電力カラーリングへの期待と誤解(上) — 誰が発電したか知る方法

2013年06月17日 14:00

IEEI版 

1・電力カラーリングが実現するサービス

映画好きのAさんは最近、自宅に大画面テレビとホームシアターの設備を備えつけた。「大型テレビは電気の消費が増えるからエコじゃないね」と友人に揶揄されたAさん、「我が家の大画面テレビの電気は、北海道の稚内にある風力発電所から届いたものなんだよ」と得意気だ。

電力カラーリングとは、消費者からみると色のついていない「のっぺらぼう」な電気を、どこから来たのか由来がわかるようにする取り組みである。「生産者の顔がみえる野菜」の電気版と言ってもよいだろう。

これが実現すると、この例のように消費者の自宅にある家電製品ごとに、どの発電所の電気を使うかを選べるようになる。また現在、家電量販店はパソコンを販売するときに、インターネットサービスプロバイダの契約もセットにして値引きしているが、電力カラーリングの仕組みを使って、家電製品もその家電向けの電気の小売サービスとセットで販売するようになるかもしれない。

インターネットなどITの世界では、情報の送り手と受け手、そしてその間をつなぐサービスプロバイダの関係がはっきりしている。電気も情報と同じようにやり取りできるようになれば、インターネットと同じように多様なサービスが実現できるようになるのではないか、いわば「電力のインターネット化」が実現するのではないかという期待が、特にIT関係者を中心に高まっているようだ。その一例が東京大学で検討されている「デジタルグリッド」である。

2・現在の電力システムの仕組み

デジタルグリッドの概念を説明する前に、まず現在の電力システムの仕組みを見てみよう。これは大きなプールに例えることができる。実際、米国には「パワープール」いう言葉がある。需要家はこのプールの水(電気)を使い、発電所は使われた分の水を注ぎ込んでいるというイメージだ(図1)。

パワープールが普通のプールと違うのは、その水位をいつでも厳密に一定に保たなければならない点にある。プールの水位は電気の周波数に相当しており、基準となる水位(50Hz(ヘルツ)もしくは60Hz)からのずれが大きくなると、需要家の機器に影響が出たり、発電所が停止したりするという不具合が生じるためだ。このため、いつも使われる量にあわせて、同じ量が発電されていなければならない。


図1 パワープールのイメージ

また風力発電所の電気(緑色)も火力発電所の電気(黄色)も、一旦プールに注ぎ込まれると、プール内を光の速さで伝搬するから、瞬時に混ざり合ってプールから取り出す時にはどこで取り出しても同じ黄緑色になってしまう。一旦プールに入れるとどこから来た電気かもはや区別できないのだ。

やや専門的になるが、電気には直流と交流の2種類があり、現在のパワープール内では基本的に交流が使われている。2つのパワープールをつなげて電気を融通する場合、交流でつなぐ方法と直流でつなぐ方法がある。

交流でつなぐ場合は、隣接する2つのプールの間を水管で連結するのと同じことである。この場合、サイホンと同様の作用が働いて、2つのプールの水位(周波数)は一致する。この状態を「同期」と呼んでいる。また、さきほど説明したとおりプールの中の入った水は光の速度で混ざり合うから、プールAに風力発電所(緑色)、プールBに火力発電所(黄色)があれば、同期している2つのプール内の電気はすべて黄緑色になる。

直流でつなぐ場合はパワープールAの交流の電気を一旦直流にかえてから、今度はパワープールBの周波数にあわせて直流の電気を交流にかえることで、AからBへの融通を実現している。これには交直変換装置という設備が必要になるが、プールの水のくみ上げを行う一種のポンプだと考えればよいだろう。また直流を介することでAとBの周波数が違っても融通が可能だ。

この場合にAの中にある風力発電(緑)の電気をBに融通すると、Aの水をポンプでくみ出してBのプールに入れた瞬間に色が混じりあうから、結局プールBから水を取り出す時には黄緑色になっている。このような理由で、厳密な意味でのカラーリングは困難となっている。

補足すると、日本には9つの電力会社があり、それぞれが合計9つのパワープールを運用している(沖縄電力および離島をのぞく)。これらのパワープールは相互に直流や交流によって接続されている(図2)。

交流で連結した場合は連結されたプールの周波数がすべて同じになるから、青森と横浜、名古屋と鹿児島の周波数は実はそれぞれ完全に同一になっており、全国には大きく分けて50Hzと60Hzの2つの周波数が、さらに厳密に言えば3つの独立した周波数が存在していることになる。(北海道と東京はともに商用周波数が50Hzだが、需要と供給のバランスが少しずれている場合、札幌が50.1Hz、仙台・東京が49.9Hzということがあり得るため)。


図2 わが国の電力システム

また、たとえば西日本の60Hz系統については、同期した6つのパワープールを6つの電力会社が協調して管理している。それぞれのパワープールでは、各電力会社がプールの水位(周波数、6社とも同じになっている)と隣接のプールと接続している水管を流れる水量(地域間の融通電力に相当する)を監視して、これらが一定になるように自社のパワープールに水を注ぎ込むように調整しているのだ。

