カナダ首相もダボス会議も変節し気候危機論は破綻寸前

Arkadiusz Warguła/iStock
「カナダの存続は米国のおかげではない」カーニー氏、トランプ氏に反論
カーニー氏は20日、ダボス会議で米国主導の世界統治システムが、大国間の競争とルールに基づく秩序の「衰退」を特徴とする「破裂」に直面していると率直に語り、スタンディングオベーションを受けた。
トランプ大統領はこれに憤慨し、翌日の演説でカーニー氏を嘲笑した。トランプ氏は21日、「きのう、カナダ首相の発言を見たが、彼はあまり感謝していなかった」「カナダが存続できているのは米国のおかげだ。マーク、次に発言するときは、このことを覚えておくことだ」と述べた。
カナダ首相、ダボスでの発言撤回を否定 トランプ氏との電話会談受け
カーニー氏は、カナダは関税に対し「国内外のパートナーシップの構築」で対応しており、「米国・メキシコ・カナダ協定を通じて新たな関係を構築することで前向きに対応する用意がある」とトランプ氏に伝えたと述べた。トランプ氏は理解を示したという。カーニー氏は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)の特別演説で、「大国」が経済統合を武器とし関税をテコとしていると、トランプ氏や米国を直接名指しせず指摘した。これにトランプ氏は不快感を示し、カナダは米国のおかげで存在していると表明。カナダが中国との貿易協定を実行に移した場合、カナダに100%の関税を課す考えを示した。
世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でのマーク・カーニーカナダ首相の演説が世界中で礼賛されているようです。日本国内の報道やSNSでも、横暴なトランプに対してカーニー首相は立派だ、といった意見が大半を占めています。
たしかにそのような一面はあるのでしょう。トランプ関税へのけん制や防衛費の抑制など様々な理由があるにせよ、筆者の専門である環境・ESG領域で考えると“あの”マーク・カーニーが変節したことに変わりありません。
カーニー首相のダボス会議での演説全文を読むと、昨年から筆者が指摘している通り今回も気候変動に関する宗旨替えが示されていました。
中堅国が依存してきた多国間制度――WTO、国連、COP(気候変動枠組条約締約国会議)など集団的な枠組みそのもの――が脅かされている。その結果、多くの国が同じ結論に至っています。すなわち、エネルギー、食料、重要鉱物、金融、サプライチェーンにおいて、より大きな戦略的自律性を築かなければならないということです。
私の政権発足以来、所得税、キャピタルゲイン税、企業投資に対する税金を減らしてきました。州間貿易に対する連邦政府の障壁をすべて撤廃しました。エネルギー、AI、重要鉱物、新たな貿易回廊など、1兆ドル規模の投資を迅速に進めています。
カナダは世界が望むものを持っています。私たちはエネルギーの超大国です。重要な鉱物の豊富な埋蔵量を保持しています。
マーク・カーニー氏は2021年、COP26の開催に合わせて「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」を設立し、世界の金融界に脱炭素政策を浸透させた人物です。しかしながら、昨年カナダ首相に就任して以降、立場を180度変えました。トルドー前政権の環境政策を悉く廃止し、炭素税の撤廃、電気自動車義務化の見直し、化石燃料の推進へと舵を切っています。
環境金融の大司教、マーク・カーニーが改宗して化石燃料を推進する
そして今般のダボス会議演説でも 「COPはもはや機能しなくなった」「中堅国はエネルギー、鉱物、金融、サプライチェーンの自律性を確立しなければならない」と訴えました。この発言は、観念的なネットゼロや国際協調の理想を掲げていた人物が現実主義へ転換したことを象徴しています。
カーニー氏の後にイングランド銀行総裁となったアンドリュー・ベイリー氏も、これまでのネットゼロ推進の立場から大きく見解を変えました。ベイリー総裁は「ネットゼロ政策が世界経済の成長を抑制し、供給制約やコスト上昇を通じてインフレ圧力を高めている」と述べました。金融当局のトップがネットゼロ政策自体を成長阻害要因と認めるのは「脱炭素と経済成長は両立する」という建前を否定するものであり、極めて重大な発言です。
そして、日本語メディアではまったく報じられませんが、海外では「ダボス会議のアジェンダから気候変動が消えた」といった言説が数多く見られます。
As Davos Convenes, Deference to Trump Has Replaced Everything
世界経済フォーラムがこれまで掲げてきた典型的なレトリックは、グローバル統合、気候変動、国際協力だったが、もはやそうではない。
過去数年とは対照的に、気候変動やエネルギー転換の必要性、ましてや貿易促進については一切言及されなかった。かつて頻繁に使われた流行語——公正な課税、腐敗防止、持続可能性、社会的公正——は、フォーラムの公式声明からほぼ姿を消した。
At Davos, Talk of Climate Change Retreats to the Sidelines
気候変動はもはやダボスの中心的テーマではなくなった。なぜなら、企業がこの問題について沈黙を守っているからだ。「ダボスのプログラムは、最終的に最高経営責任者が話したいことの反映です」と、世界経済フォーラムの自然と気候センターを運営するセバスチャン・バックアップ氏は語った。そして、CEOたちが話したいことも変わってしまった。6年前、世界最大の資産運用会社ブラックロックの最高経営責任者ラリー・フィンクは、ダボスでの滞在期間を利用してウォール街を結集し、気候変動と戦うために「金融の変革」を約束した。
しかし、共和党からの反発やウクライナ戦争の影響、トランプ大統領のホワイトハウス復帰を受けて、ウォール街は気候対策の公約をほぼ放棄した。金融をより持続可能にするために設計された多くの連携は崩壊している。投資家は四半期ごとにE.S.G.ファンドから数百億ドルを引き出している。フィンクは現在世界経済フォーラムの共同議長を務め、今年のプログラムの形作りに大きく関わっている。このプログラムには数百のパネルやスピーカーが巨大なコンベンションホールや小さな会議室に点在しているが、気候変動に関する議論は、トランプの発言を除いて、最も注目されるプログラムからはほとんど取り上げられていなかった。
かつては気候変動対策への意欲をアピールする場であった世界経済フォーラムだが、現在は気候変動による被害への対処についてより多くを語っている。
世界経済フォーラム(WEF)は毎年、専門家による「今後1年間で世界的な危機を引き起こす要因」に関する調査結果を発表している。2024年には、地球温暖化の主要な症状である「異常気象」が安定性に対する最大のリスクとされた。2025年には国家間の武力紛争に次ぐ第2位に後退。今年は地経学的対立への懸念が首位を占め、この問題は大きく差をつけられた第3位となった。2026年に地球規模の危機を引き起こす可能性が最も高い問題として気候変動を挙げた専門家はわずか8%だった。
カーニー氏やダボス会議の変節は、かつて政財界や国際機関が推進してきた観念的なネットゼロやESGが、経済摩擦や貿易交渉、地政学、国民生活の困窮といった現実に直面し破綻しつつあることを示しています。
トランプ大統領の言動の是非はともかく、これが世界で起きている現実なのです。
他方、我が国では相変わらずESG投資や再エネ推進、サステナビリティ情報開示強化や排出量取引制度義務化などが続いています。政治も経済も、世界で起きている現実の変化に対応すべきです。
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