「汚染水、環境への影響は小さい」 — 福島事故で世界の専門家ら(上)

2013年09月30日 14:30

事故を起こした東京電力の福島第一原子力発電所を含めて、原子炉の廃炉技術の情報を集積・研究する「国際廃炉研究開発機構」(理事長・山名元京大教授、東京、略称IRID)(設立資料)は9月27日までの4日間、海外の専門家らによる福島原発事故対策の検証を行った。27日の最終会議の一部が、報道陣に公開された。


写真1 専門家らによる福島第一原発の視察

事故対策をおおむね評価

公表された専門家らの提言は以下の内容だった。

1・事故対策は、現状でおおむね適切な取り組みがなされている。対策に関わる人の努力と懸命さに、視察した専門家全員が深い感銘を受けた。特に4号炉に保管され、当初危険性を懸念された使用済核燃料の取り出し作業が順調に進み、1−3号炉のデブリ(破片ごみ)の片付けの進行で、周辺環境への危険が減少しているのは喜ばしい状況だ。

2・廃炉作業は緊急時の対応から、平常的なものにしなければならない。40年間、持続して行える状況を作り始めなければならない。最優先課題はこれまでの対策で配慮されたように「周辺環境に放射能汚染を拡散させず、近隣の住民のリスクを下げる」ということだ。

3・対策では優先順位を見極め、効果を検証してから実行するべきだ。また選択肢を常に考え、柔軟性を持たせるべきだ。事故処理は40年以上の長期になると予想されるため、対策が将来どのような影響があるかを見極めなければならない。どんな対策でも、目的以外の影響は出るし、不確実性は付きものだ。例えば構造物を建設したとき、将来、作業がしづらくなるなどの影響がでないかなど、慎重な配慮が必要だ。

4・世界的な注目を集める汚染水問題だが、現状では海洋汚染の拡大、それによる周辺や日本各地の住民への健康被害が即座に起こることは考えにくい。その流失防止対策と監視は必要だが、それは他の必要な作業と緊急性を比較した上で実行するべきだ。緊急対策を過度に重ねる必要はない。汚染水問題だけに集中して、他の問題への対策が遅れてはいけない。

5・凍土壁については、慎重に検証を重ねた上で、実施するかを判断するべきだ。地下水を迂回ルートをつくって排出すること、トレンチ(海への水の放出路)をきれいにすることなど、東電の行う対策は妥当なもので、引き続き行うべきだ。ただし地下水を動かすことは地盤の安定性に影響を与えるので、影響の検証を慎重に行うべきだ。(海外専門家らは凍土壁という対策が妥当かどうかの判断は、記者団に述べなかった。)

6・現在の汚染水は原子炉冷却に使った後で、タンクに貯めている。これを、放射性物質を除去して安全性を確認した上で、管理した形で段階的に海に放出することを検討するべきだ。何十年も貯め続ける選択はありえないだろう。現在の技術では、放射性物質のトリチウムを水から分離、除去できない。この物質は、人体への悪影響は少ない。ただし海洋放出では周辺住民、漁業関係者との話し合いとその理解が必要である。

7・ステークホルダー(利害関係者)との関係について、これまでの努力は認めるものの、より深める形にしていくべきだ。対策を透明にして相手が理解するまで進めること、そして成熟した理性的なコミュニケーションが必要であり、それが対策の信頼性を高め実施をスムーズにするだろう。

廃炉技術を世界から集める取り組み

同機構は今年8月に、政府の方針に従って廃炉技術研究、そして日本の喫緊の課題である事故を起こした福島第一原発の廃炉に向けた支援のために作られた。東京電力、電力各社、プラント・メーカー、研究機関がメンバーとなる技術研究組合で、これらと共に技術開発を促進する。政府が事故対策の司令塔の役割として設けた「廃炉対策推進会議」(議長、茂木敏充経産大臣)では、研究開発の計画や情報を提供する役割を担う。

同機構は国内、海外の関係機関、専門家からの助言も集約する。国際エキスパートグループ」という専門家の組織をつくった。英、米、露、ウクライナの専門家6人の委員会だ。今回は第一回の会議で4日間に渡って現場視察、政府、東電、学者との会合をした。

山名理事長によれば、「対策を国際的な広い視点から検証する」という発想のためだ。山名氏は政府・東電による「福島第一原子力発電所1〜4号機の廃炉措置等に向けた中長期ロードマップ
の作成に関わった。そして、その縁で責任を引き受け、理事長職を務めている。「廃炉問題では世界最高水準の知見を提供いただき大きな収穫があった」と評価した。特に、優先順位を考えるべきという指摘は、汚染水問題に忙殺される今、「多くの日本の関係者が、その重要性を認識した」という。


写真2 山名元国際廃炉研究開発機構理事長

東京電力の相澤善吾副社長も多くの気づきがあったと述べた。「対策で評価を得たところは、このまま進む自信を得た。気づきで大きかったのは、『原子力発電所としては異常としても、廃炉現場としては日常、つまり平常作業の積み重ねとなる状態に転換するべき』という指摘だった。これまで事故収束のために、何でも早く着手しようとしていた。ちょうど『戦時から平時へ』を考えていたときだった」という。


写真3 相澤善吾東京電力副社長

また相澤副社長は、凍土壁について慎重な検証を進めるべきという指摘については「重く受け止める」と言う。「凍土壁は、選択の中で一番成果が上がる『切札』と私たちは判断した。しかしチャレンジングな要素が多くあり、国の支援もいただく以上、提言を参考に慎重に対応する」とした。東電は福島原発の山側に、特殊冷却剤を地中に流し、氷の壁を作って水を遮断する「凍土壁」の建設を計画。国がこれに470億円を支出する計画となっている。

さらに専門家らは処理した汚染水を海に放出することを勧めた。相澤副社長は「私たちは漁業関係者の皆様のご了解がなければ、放出はしないと社会にお約束しており、その方針は変わらない。また現時点では、汚染水のタンクからの漏洩などの問題があり、その解決をまず行い、関係者の方のご心配を、少しでも減らした上で次のステップに進む」と述べた。

(石井孝明 アゴラ研究所フェロー、ジャーナリスト)

(下)「成熟したコミュニケーションが必要」-福島事故で世界の専門家ら」に続く。

(2013年9月30日掲載)

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