東北・東京のパワープールも同様に調整されている。このような役割分担を決めることで、周波数が一定に維持され、また電力会社のエリアをまたぐ融通電力についてもあらかじめ設定した量に維持されることになる。

3・デジタルグリッドとは

このように現在のパワープールの仕組みでは、発電所からの電気がプールに入った瞬間に混ざり合ってしまうので、厳密な意味でのカラーリングはできていない。ここで「厳密な意味で」としている理由は後述する。

デジタルグリッドではインターネット(デジタル通信)と同様の仕掛けにより、カラーリングを実現しようとする。まず、現在のパワープールを小さなセル(電力のまとまり)に分割する。そしてそのセル間を交流ではなく直流で接続する。そのための交直変換装置を、東京大学の研究者らはデジタルグリッドルーター(DGR)と呼んでいる。(注1)

((注1)デジタルグリッドの核になっている「ルーター」の考え方は、1995年に東北大学によって提案された「開放型電力ネットワーク」における「パケット電力ルーター」の概念とほぼ同様である。)

セル間をどのように電力が伝搬していくかを説明しよう。図3の右下のセルで電力を使用したいという情報(価格入札情報も含む)が出ると、セル間の情報網を通じてセル間を伝言ゲームのように電力要求情報が伝搬していく。このとき、DGRはまさにインターネットのルーターと同様に情報経路を制御(ルーティング)する役割を果たしている。電力の取引が成り立ちこの要求に答えるセルがあると(図中のPower Source CELL)、そこから電力を送るという回答が元のセルに返され、同時に電力の伝搬経路も確定する。そして経路上のDGRが動作して、送り側のセルのアドレス情報とともに、要求量の電力を伝送するという仕掛けである。

これにより電力の受け手から見て、送り手が誰かがわかるわけだ。ちょうど、インターネット上を情報のパケットが伝送されるのと同じように電力を伝送することから、「デジタルグリッド」と名付けられたのだろう。


図3 デジタルグリッド中の電力伝送(参考文献3、下に記載)

(下)乗り越えなければいけない技術的課題

(2013年6月17日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • アゴラ研究所・GEPRはインターネット放送「言論アリーナ」で、12月25日に「原油価格急落、アベノミクスはどうなる?-プロが分析する2015年のエネルギー」を放送した。 出演はオイルアナリストの藤沢治さん、常葉大学教授の
  • これまでこのブログも含めて、さまざまな場で日本のエネルギー政策に対して私見を述べ続けてきた。積み重ねてきた提言すべてを読んでいただければ、筆者が描いていた一筋の細い道をご理解いただけるかもしれないが、それも難しいであろう。そのためここで改めて、筆者がどのような視点でその時々のテーマを選定し、提言を行ってきたかについて、全体像を整理してお伝えしたいと思う。
  • はじめに 特重施設という耳慣れない言葉がニュースに登場した。特定重大事故等対処施設の略称である。原子力発電所がテロ攻撃等を受けた際、中央制御室から運転員が避難して中央制御室から離れた特重施設と呼ばれる別の場所から原子炉を
  • 中国の環境汚染が著しい。空気、水、温室効果ガスの排出などの点で、急速な工業化と緩い規制によって環境破壊が広がる。しかし正確な情報は国内外に伝えられず、都市部を中心に中国国民の健康被害が伝えられ、政情不安の一因になっているとされる。東シナ海の汚染、PM2・5(微小粒子状物質)などによる大気汚染、酸性雨による日本への影響が懸念されている。温室効果ガスについては、中国は2010年には米国を抜き、世界最大の温室効果ガス排出国になった。中国は全世界のCO2のうち、約25%(日本は約6%)を排出している。
  • 米軍のソレイマニ司令官殺害への報復として、イランがイラク領内の米軍基地を爆撃した。今のところ米軍兵士に死者はなく、アメリカにもイランにもこれ以上のエスカレーションの動きはみられないが、原油価格や株価には大きな影響が出てい
  • 改正された原子炉等規制法では、既存の原発に新基準を適用する「バックフィット」が導入されたが、これは憲法の禁じる法の遡及適用になる可能性があり、運用には慎重な配慮が必要である。ところが原子力規制委員会は「田中私案」と称するメモで、すべての原発に一律にバックフィットを強制したため、全国の原発が長期にわたって停止されている。法的には、安全基準への適合は運転再開の条件ではないので、これは違法な行政指導である。混乱を避けるためには田中私案を撤回し、新たに法令にもとづいて規制手順を決める必要がある。
  • 本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。
  • 近代生物学の知見と矛盾するこの基準は、生物学的損傷は蓄積し、修正も保護もされず、どのような量、それが少量であっても放射線被曝は危険である、と仮定する。この考えは冷戦時代からの核による大虐殺の脅威という政治的緊急事態に対応したもので、懐柔政策の一つであって一般市民を安心させるための、科学的に論証可能ないかなる危険とも無関係なものである。国家の安全基準は国際委員会の勧告とその他の更なる審議に基づいている。これらの安全基準の有害な影響は、主にチェルノブイリと福島のいくつかの例で明らかである。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