原発事故、政府の避難指示は適切だったか【原発事故3年】
東京電力福島第一原発の直後に下された避難指示によって、未だに故郷に帰れない避難者が現時点で約13万人いる。
筆者は全村避難指示が出た福島県飯舘村、一部が避難区域になった南相馬市、そして避難指示のなかった福島市を今年2月末に訪ねた。
全村避難によって人の気配がなく、震災以来、時が止まってしまったように見える飯舘村と、復興が進む南相馬の姿が対照的だった。
避難によって、人を住まなくさせる政策は、地域の社会と経済に取り返しのつかない大きな打撃を与える。民主党政権下で行われた政府の決定に改めて疑問を抱いた。
人の気配のない飯舘

写真1 雪に覆われた飯舘村役場と放射線の線量計(上)、そして人の気配のない村内
福島市から車で国道399号線を走り、福島県飯舘村を訪ねた。村は1メートルを越える積雪に覆われていた。標高は450メートル前後の阿武隈山地の村で、村の7割が山林だ。
放射線量は、同じ村の中でもまちまちだった。飯館村役場におかれた放射能測定装置では毎時0・18マイクロシーベルト(μSv)ほどだった。これは年換算1・5ミリシーベルト(mSv)程度になる。ちなみに日本の自然被爆量は年2・4mSv程度だ。
この日、福島県庁が運営する放射能測定マップによれば東京で毎時0・03μSv。また福島駅にあった測定装置では毎時0・2μSvだった。
1986年に事故を起こしたチェルノブイリの医療記録によれば、急性被ばく以外では、累積で300mSv以上の追加被ばくをすると、健康被害に陥る可能性がやや高くなったという。これとの比較によって、私は飯舘村での被ばく線量をまったく気にしていない。しかし、この他地域よりもわずかに高い線量に戸惑い、警戒する人もいるようだ。
ただし同村役場付近の線量の低さは、その近辺で除染が集中して行われたことによるものだろう。そして積雪も影響しているのかもしれない。前出の測定マップによれば、村の周囲では毎時10μSv以上の線量の場所がある。
福島県飯舘村は事故前1700世帯、6200人が住んでいた。一部の居住者は帰宅しているもようで、家は朽ち果てていなかった。しかし大半は雪に埋もれていた。
そして人がほとんどいなかった。車を下りると、一面の雪の中で、静寂の中に包まれた。私は人がいない、雪につつまれた無音の世界を経験したことがなかった。この村は、機能を停止し、人の動きがないまま時間が流れていた。とても不思議な光景だった。
村は全面的な除染を計画しているが、訪問した時は雪のために作業は行われていなかった。そして畑のところどころに、除染ゴミを入れたフレコンバックが置かれていた。永遠に続きそうな工事、そして人のいない村の姿に悲しい気持ちになった。
再建進む南相馬市
一方で南相馬市では希望が見えた。駅前商店街は、他の地方都市と同じように、閉店した店が散見され、「シャッター通り」とも言える状況だった。一方で復興関係者が入っているため、ホテルの予約は満杯が続く。そして市民団体による町おこしイベントも活発だ。
同市では原発事故による放射性物質の降下は限定的であり、市内や周辺の農地では除染が進んだ。そのために市内での放射線量は、県による自動測定でも、NPOによる測定でも、毎時0・2μSv以下のところが多い。
農地の大半で、放射線量は700ベクレル/キログラム(Bq/Kg)程度という。市民の手による放射線量の測定と調査、啓蒙活動を進めるNPOの南相馬除染研究所の箱崎亮三さんによれば、この水準で農作物を作っても、それは国の放射線の食品衛生基準の100Bq/Kg以下になるそうだ。
現地では放射能をめぐる情報を自発的に集め「正確な知識に基づき、問題に向き合い、大丈夫と考えている人が増えている」という。(箱崎氏のインタビュー記事)
南相馬市の山間部で80歳代の女性を訪問した。かつては農業を営んでいたが夫が亡くなり、子供も育ったので、今は近くに住む娘と共に震災前は小規模の菜園で作物作りをしていた。漬け物と餅をいただきながら、美しく、独特な響きを持つ福島弁で話を聞いた。
「昔は山菜とかイノシシとか、山の幸をたくさん食べていたが、今はまったく食べられね。残念だが、みんな元気にやってるべ。イノシシとサルが増えて困ってる。震災前は冬はあんぽ柿づくりが楽しみだったが、いまはやんね。だって放射能は気になるっぺ。柿はぜんぶサルが食ってったべ」。
女性によれば震災と原発事故によって地元の人々、親族の絆が強まり、人々が助け合いながら生活をしているという。土地に根を持つ南相馬の人々はしっかりと生活を再建させようとしている。
事故前から変わらない福島市内
