんなことでは、地球温暖化による雨量の変化だの、大雨の激甚化だの、あるいは山火事への影響だのについて、このモデルを用いて、遠い将来の議論をしてもまるきり無駄であろう。
スーパーコンピューターによる数値計算モデルで将来を予測しているというと、みんな、なんとなく精密に将来が予測できると思いがちだが、そうではない。実際には、過去の再現すらロクに出来ていない。
そして、「将来予測を発表する前に、過去についての再現をまず注意深くやっているのか」と言えば、全くそんなことはしていない。今回のように、論文発表から何年も経ってから、別の研究者の論文による指摘でようやく誤りが発覚する、というのが実態だ。
■

関連記事
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 今回は理系マニア向け。 「温室効果って、そもそも存在する
-
政府は脱炭素政策を進めているが、電気料金がどこまで上がるかを分かりやすい形で公表していない。本稿では、公開資料を元に具体的に何円になるのか計算してみよう。 日本の電気料金は東日本大震災以降、大幅に上昇してきた(図1)。
-
長崎県の宇久島で計画されている日本最大のメガソーラーが、5月にも着工する。出力は48万kWで、総工費は2000億円。パネル数は152万枚で280ヘクタール。東京ディズニーランドの5倍以上の巨大な建築物が、県の建築確認なし
-
福島第一原発の事故は我国だけでなく世界を震撼させた。電力会社に在籍したものとして、この事故の意味を重く受け止めている。
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
-
2050年にCO2をゼロにすると宣言する自治体が増えている。これが不真面目かつ罪作りであることを前に述べた。 本稿では仮に、日本全体で2050年にCO2をゼロにすると、気温は何度下がり、豪雨は何ミリ減るか計算しよう。 す
-
発送電分離、地域独占を柱とする電力システム改革の見直しが検討されています。6月の国会では、審議未了によって廃案になりましたが、安倍内閣は再提出の意向です。しかし、実施によって、メリットはあるのでしょうか。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間