日本の原発ゼロという夢 米紙ワシントンポスト社説
(GEPR編集部より)野田政権は9月14日、内閣府のエネルギー・環境会議がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」という文章で、2030年代までに原発をゼロにするという国の目標を定めた。しかし政府はこの文章について、拘束力の強い「閣議決定を目指す」としたが、のちに対応を変えた。9月17日にこれを努力目標とする曖昧な扱いにした。(閣議決定文書「今後のエネルギー・環境政策について」)
最近は経済力の低迷で他国の日本への関心は減っている。それでも、2010年に原発の発電量が世界第3位であった日本のエネルギー政策の転換は各国で関心を集め、いくつかのメディアはそれを分析した。米国の有力紙のワシントンポスト(WP紙)は、17日の社説で日本の脱原発政策について解説。これについて「夢」と否定的な見方を示した。
(以下、ワシントンポスト、12年9月17日社説「日本の原発ゼロという夢」(英語本文))
日本が原子力のない未来を夢見ることは容易に理解できる。昨年の福島第一原子力発電所にてメルトダウンの際に、人口密度の高い島国である日本の数千万の住民が緊急避難と狭い国土の汚染を恐れた。しかしながら、今後数十年のうちに段階的に脱原発するという政府の新しいゴールは、経済そして気候への影響という深刻なコストが必要になるだろう。(参考:WP紙記事「Cabinet Panel wants Japan to phase out nuclear power by 2030 in energy policy overhaul」(日本の内閣、エネルギー政策見直しで2030年までに原発ゼロを望む))
事故以前には日本の電力の3分の1は原子力発電によるものだった。現在、この国の50基の原子炉のほとんどが止まっている状態だ。その結果は、電力不足と石油および天然ガス輸入の急増である。これらは日本経済に大きな被害を与えているだけでない。(参考:WP記事、「In Japan, energy saving takes its toll」(日本、節電の負担広がる))この国の人々の生活の質をも損ない、貿易黒字を赤字に変え、今後の日本の二酸化炭素排出量の増加を不吉にも予告するものだ。原発は二酸化炭素をほぼ排出しない。
反原発活動家の主張を取り込み、日本政府は、これらの問題を、太陽光、地熱、風力などの再生可能な電力源に多額の投資をすることによって解決すると主張している。しかし現在のこの種のエネルギーによる発電量を3倍にするという目標の実現可能性とコストについての詳細な計画がないことを認めており、また再生可能エネルギーが強化されるまでに大量の化石燃料を燃やすことによる二酸化炭素排出への影響を制限するための計画もない。
気候変動との戦いは資源を浪費しなくても十分困難なものであり、日本の原子力インフラとノウハウは、安全体制を改定し続ける限り、この戦いの貴重な財産である。今年の政府の報告では、原子力なしに日本がまだ二酸化炭素排出量を2030年までに1990年レベルの25パーセント削減することができるかもしれないと計算している。しかし、政府は現在20パーセント分の削減しか計画を立てていない。(参考WP記事「Phasing out nuclear」原子力を止めること)
しかし、同じ報告書で、電力の5分の1を原子力とすれば、削減を33パーセントに、そして3分の1を原子力とすれば39パーセントできることを明らかにしている。さらにそうした電源を考える際には、今まで原子力が提供してきたような、信頼性が高く、常に利用できるエネルギー源が重要となる。
日本政府は、十分とはいえないが、原発ゼロ計画に少しは余地を残している。新たな原子力の監視機構が安全だと証明した原子炉については、それを再稼動させて40年以上経過した施設のみの閉鎖を目指す。それでも古い原子炉はその耐用年数を20年延ばすことができる。政府はまた、この計画は修正することができるとしており、再生可能エネルギーの振興という大きな賭けが一部の環境保護主義者が予測するように上手くいかない場合は特に将来の新たな原子炉建設の余地を残している。
一部の専門家は、政府の新しい方針は、単に政治的なだけのものであるという。現政権の日本の民主党は、今後数ヶ月の間に開催される選挙で予想される議席の大幅な減少を未然に防ごうとしており、そのために原子力に厳しい話をしているという。これは政府が原発ゼロのレトリックが示唆するように、エネルギーにおいて原子力から離れられないことを表しているのかもしれない。その場合に、日本の国民は操られたと感じるべき理由はあるだろうが、世界第3の経済大国に電力を供給するより柔軟なアプローチの恩恵も受けることになる。
(2012年9月24日掲載)

関連記事
-
まもなく3・11から10年になる。本書は当時、民主党政権の環境相として福島第一原発事故に対応した細野豪志氏の総括である。当時の政権の誤りを反省し、今も続くその悪影響を考えている。 本人ツイッターより あの事故が民主党政権
-
3月27日、フィンランドの大手流通グループケスコ(Kesko)は、フィンランドで6基目に数えられる新設のハンヒキヴィ(Hanhikivi)第一原発プロジェクトのコンソーシアムから脱退することを発表。同プロジェクトを率いる原子力企業フェンノヴォイマの株2%を保持するケスコは、ロイターに対して、「投資リスクが高まったものと見て脱退を決意した」と伝えた。
-
「原発事故に直面した福島のガンの増加の可能性は、仮にあるとして、0.0002%?0.0000の間。それなのに人々は避難を強制され、毎日表示されるガイガーカウンターの数値に囲まれ生活している」。ナレーションの後に原発と、福島の人々の姿、そして除染の光景が示される。これは必要なことなのだろうか
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 日本は約47トンのプルトニウム(Pu)を保有している。後述するIAEAの有意量一覧表に拠れば潜在的には約6000発の原爆製造が可能とされている。我が国は「使用目的のないプルトニウムは
-
5月5日 AFP。ロシアの世界初の浮体式洋上原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ(Akademik Lomonosov)」が4日、デンマークのランゲラン(Langeland)島東の沖合を通過した。
-
滝波宏文参議院議員(自民党)(たきなみ・ひろふみ)東京大学法学部卒。94年に大蔵省(現財務省)に入省。98年米シカゴ大学大学院公共政策学科を修了し修士号取得。05年米国公認会計士試験に合格。09年から11年までスタンフォ
-
民主党・野田政権の原子力政策は、すったもんだの末結局「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」という線で定まったようだが、どうも次期衆議院選挙にらみの彌縫(びほう)策の色彩が濃く、重要な点がいくつか曖昧なまま先送りされている。
-
本委員会は、第64回年次会合(2017年5月29日~6月2日)において、2013年の第68回国連総会に提出された報告書およびそれを支持する詳細な科学的附属書に示されている、2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくと影響の評価を見返した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間