フェイスブックが温暖化問題を検閲する
アメリカでは地球温暖化も党派問題になっている。民主党系は「温暖化は深刻な脅威で、2050年CO2ゼロといった極端な温暖化対策が必要だ」とする。対して共和党系は「それほど深刻な問題ではなく、極端な対策は必要ない」とする。
大統領選ではフェイスブックなどのSNSが党派性をむき出しにして民主党支持に回ったことは記憶に新しい。

Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ( Wikipediaより)
そしていま、フェイスブックは、温暖化についても「ファクトチェック」で党派性を強めている。
最近になって、共和党寄りの有力なウェブサイトであるブライトバートに掲載された記事に対して「ファクトチェック」が行われ、「この記事は信憑性が極めて低い」と格付けをされた(図1)。

図1 温暖化についてのファクトチェック
このような格付けをされると、当該記事は検索に掛かりにくくなるなど、閲覧、拡散に事実上の制限がかかる。このような検閲手法は「シャドー・バン」と呼ばれている。

alexskopje/iStock
しかしながら、このファクトチェックは、きわめて杜撰である。
ブライトバートの記事は、研究機関GWPFの報告書を取材して書かれたものだ。この報告書は、政府機関等の過去の統計データをレビューしたものである。そこでは、ハリケーンの強度や頻度の増加は起きていないといったこと、そして人類は健康で長寿になり、マラリヤなどによる死亡は大幅に減ってきたこと、等を示している。
だが「ファクトチェック」ではこれに対して、「シミュレーション研究(イベントアトリビューションを含む)では災害は増えているという結果になるから、これを引用しないのはおかしい」、などと言っている。
もとより、報告書で過去の統計データをきちんと精査するという方針にしたことに、何の問題もない。シミュレーションは任意のパラメータ設定だらけであって、過去の統計データとは全然データの質が違う。
更に「ファクトチェック」では、マラリヤなどによる死亡が大幅に減ったのは確かだが、それは温暖化によるものではない、などと言っている。もとより GWPFの報告書は温暖化によるものだなどとは言っていない。まるで見当違いの批判をしている。
この「ファクトチェック」は延々と続くが、見ているとだんだん嫌になってくる。数人の研究者が、報告書をきちんと読みもせずに、党派性だけで、信憑性を貶めるために、結論ありきの「ファクトチェック」をやっているに過ぎない。
GWPFは多岐にわたる反論を公開しているが、フェイスブックは聞く耳を持つのだろうか。
更に悪いことに、フェイスブックは更に検閲を強化するとブライトバートが報道している(図2)。温暖化に関しては「正しい情報はこちら」だとして、フェイスブックが選定したサイトへ誘導する仕組みを作るらしい。

図2 フェイスブックは温暖化関係の記事の検閲を強化する
この画像を見てもわかるように、ブライトバートのニュースは目下のところフェイスブックで多数シェアされている一方で、共和党系のパーラーへのリンクも貼られるようになっている。
これからは、フェイスブックは検閲を強め、共和党系の人々はこれを嫌ってパーラーに乗り換えていくことになりそうだ。筆者記事も、フェイスブックからはシャドー・バンで追放される日が近いかもしれない。
電子版 :99円!
印刷版:2228円
関連記事
-
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
-
東京都の「2030年カーボンハーフ」の資料を見て愕然としたことがある。 工場のエネルギー消費が激減している。そして、都はこれを更に激減させようとしている。 該当する部分は、下図の「産業部門」。CO2排出量は、2000年に
-
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田 浩毅 富士山は日本を代表する「活火山」である。たとえば、『万葉集』をはじめとする過去の古文書にも、富士山の噴火は何度となく記されてきた。地層に残された噴火記録を調
-
アゴラ研究所の運営するインターネット放送「言論アリーナ」。10月1日は「COP21に向けて-日本の貢献の道を探る」を放送した。出演は有馬純氏(東京大学公共政策大学院教授)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はジャーナリストの石井孝明だった。
-
3月上旬に英国、ベルギー、フランスを訪問し、エネルギー・温暖化関連の専門家と意見交換する機会があった。コロナもあり、久しぶりの欧州訪問であり、やはりオンライン会議よりも対面の方が皮膚感覚で現地の状況が感じられる。 ウクラ
-
笹川平和財団が発表した「プルトニウム国際管理に関する日本政府への提言」が、原子力関係者に論議を呼んでいる。これは次の5項目からなる提言である。 プルトニウム国際貯蔵の追求:「余剰」なプルトニウムを国際原子力機関(IAEA
-
経済産業省は東電の原子力部門を分離して事実上の国営にする方向のようだが、これは順序が違う。柏崎刈羽原発を普通に動かせば、福島事故の賠償や廃炉のコストは十分まかなえるので、まず経産省が今までの「逃げ」の姿勢を改め、バックフ
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点⑳に続いて「政策決定者向け要約」の続き。前回と
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















