企業の環境戦略再考:カーボンニュートラル宣言の撤回とその意義

2024年03月07日 06:40

ConceptCafe/iStock

先週、アップルがEV開発を中止するというニュースが世界中を駆け巡りました。EVに関してはベンツも「30年EV専業化」戦略を転換するようです。国レベルでも2023年9月に英スナク首相がEV化を5年遅らせると発表しました。

メガソーラーについては数年前から環境破壊や災害リスクを巡って全国各地で住民と事業者のトラブルが起きており、メガソーラー不要という宣言森林伐採を伴う再エネに課税する自治体も現れました。

退潮著しいESG投資関連では、たとえばゴールドマン・サックスが「パリ協定」気候ETFを閉鎖し、S&PがESG評価の公表をやめました。

つい先日も、JPモルガン・アセット・マネジメント、ブラックロック、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの大手3社がクライメート・アクション100+という世界最大の気候変動投資家グループから離脱したという報道を目にしました。

事程左様に、近年脱炭素やESGが大きな曲がり角を迎えていることは明白です。企業でも国でも自治体でも、状況が変わればいち早く方向転換を決断しなければなりません。

他方、筆者は2023年1月の国際環境経済研究所への寄稿で次の提言を行いました。2022年11月に開催されたCOP27において、クレジット利用によるカーボンオフセットや企業の曖昧なカーボンニュートラル宣言に対する非難が厳しくなると予想したためです。

もしも、日本政府の46%削減を前提としていたり、クレジットの購入を折り込んでいたり、そもそも削減計画に白地があるなど「気合い」の脱炭素宣言である場合は、一旦宣言を取り下げゼロから見直してはいかがでしょうか。その上で、2030年や2050年にこだわらず自助努力による目途が付いた時点で改めて宣言をし直す方が、より誠実な企業経営と言えます。ESGやSDGsを掲げる廉潔な組織であれば、外部から指摘を受ける前に自浄作用が働くはずです。COP27で潮目が変わったことを企業は認識すべきと考えます。

その後、2023年10月のアゴラ記事では2026年以降カーボンオフセットを伴うカーボンニュートラル表示ができなくなることも指摘しました。

2026年からクレジット利用にもとづくカーボンニュートラル主張が禁止されるのに、日本では2023年の改正省エネ法で国がクレジット利用を推奨し、2023年10月11日にカーボンクレジット市場が開設され、2025年からは東京都が中小事業者にも脱炭素条例を拡大しようとしています。クレジット利用を急拡大させた後、2026年以降に「カーボンニュートラル」という表現が使えなくなったら産業界は大混乱に陥ります。

アップルのEV開発には数十億ドルが投じられてきましたが、状況の変化に応じて大胆に戦略を転換しました。ゴールドマン・サックスやブラックロックも同様です。日本企業もESGの終焉やグリーンウォッシングの取り締まり強化などの状況変化を受けてカーボンニュートラル宣言を取り下げる時期に来ているのではないでしょうか。

そこで、企業がカーボンニュートラル宣言を撤回するためのリリース雛型をご提供します。筆者への断りや引用元の掲載は必要ありません。全文・部分利用を問わず、どなたでもご自由に転載、改変いただいて結構です。

202X年XX月XX日

カーボンニュートラル宣言の取り下げに関するお知らせ

当社は202X年XX月に「2050年カーボンニュートラル宣言」ならびに「2030年度に2013年度比47%削減目標」を公表しましたが、これらCO2排出削減にかかわる長期目標を取り下げることについてお知らせいたします。

カーボンニュートラル宣言策定当時は、その根拠として省エネ投資の強化による総エネルギー使用量の削減、第6次エネルギー基本計画で見込まれている2030年46%削減を前提とした購入電力のCO2排出係数低減、PPAを含む自家消費太陽光発電の導入、購入電力の再エネメニューへの切り替えやクレジット購入によるカーボンオフセット等を折り込んでいました。

しかしながら、日本政府のエネルギー基本計画は第5次まで過去に一度も達成したことがなく、第6次についても当初から野心的な目標と言われており、将来の経営計画の根拠とするのは適切でありませんでした。

仮に国全体として2030年にCO2排出量46%削減が達成されたとしても、京都議定書第一約束期間の6%削減達成と同じく森林吸収による相殺分が含まれる場合にはやはり第6次エネルギー基本計画の電源構成は未達となっている可能性が高く、当社の購入電力の排出係数が46%改善されることも期待できません。

また、カーボンニュートラル宣言以降に設置を進めてきた太陽光パネルについて自主調査を行った結果、製造段階における強制労働の疑いを払しょくすることができないという結論に至ったため、すべての自家消費太陽光発電の稼働停止を決定いたしました。当社ではジェノサイドに加担してまで必要とする売上は1円たりともありません。そして、電力契約の再エネメニューやクレジット由来のカーボンオフセットについて精査したところ、みかけ上のCO2排出量をゼロと表現することはできても実態として地球環境へ排出されるCO2がなくなるわけではないことを確認いたしました。

一方で、世の中の動向としては、2022年11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)において、国連専門家チームより企業のCO2実質ゼロ宣言の多くが地球温暖化防止に役立っていない見せかけの「グリーンウォッシュ」であるとの指摘がなされました。

また欧州連合(EU)は2023年9月に不当商行為指令(UCPD)と消費者権利指令(CRD)を改正し、2026年以降は企業がカーボンオフセットを必要とせずに達成できることを証明できない限り「カーボンニュートラル」との主張を禁止することが合意されました。

こうした状況を鑑み、当社では2050年カーボンニュートラル宣言、ならびに2030年47%削減目標を一旦取り下げ、ゼロから再検討することといたします。今後は2030年や2050年などの期限を区切らずに、省エネ活動や人権に配慮した再エネ導入などの施策を積み上げ、正味のCO2排出削減に寄与する現実的な目標を改めて設定し直します。

当社はSDGsの理念に賛同しており、今後も持続可能な社会、ならびに誰一人取り残さない社会の構築に向けて誠実に取り組んでまいります。

対外的なリリースをしなくても(これだけ脱炭素喧騒が続いたのですからひっそり取り下げるのではなく何らかのアナウンスは企業として行った方がよいと思いますが)、従業員向けに社長からメッセージを送ることは重要だと思います。その場合は社内向けの表現にアレンジしてお使いください。

筆者はまだカーボンニュートラル宣言を公に撤回した企業を知りません。ご存知の方はぜひお知らせください。

今後も見せかけ、グリーンウォッシュだと非難される可能性が高まることはあっても下がることは考えられないため、カーボンニュートラル宣言を取り下げて地に足の着いた現実的なCO2削減活動に移行することが誠実な企業経営であり真の企業価値向上につながると思います。

「過ちて改めざる、これを過ちと謂う」といいます。ESGや脱炭素の流行に乗って曖昧なカーボンニュートラル宣言を行ってしまったことは元に戻せません。人間誰しも間違うものです。しかしESGや脱炭素の潮目が変わりました。状況に応じて大胆に転換できず企業価値を損ねることこそが過ちなのです。

『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』

This page as PDF

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