放射性廃棄物の処分、対策の紹介 — 「地中処分」と「核種変換」
処分は場所の問題
原子力発電は「トイレの無いマンション」と言われている。核分裂で発生する放射性廃棄物の処分場所が決まっていないためだ。時間が経てば発生する放射線量が減衰するが、土壌と同じ放射線量まで減衰するには10万年という年月がかかる。
日本だけの問題ではない。世界各国が直面している課題である。以前は深海や宇宙なども処分場として検討されたが、現在は地層処分のみが進められている。課題は候補地の選定法と自治体の受け入れである。
各国の動向
フィンランドでは世界で初めて、2001年に最終処分地がオルキオトに決定された。2004年から建設が開始され、深さ約400mに放射性廃棄物を保管する計画である。スウェーデンは2009年にフォルスマルクを処分候補地に選定した。2011年に建設許可申請が行われた。フランスは1999年に試験対象としてビュール地下研究所の近隣地を選定し、2000年に建設を開始した。現在は処分候補地の選定中で、2025年に操業を予定している。
スイスは2011年に候補地3箇所が選定され、調査が開始されている。英国では公募の結果、西カンブリア地域を対象とし、調査が開始された。ドイツではゴアレーベンでの調査活動が一旦停止されたが、現在は再開されている。中国は2003年に地層処分を行う法律が制定され、甘粛省北山などで調査が開始された。今世紀半ばまでに処分場を建設する予定。
原子力大国である米国では、ネバダ州ユッカマウンテンを最終処分地としたが、計画が中止される方針である。代替方策を模索している。韓国は検討を始めたばかりである。以上のように各国の動向はさまざまであるが、おおむね検討が進んでいる。
日本の検討状況
我が国の地層処分研究は、1976年の原子力委員会の決定を受けて開始された。1999年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が研究成果をまとめている。2005年に地層処分の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、処分費用の積立が始まった。課題は候補地の選定である。2002年から候補地の公募を開始した。
計画では2013年に候補地の調査を開始し、2028年には一つの場所を選定する予定であった。これまでに複数の応募があったが、住民からの反対により取り下げられおり、候補地が見いだせない状況が続いている。
日本学術会議は原子力委員会から国民に対する説明や情報提供のあり方の検討依頼を受け、2012年9月11日に回答書を提出した。回答書では、原子力発電の大局的政策合意に取り組まず、最終処分地を選定することは順序が逆転していることや、科学・技術知見の不足などが指摘されている。(日本学術会議の回答書)
必要な要件
高レベル放射性廃棄物処分場には、必要な条件がいくつかある。地盤が安定であっても、実際に掘削してひび割れがないか、地下水が湧き出していないかなど綿密な調査を行う必要がある。人工構造物として長年に亘り安全に放射性廃棄物を隔離するために必要である。
核分裂で生み出された放射性物質は人間が作り出した人工物質であると勘違いされがちであるが、地球ではウランが豊富な場所において、核分裂反応の形跡から過去には天然の原子炉が存在したことが確認されている。(例・20億年前の現象の形跡である「オクロの天然原子炉」の説明。Wikipediaより)
地殻深くには核分裂生成物として様々な放射性物質が存在し、地球の発熱源としても寄与している。地中埋設は正に核反応生成物を地球に戻すプロセスとも 言える。
放射性廃棄物の特性を適切に理解し、社会全体の課題として適切な候補地を選定することが望まれる。
画期的な処分法
放射性廃棄物の処理方法は、地下に閉じ込めて自然な減衰を待つしかないのだろうか。もう一つ の方法がある。
それは核反応により半減期の短い核種に変換させる技術である。我が国では1988年にオメガ計画(OMEGA: Option Making of Extra Gain from Actinides and fission products)として立案され、90年代に大規模な研究が行われた。半減期の短い核種に変換されれば管理が短期間ですむ反面、初期の放射線量が高くなるため、研究開発には困難を極めた。また膨大な研究費を要したため、研究規模が縮小された。(「オメガ計画の説明」、原子力用語辞典ATOMICAより)
日本に触発され欧米でも同様な研究開発が開始されたが、現在もなお実用化の目処はたっていない。各国で放射性物質の処理が問題になっている中で、今こそ世界共通の課題として国際協力により英知を結集して、新たな放射性廃棄物の処分方法を研究開発すべきである。
藤堂 仁
エネルギー政策総合研究所フェロー。専門分野は原子力工学。
(2012年10月9日掲載)

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