福島市に戻り、30歳の主婦の話を聞いた。3歳の長女、市内の企業に務める夫との3人暮らしだ。本や文章の校正、翻訳、通訳をしている。原発事故をめぐって情報を自ら集め、健康被害はないと判断して、福島市に住み続けている。「気持ちの問題以外、福島は事故前と事故後でそんなに生活に変化はありません」。しかし、娘の幼稚園の母親の中にはパニックになって、夫と別居して避難する人もいたそうだ。
彼女は他地域の人との原発事故の認識のギャップに驚くという。「私たちは普段通り生活しています。それなのに『福島は大変だ』『避難しろ』と、先入観と哀れみを持って連絡して来るのです」。
昨秋、山本太郎参議院議員が、天皇陛下に「子供を助けて」という趣旨の手紙を園遊会で渡して騒ぎになった。この事件を、嫌なものとして思い出していた。
「私たち夫婦は情報を集め、健康被害はないと判断した上で、故郷に住んでいます。山本さんなど、福島以外に住む人が『子供が危険』と誤った情報を流したり、勝手に福島の代弁者になったりしています。これは故郷への悪口であり、私たちをバカにしているようで、とても不愉快です」。
彼女は「東京発の原発事故対策の政策はずれている」と語った。「健康被害の可能性がないのに、避難を強制させるのはばかばかしいこと。このまま帰還が遅れれば、福島県が壊れていくんですよ」。
避難をさせるという政策について、はっきり反対の声はまだ少ない。しかし、この女性のように「このままでいいのだろうか」という疑問を、多くの人が思い始めているのではないだろうか。
一律の避難を押し付ける疑問
2011年3月11日の東日本大震災の後で、12日から13日に福島原発の1−3号機の建屋が断続的に水素爆発を起こした。政府は12日に、事故現場から20キロ圏内の避難を指示した。そして12年3月に、年間被ばく線量が20mSvを下回る「避難指示解除準備区域」、年20−50mSvの「居住制限区域」、同50mSvの「帰還困難区域」に再編した。
現時点では、避難指示解除準備区域は早期の帰還をうながし、「居住制限区域」では除染による放射線量の低下を行い、帰還困難区域の約3万4000人には移住をうながそうとした。
しかし民主党政権では1mSvまでの除染を各自治体が求め、それを容認。そこまでの除染は手間取り、避難がずるずると長引いてしまった。震災関連死は、福島県では昨年末時点で1660人と、震災の直接の死亡による1607人を上回ってしまった。
私は、一連の放射線防護政策に疑問を持っている。事故直後には、被害がどこまで広がるか不明なために、リスクを避けるために一律の避難はやむを得ないだろう。しかし、2011年夏ごろまでに、事故による放射性物質のさらなる拡散の怖れは減少した。そして被ばくによる健康被害のリスクは少ないことが、内外の研究者の調査で明らかになっているた。(札幌医科大学の高田純教授のGEPR寄稿「福島県、放射線量の現状—健康リスクなし」、GEPR翻訳による国連プレスリリース「福島原発事故で差し迫った健康リスクはない–国連報告」)
私が福島の現地でみたように、除染の進行度合い、さらに場所によって残留放射線量は大きく違う。また人々の行動によっても被ばく量は異なってくる。
それなのに政府は地区ごとに避難の形を決め、それを一律に当てはめようとしている。その対応が、負担に見合った効果があるとは思えない。健康被害は、現時点でも起こる可能性は少ないのだ。
さらにこの政府の政策による負担も膨大だ。福島の避難地域の除染には国費が投じられ、他地域は事故当事者の東京電力に請求されている。これまでの総額は不明だが国は事故3年で総額1兆円程度の除染費用を計上している。今後、これは膨らみ続ける予定で、もし表土をはぎ取る形の除染を全汚染地域で行えば総額で28兆円かかるという試算もある。
個人の被ばく線量は、正確な知識を得た上で行動を管理すれば、減らすことはできる。そして生活に必要な場所に除染を徹底して行い、合意した住民を中心に帰還を促進することは可能だ。
地域の繁栄は、人々がそこに集い、生活を営まない限りありえない。福島の復興もそうであろう。民主党政権の行った乱暴で雑な一律避難という政策を続けることによって、福島と日本を壊す必要はない。
(私の除染をめぐる意見は、「福島の除染「1ミリシーベルト目標」の見直しを」(上)(下)で書いたので、参考にしていただきたい。また放射線防護の指針であるICRP111号勧告について、GEPR記事 で解説している)
(2014年3月10日掲載)
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